死神少女は己の弱さを自覚する
私は、剣聖と呼ばれる由緒正しい称号を持っている少女アリアである。
だがそんな私は、多くの人々から嫌われている。いつしか異名が、剣聖少女から死神少女へと変わっていた。
人々は、私を見るなりすぐに家の中に入ってしまう。そのため、国に行ったとしても、宿なんか泊まれるはずもなく、野宿をして過ごすことが多かった。
そんな私は、今日も旅をする。もうあてもない旅とも言えないような旅だ、どこで私は道を間違えたのであろうか。
「今日は随分と体が重たいなー」
いつも通り旅の途中、テントで寝泊まりする私。自分以外誰もいないため、独り言が日数を重ねるごとに多くなっていた。
「話し相手がいないって、こんなにも孤独を感じるんだね、勢い余って魔神族を殺すんじゃなかった」
そう私は、魔神族を自ら復活させ、そうして自らの手で殺したのだ。
あの時は久しぶりに骨のあるやつで楽しかった、使い魔にしようと思えばできたのに、そんなことを考えつく前に私はこの剣で斬り殺していた。
そう思って、剣を見つめる。
剣はいつも通りのように、輝きをまとっている。それだけ私は剣を大事に扱ってきたということなんのだろうか。
そう思いたが、そんな自信はもう枯れ果てていた。
「ご飯を食べて、今日も出発しますかね」
そうしてそそくさと準備を始めていき、ご飯を食べ、火の後始末を確認し、私はまた旅に出た。
昔はただ飛んでいるだけで、楽しかった。なのに今は、違う。
何かから逃げるかのように、箒に乗り旅をしているような感覚に落ちいるのだ。
「この前は、賞金首を狩りとったしダンジョンでも行きたいな」
そんなことを口に出してしまう。賞金首は、基本的にすぐに殺してしまう。抵抗されてもめんどくさいし、アイツらは基本更生なんてしない。
その決めつけが、私を死神少女と呼ばれる意味なのかもしれない。
だが、私の考えは決して間違ってはいないと言えるであろう。
だって、そっちの方が楽だからだ。余計な金を賞金首にかけるより、真っ当な人々に還元してほしいものだからだ。
「森の中に入りそうだけど、ダンジョンはあるかな」
マップを開くと、ダンジョンの反応は確かにあった。
「お金はいっぱいあるけど、やっぱりやめられないわよね」
そうして降り立った場所がそこが私の最期になるとは、この時の私はまだ知らない。
知っていたら行くだろうかと問われたとしても、おそらくは私自身、彼と戦いたいと思ってしまい行くだろう。
そしてダンジョン内に入る私、そこは魔鉱石が光を放つほどの魔力がこの場所にはあると、示されていたのだ。
「強い魔物はいるかしら、私を満足させてくれるような」
ボソボソ呟きながら、私はダンジョン内を探索を始める。私の気配に警戒してか、魔物たちが萎縮しているのがわかってしまう。
それもそうかもしれない、私はいつしか魔物にも避けられるような人生をここ半年は送ってきた気がする。
でもそれでも立ち向かってくる連中には、私なりの誠意を剣で示したはずだ。
今はそれすらない、ただダンジョンを歩くだけの散歩をしているような気分に陥ってしまう。
そうして私は大きな空洞に出た。
「なんだ私を待ち構えてくれているのね、誰も来ないから心配しちゃったよ」
その時の顔は、とても狂気に満ちた顔であっただろう。魔物が少し後に後ずさりしたようにも見えたのだから。
「少しは楽しませなさいよね」
振り下ろされる一撃は、神たる一撃だと言えるであろう。たかが魔物がそれに耐えられるはずもないのだ。
そして私は返り血なんて気にせず、次へと進む。
グールを浄化し、私はミノタウロスに遭遇する。
「ミノタウロスか、初めて見たな」
すぐには攻撃をしてこない、それだけでコイツは優秀だったと言えるであろう。
だが、そんな観察してもお前の運命は変わらないのだ。
「地獄でおやすみ」
神速のごとく速さで、私はミノタウロスの首を斬り落とした。
そして運命の時が近づいていく。
リッチ・キング。ボロボロのローブを羽織っており、スケルトンの魔物。
キングと言うことだけあって、頭には骨でできた王冠がある。
そんな魔物が、開けた場所で召喚を終えた所であった。
「ダンジョンをおかしくした張本人、死んだじゃねぇかよ」
そして私は、召喚された奴を見る。
禍々しいと言ってもいいほどの存在感、肌にピリつくこの感じ、間違いなく私より強いと直接ぶん殴れた気分だ。
「俺は魔王殺しの元勇者、ロードだ」
「私は、剣聖アリア。巷では、死神少女なんて呼ばれてるわ」
次の瞬間、剣がぶつかりあう。凄まじいほどの圧倒的な力、私はなぜだか笑っていた。
「時間もないんだ、殺し合いでいいだろう、死神少女さん」
「そうね。勇者と名乗る存在と戦えるなら、それも悪くないわ」
今までとはまるで違う戦闘、最初はついていくので手一杯だ。
至る所から、血が出ている。
ロードの方が完全に上手である。
「聖女の願い発動! 神速式・ソードインパクト」
私の体は最も容易く貫かれていく。体の内部から爆発するかのように、痛みが全身を襲う。
今すぐにでも倒れたいと思ってしまう。
「私は剣聖なのだ、舐めんな!」
私は彼に一撃を叩き込む。体からは、血が出ている。それを畳み掛けるかのように、もう一撃と打ち込んでいく。
「それでいいんだ、もっと来い」
「舐め腐りおってからに、でも楽しいから許す!」
痛む体に鞭を打って、叩きこむ一撃はなんとも爽快な気分である。
ただそんな時間は長くは続かないというものだ。
「ここでお前を殺すのは勿体無いと感じるが、構わんだろ」
「冒険者ってそういうもんでしょ」
ロードの一撃は、私の一撃なんかよりよっぽど強かった。体がもう必ず死ぬと訴えかけてきているようだ。
「これで終わりだ、楽しかった、神速式・極力大龍斬撃・一撃一閃」
その攻撃は、なんとも鮮やかな一撃だったと言えるであろう。
それを私は最期の最後、とち狂ったように笑い死のうと決めたのだ。
剣での防御は無理だ、それがわかっていても死んでも剣聖だ。それに対応しようとしたが私は死んだのであった。
「最期に楽しかった。また何処かで」
「俺も同じ気持ちだ」
その言葉を最後に、肉片へと変貌するのであった。
次回から4章開幕です。




