129話 第五王子はちゃんとミニシアを愛しているようだ
朝食を終えた私たち、そこでは優雅な時間が流れていた。イデリアは、仕事があると出社し、ガードは食材を買いにと出て行ったからだ。
「なんか王都に来てから、色んなことがあったよな」
「遠い過去みたいな事のように言わないでよ」
「そうだぞフェクト、昨日あったことだぞ!」
私たちは、リビングの椅子で優雅にそんなことを話しながら時間を溶かしていく。
まだ王都を出発するまでには時間がまだまだある。だからこそ、こんなんにも優雅に過ごせるのだろう。
「でもさ、クエスト行きたいよね」
ふと思ってしまったのだ。ただ、ゆっくりしてればいいことなのに、体は戦いを求めている。
それが冒険者なのだろうかと、自分勝手に納得していく。
「それはわかる、でもよ何のクエスト受けるんだよ」
「わたしは、やっぱり討伐系!」
ナズナの元気な声は、部屋全体に響き渡る。それだけ、そういったクエストを受けたいということなのだろう。
私は、重い体を起き上がらせ身支度を整える。
「おそらく軍の奴らは、諦めたりしないと思う、動くんだったら、早めに動こう」
「それもそうだな、ガードには俺が伝えておく」
そうして私たちは、ギルドまで行くこととなった。
街は完全に復旧されているが、まだいつものような賑わいはないといった印象を受ける。
それに子供の出歩いている数も、少ないと印象を受ける。おそらく、親が自粛させているのだと考えられた。
それだけ、昨日の事件が心に傷を宿したということであろう。
そんなことを思いつつも、私たちは歩みを止めることはない。
止めた瞬間、遠くから見張ってる奴らに取り囲まれて面倒である。
「それにしてもさ、イデリアの忠告を聞かないなんて相当の度胸よね」
「そうだな、最大権力を持つ二人を敵に回せばどうなるか想像はつくのにな」
おそらく今、私と会いたいと思っているのは第五王子である。
その理由は簡単だ、私との接点をより深いものにすれば得なのはアイツだからだ。
それに軍にも牽制として、使える有効手段と言えるであろう。
「とりあえずギルドに着いたけど、出る頃には囲まれてるって思ってもいいかもね」
そうして、ギルドを開けると私たちを一斉に見る視線の数々が飛んでくる。
一体何事だ、そう思ってしまうほどだ。それにそんなに向けられたたら恥ずかしさがある。
「やぁ剣聖様、待っていたよ!」
その声は、第五王子である。それも酒瓶で朝からエールを飲みながら登場とは、王子とは思えない。
「そんな顔をしないでおくれよ、せっかく会いに来たんだからさ」
第五王子は、ニコッと笑いながらエールを飲み干していた。王子とは思えないほどのいい飲みっぷりとここは褒めていおこう。
「それで王子がなんのようなんだ?」
「君たちが今、軍の奴らに狙われているでしょ、それを辞めさせようと思ってさ」
どうやら、今日は厄日のようだ。朝からあんなことに巻き込まれたと思ったら、次は第五王子。
なんとも言い難い日だ。
「それはありがたいけど、軍としてはメンツがあるんじゃねぇ?」
「そんなメンツいらないでしょ、剣聖様には頼みたいこともあるしね」
バッサリ言うあたり、そこはやはり人の上に立とうとするお方だと、再認識できる。
それに、王子自ら頼みたいことなんて、明日は斬撃の大雨が降り続けそうだ。
「そんな意外な顔をしないでおくれよ、頼みたいのはミニシアのことなんだ」
その顔は、先ほどまでとは違う。とても深刻そうで、今すぐにでも駆け出したいと言わんばかりの顔付きである。
「順調でなによりだ、ミニシアの件は聞かなくてもわかる」
「それでも詳しい話がしたい、上で話そう」
そう言って、ギルマスとともに階段を上がって行った。
フェクトもナズナ顔を見なくてもわかる。不思議そうな顔をしているのがわかるからだ。
「おそらく上で話があるから大丈夫だよ」
私は二人にそう言って、後を追った。
「それでミニシアが危ないってことだろ」
私は、時間が勿体無いと思ったのかすぐに本題に入った。そのほうが、王子としても気楽であろう。
私と長話で体力を使わせるより、よっぽどいいルート選択である。
「ミニシアは、自分の言動も相まって命を狙われているだろ、それが明確な意味を持ち始めてきた」
明確な意味……すなわち、命を奪おうと画策し始めたということだ。
それが公になれば、おそらくミニシアの価値が地に落ちるだろう。
ミニシアは、国内における信頼は高くはなっているが、命を狙われるほど恨まれていると知ったら、手のひらをひっくり返す人も多い。
それだけ、ミニシアは危ない橋を渡っているということだ。
「例えばどんな被害があった?」
「ランニング中、刃物を投げられたとか、襲いかかってくる輩がいるとかです」
おそらく、これはもう作戦のうちに入っているだろう。近いうちに、ミニシアは家から出なくなる。
それかこちらに避難するかの二択であろう。
でも王都で生活するには、お忍びとは行かなくなる。大々的に新聞の見出しを飾ることとなる。
それに、おそらく短の人が犯人なのは間違いない。
「話はわかった、でも私は起こりうる瞬間にしか行くことはできない」
「あなた方が動けば、すぐに伝わってしまうからですか?」
「その通りだ、そして何より犯人は私の出現を嫌うはず」
私がミニシアの所に行けば、犯人は手を出してこない。ただ、それでは一向に解決には向かわない。
それに、私の足止めする日が必ずあるはずだ。おそらく、そうなればまた通信は外部に漏らすことはできなくなる。
それの実験をおそらく、昨日したはずだ。
それだけ用意周到なら、必ず似たような日に作戦を用いるが多いといえるであろう。
「とりあえず話は伝えた、私もこれ以上は無理なので」
「おそらく次は、あの国で王都と同じことが起きるでしょうね」
そうして私は、ギルドから適当にクエストを受注し運動がてら、目的の場所に向かうのであった。




