9話 不安を打ち消す太陽みたいな存在
国を出て少し箒で行ったさき、洞窟が見えてきました。
「あれが今回、挑むダンジョン。階層は確か地下十階だよね」
「私たち、あそこのダンジョンまだ攻略出来たことがなくて」
不安げな声で、カエリアは言った。それを二人は頷いていた。
「どこまで攻略できたの?」
「地下六階のエリアボスを倒したところで、断念しました」
おそらく、エリアボスで相当苦労したのだろう。いくら回復術師が二人いるからといっても、攻撃が心許ない。
「三人のうち二人が攻撃出来ないってキツイよね?」
「そう思われても仕方がありませんね、私はわかった上でパーティを組みました」
深くは聞かないことにしよう。そこまで興味のないことを聞いても私は、どうせ忘れてしまうのだから。
「あと一つ聞いたいことがあるんだ、ほんとは聞かれたくないかもだけど、借金の額は?」
「ダイナール一枚です、七割が利子ですけど……」
あー闇金関連か、七割が利子の時点でおそらく元本は減ってない。
このままだとこの子は、ダメになる。アリアは、そう思ったのだ。
「潰す、おそらく別にも被害者がいる。しかも大抵バックには賞金首も絡んでるよ」
剣聖の言葉は、とてつもなく重い。その何気ない言葉で、人生を左右させてしまう危険性もあるからだ。
それは、師匠に何度も言われてわかっているつもりだ。おそらくこの国のお偉いさん方は、これを放置しているのも事実だ。
「その前に、ダンジョン踏破を頑張ろうね!」
「ハイ!!」
いつまでも暗い話をしていても仕方ない、それにこのダンジョンは、すでに踏破されているダンジョンだ。
私がいるのだから大丈夫と確信していた。
「まずは、カエリアの実力を見せてね」
カエリアは、剣を構え慎重に進んでいく。ゴブリン数匹が出てきても、余裕で対処出来ている。
「もう少し早く動いても大丈夫だよ、何かあれば私がいるから」
勇気付けられたのか、普段の歩くスピードぐらいで、周りの警戒を怠らないように歩いてく。
「その調子で、気配察知の魔法をずっと使うようにしたら行けるよ」
マップを展開することなく、さくさくと進んでいく。それだけ何回も来ているという証拠。
それで、油断しないように進む感じ、真面目な冒険者だと印象がつく。
「コボルトが来ます! 集団なので手伝ってくれませんか?」
「半分はお願いね、二人もすぐに回復魔法を唱えられるように準備を忘れないように!」
二人は即座に魔法の展開準備を始める。その頃カエリアはまだ技を使わず倒していた。体力を温存して戦ってきたのがわかる。
自分しか攻撃手段を持っていなかったからこそ、出来るものだろう。
それに基礎がしっかりと出来上がっている、それだけ実力があるということだ。
私はここいらで手本を見せるべきだろう、そう思った私は三人に声を掛けた。
「三人とも見ててね、これが剣聖の剣だよ」
一度の踏み込みで一気に背後を取る。その際、首を刎ねたら終わりである。
「すごい! これが技を使わずにで出来るなんて」
「今の魔法を使ってませんでしたよね?」
「え、そんなことがあり得る? 今の踏み込みの時、魔法を使ってると思ったけど」
カエリアは尊敬の目で見つめてきて、エルは驚いていて、サリナは、疑った目をしてこっちを見つめている。
「魔法に関しては使ってないよ、それにまだ使わなくても大丈夫。それよりそろそろ、一階のボスに辿り着くわよ」
カエリアたちは瞬時に気持ちを切り替えた。そうしてまた慎重に進んでいったのだ。
その後辿り着いたのは、大きな扉がある広い空間が広がっていた。
「ここが一階のボス部屋前です」
「魔物は何がいるの?」
「ジャイアントスパイダーです」
「スパイダージュニアと、糸が結構厄介なのよ」
蜘蛛か。まぁ、そこまで手を焼く相手ではない。
「カエリアは、ジュニアの方お願い」
「わかりました」
そうして、扉を開くや否や超好戦的なボスがお出迎えしてくる。
扉を開けた直後に、糸でばらけさせてくる。幸い良かった点は、回復組が二人とも別々に飛んだことだ。それにしても避けた先には、ジュニアがいやらしく配置されていた。
「エルはしっかり私の近くにいてね!」
「――わかってます!」
親のように糸を吐き出そうとするが、そんなことをするより、突っ込んで来てくれた方がありがたいと思ってしまう。
「はい終わり、あとの仕事はボスだけだね」
それにしてもボスはやっぱ違う。糸を吐き出すのは一緒だけど、糸を凝縮させ速さもあって威力も高そうだ。
でも、当たらなければどうってことはない。飛びあがり、剣を突き出し脳天に一撃を入れ込む。そうして消滅した。
「そっちは終わってる?」
「――終わりました」
カエリアの方が、少しジュニアが多かったのか疲労が顔に出ていた。
それにしても技をまだ使っていないみたい。
「カエリア、私に気を使ってるんだったら別にいいからね」
カエリアは、少しばかり驚いた様子だったが息を整えて口を開く。
「大丈夫ですよ、いつもことですから」
(二人とも頼むよ)
(はい!!)
ボスの遺品を回収したところで、二階への魔法陣と出入り口に戻る魔法陣の二つが現れた。
すかさず、二階への魔法陣に乗った。それからは、特に問題なく進んでいく。二階層、三階層、四階層、五階層、六階層を制覇していく。
「一回休憩しようか?」
「――は、はい」
三人とも疲れた様子だ。だが、まだ行ける目をしていた。
「こっからは未知の七階層だ、より慎重に進んでいくからね」
「わかりました。今まで通り私に任せてください!」
カエリアの熱意はとても情熱的だ。ただ、無理させるわけにも行けない。
「こっからは私が索敵をやるから、少しでも体力を温存しな」
すぐには、返事をしてこなかったが縦に頷いた。
「剣聖様、改めてついてきてくれてありがとうございます」
「サリナ、まだ早いよ、ようやくスタートラインだと思うけど」
「え、でも剣聖様がいなかったら挑めてなかったからつい」
サリナがツンツンしていたのが、少しばかり柔らかくなったのを感じつつ第七層に踏み入れるのであった。
「マップ通りに行くけど、魔物の気配がやっぱり多くなってるね」
「カエリアは、無理しなくていいからね」
「――え、でも」
サリナの言葉に戸惑いを見せていたが、今は休むべきだ。
カエリアは、女性冒険者の中でもだいぶ体力のある銀の冒険者だと思う。
ただ、カエリアには挑戦して欲しいことがある。そのためには、無駄な体力を使うべきではない。
「十階層までは任せてよ。カエリアには、ボスと戦ってもらうからね」
私は自信満々な笑顔で言い放つ。
それは、カエリアと仲間たちにとって、不安を一気に打ち消してくれる太陽に見えたのであった。




