128話 朝からの一幕
私の顔を見るなり、フェクト、ナズナ、番人はとても心配した顔でこちらを見つめてくる。
ナズナは今にでも涙がこぼれ落ちそうな顔になっている。
「三人ともおはよう」
とりあえず私は、挨拶してみることにした。それが、彼女らが安心できるとできないとかは置いておいて、それが最善だろうと思ったからだ。
「おはようじゃねぇよ本当によ、どれだけ心配したと思ってるんだよ」
フェクトは、愚痴をこぼすかのように言う。だが、その顔は、決して愚痴をいう顔ではない。
心から心配した顔だ、それほどまでに私が何かをやらかしたのだろう。
「ここからはあなた様をマスターと呼びましょう、マスター、あなたはとてつもなくうなされていたのです」
番人は、淡々と言い始めた。
「うなされていたっていうけれど、どうして気がついたの?」
番人は、やはりそれを聞いてくるかと言わんばかりの顔でこちらを見つめ言ってくる。
「私はこの家の番人でございます、マスター、お仲間に異常が生じれば、すぐにわかります」
私はあることを思い出していた。それは、決戦が始まってすぐのことだ。
私がこの家で倒れていた時、すぐに番人がどうにかしようとしてくれていた。
それでようやく点と点が繋がった。
「そういうことだったのか、心配をかけたね」
「いえ、これも私の務めですから」
そして番人は形を変え、あらかじめ用意しておいたであろう人形に力を移し替えた。
私たちは、いきなりのことで驚いたが番人は平然とした態度だ。
「その姿って?」
番人は、中性的な見た目となり、男の娘と言った方がいいのだろうか? そんな見た目に変換される。
「この姿は、あなた方三人を織り交ぜたような見た目です」
私は思わず頷いてしまった。
「改めまして私は、ガードと申します。活動範囲は王都のみとなっております」
「ガード、それだったら俺たちの留守中はどうするんだ? ずっとこの家にいるつもりか」
「その通りです、おそらくですがここは年がら年中騒がしくなりますよ」
ガードは、意味深なことを言う。しかもそれはもう運命が決まっているような物言いだった。
ガードには、何が見えているのか私にはさっぱり分からない。
ただ一つ言えることは、この状況を楽しんでいるようだ。
「とりあえずそろそろ起きるわ」
「朝食でしたら、すぐに準備いたしますので、少々お待ちください」
ガードは、とてもにこやかな笑顔で行ってしまった。それにしても、クラシカルメイド服があそこまで似合うのかよ。
朝から眼福である。
「じゃあ俺たちも着替えてくるわ、また一階でな」
そうして二人も出ていってしまうのでした。私もベッドから起き上がるが、体の節々が痛い。
それどころか、体を酷使しすぎたようなだるさが襲ってくる。
それはおそらく、マインとの戦闘の代償であろう。私は、それを受け入れるしかないのかと落胆するが、罰として受けるべきなのだろうと、考えを改めたのだ。
そうして、服を着替え一階に降りた直後のことだ。何か、向かってくるのを感じ取る。
それを誰よりも早く対応しようとしたのが、ガードである。
おそらく料理中であったのを忘れて、飛び出しているあたり何かあるのだろう。
「フェクトは料理の方見てて!」
私はすかさず指示を出す。せっかく作ってくれている料理を台無しにするのは、勿体無いことだ。
「ガード、相手をよく確かめてから攻撃するんだぞ」
この状況だ、興奮していたら周りの声なんて耳には入らない。ただ、そう簡単に手を出されても困る。
そうして、ガードは正面玄関から飛び出して行った。
私もそれを追いかける、だが体は私が思っていた以上に悲鳴をあげていた。
だからこそ、マインが来たのだ。それがわかっておきながら、私はまた走り出してしまっている。
「私に任せるニャー」
ナズナがリビングから飛び出して行った。それだけで心が楽になるような気がする。
私は、その背中を追うように外に出る。
外に出ると、今にも飛びかかりそうなガードを止めるナズナの姿があった。
そして、門が開く。そして門を突破したのは一人だけだ。
服装的に、この国で活躍する軍であろう。その男は、どこからみても位の高い地位についていると言ってもいいだろう。
そんな男が私の前に現れたのだ。
「ガード命令よ、朝ごはんの続きを作ってきて」
そして私は男の前に立ち、いつでも臨戦状態になれるよう、剣に手をおく。
「どちら様ですか?」
「軍で総指揮官をしているケルトだ、朝早くからすまない」
男は、手を先出し握手を求めてくる。
私もそれに答えるかのように、握手を交わすが考えていることは同じらしい。
お互い目一杯に握り込みながら、不適な笑みを浮かべている。
「軍の方が一体なんのご用でしょうか? まだ朝食を食べていなくてね」
「昨日の件で軍で話が聞きたかっただけだ、朝食を食べ次第、来ていただきたいのですが?」
大体こいつらの思惑がわかった。軍は昨日全くと言っていいほど、使い物にならなかった。
だから面目が立たないのだろう、だからなんらかの手を打つためここに来たと考えられる。
「そこのお二人さん、私を忘れていないだろうか?」
その声は、イデリアである。そして私は男の顔が気になったのか、顔をあげるとそこには顔面蒼白な人が立っている。
今の私で、ここまで根を簡単に上げるようなやつだ。大したことはないな、そう判断するには決定的すぎたのだ。
「アリア離してあげな、これ以上やれば手が折れるわ」
「イデリア様、何しにきたのですか?」
イデリアは上空から、野蛮な猿どもを見下ろすかのように、こう答えた。
「あなたたちのことだから、来ると思って来ただけよ」
「なんだ予想してたんだ」
「アリアと話したいなら、私と第五王子の許可を貰うことね」
そう言って、右手には超高密度により錬成された魔弾を軍に向けている。
「早く出ていきな、ここはあんたらが入ってきていい場所じゃないの」
渋々出ていく姿は、とても不格好に見える。
「ところで何しにきたの?」
イデリアの服装を見るに、そんな喧嘩を仕掛けるような格好ではない。
「朝食誘いに来たの!」
「それはありがたいんだけど、ガードが朝食を作ってるんだ、一緒に食べていく?」
イデリアはとびっきりの笑顔を見せ、私よりも先に家の中へと入っていった。
そうして、そんな騒がしい朝が幕を閉じたのであった。




