106話 酒飲みギルド長と尻拭いするお友達
「ぷはーっ! やっぱ昼間から飲むキンキンに冷えたエールは最高だね」
彼女は、とても気持ちよさそうにエールを一気飲みした。それを遠い目をしていた冒険者たちも、次々とエールを頼みだしてしまう勢いだ。
それだけ、影響力を持っているということだろう。
「お酒も良いですけど、そろそろ話をしませんか?」
私は、もう一杯頼もうとするギルド長を遮って話を振った。
顔にはだしてはいないが、残念と言いたげなオーラをだしている。
「それもそうね、クエストよね、ちょっと待ってて」
そう言って彼女はまた裏に消えた。その時、私たちは同じことを思っていた。
それが当たるかどうか、ワクワクとしながらエールを開けて待っていた。
そして数分経った頃だろうか、やはりおかわりのエール瓶を持って現れたのだ。
「舐めてます、私のこと?」
思わず私はそんなことを言ってしまった。そう言いたくなってしまうのも仕方ないことだろうと私は思う。
「舐めてませんよ、剣聖様」
そのふわふわした感じで、話し始めてしまっている時点で、説得力はゼロである。
それがわかっていないのか、話を始めようとした。その時だった、ギルドの扉が勢いよく開いたと思ったら大きな声をすぐさまあげた。
「マクアサあなたね、剣聖様の前で何をしているの? せっかく休みだと思っていたら、後輩ちゃんから呼ばれたのよ!」
見た感じ、本当に家でくつろいでいたであろう格好で現れた女性は、マクアサとどこか親しげである。
カリンとイオンを懐かしんでしまう。
「スミ、お、おはよう」
とても動揺しているのが、誰の目から見てもわかる。
「うちのバカが大変ご迷惑をお掛けしました! コイツには言い聞かせますので、ここは穏便にお願いします」
マクアサの頭をガッチリ掴み、机に勢いよく叩きつけながら言われたら、説得力が半端ない。
私たちはそんな癖つよコンビに、少しひきつりながらもようやく本題に入ることとなった。
「皆様にはこちらのクエストを受けていただきたいのです」
そうして渡されたクエスト用紙を手に取った。
書かれた内容はこうだ。首斬山の異変調査及び凶悪魔物の討伐である。
ギルドのクエスト用紙で、緊急と大きな文字で書かれているのだ。それだけ、大事になっているであろう。
「これって魔法会の方には連絡ってしました?」
「したのですが、やはり先日の一件以降あちらもバタバタしているようで」
先日の一件、それは国で大暴れしたあいつら案件であろう。
そして、魔法界総大将でもあるイデリアが狙われているんだ、そちらに人数を取っているのは当たり前だろう。
「そうですか、確かここを越えた先にも村がありますよね、そちらとの協力は?」
「それでしたら、合同クエストとなっております、あちらのギルドも死傷者をだしているようで」
両者のギルドで死傷者がでるほどの緊急事案、それをそこまで重要視は本部ギルドではしていないのだろうか? そこは気になってしまう。
「これってエルフ族はどう考えているんだ?」
ずっと口を閉じていたフェクトが、確かに気になることを言ってきた。
エルフ族もこういった案件に、首を突っ込む場合がある。それがどんな介入方法であろうと、そこはエルフ族としての意地もあるだろう。時間は掛かれど、解決はしてくれる。
「特に何も、おそらくですが介入もないと思われます」
「それもやっぱ魔法界関連か?」
二人はコクリと首を縦に振った。
「だったら獣人族は、獅子王に言ってみようか?」
「え!?」
驚くのも当然であろう、ナズナは普通なら見破ることはできないが、一国の王女と言ってもいいのだ。
「そこまでやる必要はないよ、私たちがこのクエストをクリアするから」
「本当でございますか? ありがとうございます」
スミは立ち上がり、すかさず頭を下げた。それだけ、時間がないことだったのだろう、安堵の表情が垣間見えている。
「明後日出発の予定なのですが、良いですか?」
「もちろんです、ギルドのサービス使われますか?」
「お願いします」
「すぐに書類を用意いたしますので、しばらくお待ちください」
その時だ、血相を変えた冒険者たちがギルドに入ってきた。
見た瞬間にわかる、大怪我をしている。
頭から血を流しながら、帰ってくる男性冒険者、聞かなくても容易に想像できた。
「二人とも、山に行くよ!」
私はそう言い残して、ギルドを後にした。人の邪魔にならないよう、屋根から屋根を飛び越えていく。
気配感知には、門付近で暴れているであろう魔物の存在が確認できる。
それだけじゃない、か細くなっていく気配も一緒に感じとり一刻を争うのは間違いない状況である。
「フェクト、ナズナは怪我人優先!」
私は簡単な指示だけをして、魔物に意識を集中させる。とても興奮しているのがわかる。そして相当気性が荒いのか、目視でも暴れているのが砂埃でもわかる。
下を見ると、パニックを起こしている住民たちが逃げ惑っているのがわかる。
「剣聖のお通りだ! 道を開けて」
それに気がついたのか、門番兵たちの数人と冒険者が魔物から距離を取る。
私は高い門を軽々飛び越え、魔物の元に到着した。
「君は何者だい? だいぶ血の匂いが酷いけど」
おそらくコイツは人間を食っている。口元にべっとりと、血がついているのがわかる。
それに、歯は真っ赤に染まりきっている。
「剣聖様、コイツはマンティコアです! 人喰いで首を食べるのが好きなんです!」
これはまた厄介なやつである。おそらく首を食べるのが好きは、ここの山だからこそであろう。
「それが前方からも来ているのか、私はやっぱり魔物に愛されているね」
「そんなことを言ってる場合かよ、怪我人は任せてくれ、そしてさっさと倒せよ」
フェクトは冷静に言ってくる。
「とりあえずサクッと一匹倒しますかね」
その言葉に反応したのか、戦闘体勢に移行する。
「無駄なことを、もう君は人を食べられないよ」
次の瞬間、肉片がその場にできあがり消滅するのであった。




