113話 久しぶりの友人
すっかり季節は、短い秋の終わりをつげ冬が始まろうとしています。
そんな今日も私たちは、箒で気ままにあてもない旅をするのでした。
「どうしたアリア、またイデリアに何か言われたのか?」
フェクトは、私の顔を見るなりそう言ってきたのです。いつものことなので、特に顔色も変えず、聞いてきました。
「いつものあれだよ、いつになったら戻ってくるの? そればっかだよ」
「イデリアもアリアに会いたいんだろうけど、まだ旅はする気だろ?」
「そりゃ当たり前だよ、まだ王都に戻るには早いよ」
イデリアにはこの話、ここ数週間ことあるごとに言っているのだ。ただ、それに聞く耳を持たないと言うか、あまり信用されていないのだ。
イデリアが、人間をすぐに信じられないのは今の状況、わかっているつもりだ。
ただ、私にだって自分の人生があるのだ。それを邪魔されたら、イデリアと激突してしまう。
「ねぇアリア、戻らないっていうあれは無いの?」
「選択肢かい? そこは約束してしまったからね、そこは守るつもりだよ」
「ふぅーん、上の空じゃ国を見逃しちゃうよ」
ナズナの言葉を聞いて、私は周囲に目をやる。少し離れた場所に、丸い城壁に囲まれた国が見えてきたのだ。
「ナズナ、教えてくれてありがとう!」
「どういたしまして」
私は、ゆったり高度を下げていく。そして地面にスレスレに着く頃、私たちは正門の前にたどり着いたのである。
門番兵は二人いる。その二人ともが、コートを着ておりとても暖かそうだ。
「旅人の皆様、こんな遠いまでありがとうございます」
手前にいた若い門番兵は、礼儀正しく私たちに労いの言葉をくれた。
その後ろにいた、少しポッチャリとした男性も快く出迎えてくれた。
「あなた方は、冒険者とお見受けできる。もし可能ならば、この国で起きている問題を解決には導いてはもらえないでしょうか?」
若い門番兵は、震えた声でそんなことを言う。後にいた男は、止めようとしていたが全部言われてしまったのか、少し戸惑った表情をしている。
「すぐに引き受けることはできませんが、とりあえずギルドの方に寄って見ます」
「ありがとうございます! どうかよろしくお願いします」
そう言われて、私たちは門の中へと案内された。
フェクトもナズナも、黙ってはいるものの、何か言いたげなのが、こちらにビシビシと伝わってくる。
「なんか言いたげだね、どうかしたかい?」
「あのなアリア、どうせ受けるだろうな」
フェクトは、完全に呆れた声でそんなことを言う。それもそうかもしれない。それでも、簡易的とは言え、あんなことを言われたのだ、話を聞かなくては剣聖としてはダメだろう。
「私は、アリアに従うよ! だって面白そうじゃん」
ナズナは、どこか楽しげにそんなことを言う。それには、少し言いたいこともあったが、言葉を発する前にグッと押し殺した。
「街を見た感じ、平和そうだし大丈夫だよ」
私も大概だが、こんな旅をしている以上何も思わない。
そうしてギルドへ向かっていると、二人の冒険者が足早に街中を駆けていくのが、見えた。
どうやらこちらに向かってきている。いや違うな、そう感じ取ったのは、おんぶされている人たちがとても苦しそうにしていたからだ。
そして、こちらに向かってきている顔はどこか見覚えがある顔であった。
私は、思わず声を出してしまった。
「キャンシー、なんでこんな所にいるの!?」
キャンシー―それは、私の最初の友人と言っていい存在だ。
そしてそれと同時に、受付嬢をしていた彼女がこんな所にいるのか最初はわからなかった。
そして隣には、カエリアもいる。
カエリア―ダンジョン攻略を手伝ったことがあり、そして私が初めて人を殺したきっかけを作った人である。
おんぶされているのは、カエリアの仲間である回復術師のサリナとエルである。
「アリア!? え、嘘、夢!?」
キャンシーは、私の声に気がついて立ち止まった。私の目の前には、間違いなくキャンシーが立っていた。
「詳しい話はあとで聞くけど、とりあえずその子たちが優先だよね」
私は、二人をざっと見て毒に犯されているのがわかる。それも、回復術師をここまで苦しませられる毒である。
魔法耐性が高い二人には、酷な時間が続いてると思う。なぜなら、回復術師を状態異常でここまで苦しませる奴は、強い力を要する者である。
「ポーションをかけるわ」
「え、でもあまり効かないんじゃ?」
確かに回復術師にポーションは効きにくい。なぜなら、ポーションは全て回復術師によって生成されているからである。
「ちょっとどけ、とりあえずまずは毒素を抜かない限りは、ポーションを掛けても無意味だ」
フェクトは、冷静に分析してそんなことを言う。
「道端で悪いが、ここに寝かしつけられるか?」
「わ、わかりました」
それと同時に、フェクトの結界が作動した。その中には、フェクトと倒れている二人だけとなる。
「毒素を抜くんだ、これぐらいの結界をすれば安心だよ」
その結界は、相当分厚く何重にも発動されている。それを、涼しい顔でやってのけるだ。
それはとてもありがたい存在である。
「吸収」
二人のお腹辺りに手を当て、そう唱えると本当に毒素を吸収し始めたのだ。
顔色が本当に悪そうにしていたのが、とても落ち着いた表情になっている。
そしてフェクトの手の上に、毒素の塊が目に見えるようになっていた。
「また厄介そうなやつだな」
両手の毒素の塊を焼却し、ことなきを得るのであった。二人は、緊張の糸がプツンと切れたかのように、その場にへたり込んでしまう。
「良かった、良かった、本当に良かった」
カエリアは、そう呟きながら二人を見つめている。そして結界が解かれるやいなや駆け寄る二人。
そして、二人の顔を見て堪えていたであろう涙が、溢れ出るのであった。
私も心から安堵した瞬間であったのだ。




