139話 やめてほしいと懇願する酒場の店主
翌朝、私はいつものように眠たげな顔をして目を覚ました。
まだ意識ははっきりとはしない。ただ、昨日フェクトたちが言っていたことが引っかかっていた。
そんなことを思いつつ、私は重い腰を上げ洗面所で顔を洗う。
顔を洗う、それはとてもいい行為であると考える。まだ朧げな脳を起こすにはちょうど良いからだ。
それに、切り替えるといった行為にも使えるからである。
そうして私は、服を着替えて部屋を出た。
その瞬間の出来事である。突然両隣の扉が開き私が起きてくるのをジッと待っていたかのような顔で、二人が出てきたのだ。
「二人ともおはよう〜」
「おはようさん、アリアはぐっすり眠れたみたいだな」
「アリアおはよう! アリアはいつもお寝坊さんだね」
そんな会話しつつ、階段を降りる。一階に近づくにつれて、騒がしいような気がした。
私は、何かあったのではと思って階段を勢いよく駆け降りた。
そこには、ここの村人たちであろう人たちが、沢山来ている。
窓の方を見ると、外にも集まっているのがわかるほどだ。
「何かありましたか?」
私は、そこにいたおじさんに声を掛ける。おじさんは困った顔をするが、周りからの圧に耐えられなくなったのだろう。重たい口が開く。
「いや、最近魔物の様子がおかしいって話してんだ、そこで旅人に確認してもらうって話になってな」
おじさんは、申し訳なさそうな口ぶりで言ってくる。これは、私たちのことを思っての言い方だろうと理解するのに時間は掛からなかった。
「それはギルドクエストと受け取ってもよろしいでしょうか?」
「仕事をしてもらうんだ、もちろんそのつもりだ!」
おじさんは、勢いよく答えた。ここまで気合いの入った声で言うんだ、嘘ではないだろう。
「私たちは別に構いませんよ、どこまで調査したら良いですか?」
おじさんは後ろに振り返り、どうするか話し合っている様子だ。
それはどこか、話が長くなりそうな予感させていた。
それを流暢に待っている余裕は、私たちにはなかった。その理由は簡単である、私たちはお腹が空いてるからである。
「あの私たち酒場に居るんで、お話が纏ったらそちらで伺いますから!」
私は大きな声で、聞こえるように言った。そうしたのにはは、通り道を開けてもらうためである。
案の定、通り道が出来て私たちは宿から酒場へと向かった。
その道中のことだ、フェクトが口を開いたのは……。
「昨日と変わりすぎじゃねぇか?」
「そうかな、私たちが昨日村の受付が閉まる直前だったらから、早く終わらしたかっただけじゃない?」
「でもさ、昨日の態度見て、機嫌を損ねる奴もいるよ」
ナズナの言葉には説得力があった、確かに言われてみればそうである。
今日、ギルドクエストを受けさせるつもりなら、少しでも愛想よくしていた方が、今後の関係性を作るうえでは重要なことだ。
昨日の塩対応、あれに対してなんら説明のないまま行くとなると、仕事をやる上で疑問が出てしまうのも仕方ないことかもだ。
「でもさ、私たちを頼ってくれてるんだし無下には出来ないよ」
「それもそうだな、変なこと言って済まなかった」
「わたしもごめんなさい」
二人は申し訳なさそうにしているが、私には謝られる理由がない。
「別に謝らなくてもいいよ、私は剣聖や冒険者関係なく、助けたいと思っただけなんだからさ」
そうして酒場で朝食していると、先ほどのおじさんと一眼見ただけでわかるこの村の村長が窓から見えた。
それを横目に見つつ、水で食べ物を流し込んだ。
「待たせて済まなかった、中々話し合いがまとまらなくてな」
「別に問題ないありませんよ、それよりそちらの方を紹介していただいても?」
おじさんは、ハッとした表情している。
「ワシは、ここの村長しているフルじゃよろしく頼む」
「私は、冒険者アリア、こっちはフェクトとナズナ」
二人は紹介されたのち、軽く会釈する。特何を会話するでもなく、ただ紹介されたから、それに応えたような様子である。
「それで、クエストの方は?」
「先ほど言った通りでお願いしたい、報酬はちゃんと出すのでよろしくお願いします」
私たちはそれに了承した。そして、彼らが酒場を出ていくのを確認して、私はため息をついた。
「どうしたんだ急に?」
「いや、あのおじさんやたら報酬を出すって言ってるのが気になってね」
フェクトは、少し思い出しているのか上を向いている。そして思い出したのか、反応が変わる。
「確かにな、言われてみればそうだ」
ここで簡単に考察するとすれば、考えられる要因は限られてくる。
その一、報酬を渡すと言い仕事をしてもらうため。
その二、以前、トラブルが起きたため。
その三、何度も言っておかないと不安だから。
「とりあえずご飯も食べたし、そろそろ行こうよ!」
ナズナは、体を動かせるとなるとテンションが高くなっている。
「そうだね、行こうね」
私たちが、席を立ち上がったその時である。机の前に店員さんが現れ、何か言いたげな表情させこちらを見ている。
「あ、もしかしてここでお会計した方が良いですか?」
「あ、いえそう言うことではなく」
何か、言うか言わないべきか、考えている様子なのが窺える。
一度深呼吸して、彼女は話始めた。
「あ、あの魔物の調査待ってはもらえませんか!」
店内には、私たち以外居ない。だからこそ、彼女は言ってきたのだと断定できる。
「それはどうしてかな?」
私は、少し優しい口調で話しかける。彼女にとっては、この行動は、相当勇気のいる行動である。
だからこそ、聴く側が包み込まないと勇気ある行動は、水の泡のように消えてなくなるのだ。
「今、そのクエストを受けて何名も行方不明、もしくは死体となって戻ってきているのです」
その言葉は、あまりにも私たちの想像を超えるものだと言える。
流石に驚いて、何も言うことが出来ない私たち。
「もう一度言います、クエストを受けるのを辞めて、この村から出て行った方がいいです」




