127話 別世界の私から愛を込めて
私の言った言葉は、そこにいた誰もが驚いたことであろう。
そんなことに目もくれず、私は話しかける。
「魔神王、お前の本体はどこにいる?」
「知らんな、漏れ出し始めた力で形成されているだけだからな」
封印が、想定より早く解けかかっていると考えて問題ないであろう。
私は、剣を握り締めいつでも攻撃に入れるように構えをとる。
「そんな殺意を剥き出しにされても、状況は変わらない」
自分は、ここで負けることがわかっているかのような口ぶりだ。
それなのにここに現れたのはなぜだ? 疑問が頭の中をぐるぐると回る。
魔神王は、戦う素振りを見せようとはしない。ただここには、会話をメインで楽しみにしてきたとも言えてしまうぐらい、フランクにも感じてしまう。
いや、ここで惑わされたらダメだ。
「こんな俺にも気を抜かないってか、笑えてるぜ剣聖」
「そりゃどうも」
こんな時間、いつまでも続いてほしくないと思うのが当たり前の考えだ。
それなのに、魔神王は違う。いつまでもこの時間が続いてほしいと、まるで願っているようだ。
「それにしても驚いたな、まさか魔神が居るなんてよ」
「そりゃ当たり前さ、私の使い魔なんだから」
次の瞬間、なんの前触れもなく戦闘が始まった。先ほどまでとはまるで違う、今出せる最大限の力でねじ伏せようとしているのがわかる。
「何やる気にでもなったの?」
「お前がおかしなことを言うからな」
あちらの戦闘は、凄まじい戦闘をこなしてきた熟練された動きだ、一歩間違えば致命傷になりかねないと言うべきであろうか。
だが、それが通じるのは私ではない。
「おいおい、もっと本気出せよ! 遠慮なんていらないからさ」
顔色が変わる、無理をした動きを見るのは楽しいものだ。
「コイツ……何笑ってやがる? お前こそ真面目にやれよ」
「はぁ!? 何勘違いしてんの? 思い上がるのもいい加減にしろよ」
次の瞬間、魔神王の体と右腕がお別れした。所詮煙の集合体に近い存在だとしても、斬られた瞬間のトラウマは同じだ。
魔神王を追い詰めるのも、結構簡単なことである。
「おいどうした、なんで攻撃してこないんだ? 魔神王がトラウマとかないでしょ」
その後も引っ付く度に、斬っていく。そして次第に顔は絶望とした顔つきに変わっていくのだ。
「先ほどまでの威勢はどこに行ったのかな? おーい聞こえてる?」
側から見れば、剣聖がよくわからない物体をおもちゃにしているようにしか見えない。
それを何も感じないかのように、遊ぶ剣聖に恐怖するのだ。
「くれ、くれ、やめて」
精神をボロボロにすり減らされた魔族は、ボソボソと言うしかできない。
「本体がこんなもんだったら許さないから」
そうして首を斬り落とし、勝負が終わったんのだ。そうして、私たちは夕日に照らされ夜が始まるのだった。
その後のことは、私はあまり覚えていない。なぜなら、克服したとはいえ、まだ休憩が足りなかったからだ。
体がよろけ、尻餅をついてしまう。
「おい大丈夫か? あんまり無理すんな」
私はそのまま屋敷へと戻り、眠ってしまった。そしてまた彼女と私は会ってしまうのだ。
「はいはいー、また来ちゃったの、アリア」
「マイン、ってことは疲労が溜まりすぎてるってことね」
マインは、どこか初めてあった時とは違う雰囲気だ。なんて言ったらいいのだろうか、今すぐにでも殺し合いが始まりそうな、そんな気がしてしまう。
「アリアが思っていることは、間違いではないわ」
その言葉に私はハッとする、それどころか、腰には私の愛刀があるのだ。
「一回あなたには満足してもらわないとね」
「何言ってるの?」
すっとぼけたような声が出てしまう。だが、そんな間違った回答をしてしまったら行けなかったのだ。
気がついた時には、私の死角にはマインが鬼の形相で剣を突き立て来ている。
「あっっぶね! 何するのよ、マイン!?」
「何って、殺し合いだよ」
先ほどまでとは違う雰囲気、それが彼女を遥に大きく見せていた。
「なんの理由があって、戦うのかわからないけど、そっちがその気なら受けてたつ」
だが、そこは彼女の空間だ。そう簡単に、勝てるわけがないのだ。
今まで戦ったことのある師匠や仲間たちよりも強く感じてしまう。
「困惑しているよね、私はあなたの今までの戦闘を元にして動いている、あなたと対等に戦うためにね」
その意味は簡単だ、私の力をこの子は借りて私に挑んできている。
だからこそ、私は困惑もしたし思うようにできなかったのだ。
そして何より、マインが繰り出す一撃は、私が師匠と初戦闘にやった時を遥に超える絶望を叩きつけてくる一撃だ。
なんとも楽しい、そんな感情が私を突き動かそうとする。
「そんなものかよ、私ならもっと強いよ」
ここは別次元だ、体をどう使おうが私の本体には関係ないことだ。
剣同士の火花が、とても綺麗だ。あ、私今殺し合ってるんだと実感させてくれる。
だからこそ、私はもっと強くなれる!
「あなたがここに来ないためには、これしかないのよ」
「訳わからないことを言わないで、集中しなさい」
その戦いは、二人を大きく突き動かさせた。互いに、健闘し合いつつ、高め合ってくれる存在がどれだけ大切か、教えられた気分だった。
「もっと仲間を信頼することね、それができなきゃあなたは、まだ未熟者よ」
そんな時だ、体が呼び起こされていくのがわかる。そしてそれは強制的に、ここから出て行けと言われているようなものだ。
「今は行きなさい! それが私からの命令よ」
そうして私は、現実の世界に引き戻されたのだ。
そして、私の顔を見るなり、フェクト、ナズナ、番人はとても心配した顔でこちらを見つめてくるのだった、
……
「別次元の私、ちゃんと伝えたわよ」
「ありがとう、彼女に私がしてあげられなかったことをこっちにアリアにしてくれて、本当に感謝してる」
そうしてもう一人の私が笑うのだ。
「死神少女アリアは居なくなったけど、こっちのアリアは死なせないでね」
「まぁ、やれるところまでやってみるよ」
そうして、彼女は消えていくのであった。
剣聖少女アリアは、最期は二つほどルートがある。
殺されエンド、生涯全うエンド。両ルート共々、三人とも死ぬ。




