7話 湯に浸かる剣聖と探される剣聖
「あーあてもない旅してるー」
いつものように昼の修行を終え、箒の上で寝転がりながらアリアはそんなことを叫んでいた。
辺り一面、草木が生い茂り自然を感じる暖かさの中、箒を自由気ままに飛ばしていた。
横になっていたのを起き上がるやいなや、久方ぶりの国が見えてきたのだ。
アリアは、正門の前で箒を降りた。昼の陽気にやられたのか、あくびをしていた門番さん。
顔を見るなり、目を見開いてパチパチさせていた。
「びっくりさせてごめんなさいね。国に入りたいけど、審査お願いできますか?」
門番はビシッと構え直し一礼した。
「もちろんでございます。剣聖少女様、こちらの書類に必要事項を書いてください」
それを書き終え、国の中に入ったのだ。
国は、いたってシンプルの作りをしている。一番外側に近いのが庶民の人々が暮らす場所。中央の門の部分がこの国の領主様の家となっている。
「もう夕暮れが近いし、さっさと宿を取らないと」
そう思い立ったがすぐに行動。正門からすぐ近い安い宿が取れた。
これで寝る場所は、一安心である。
その頃には、空は茜色に染まっていっていた。日中に働いていた人たちが、多く見受けられる。
みんな、解放されたという顔で帰路に就こうとするところである。
そんな中、夜のお仕事が昼のお仕事とバトンタッチをしている最中、揉め事が起きた。
「何すんのよ、離して!」
女性の声が聞こえてくる。だいぶ、緊迫した様子なのがわかる。
すぐさまそこに向かおうとするが、それを阻む存在があった。
それは野次馬である。我先にと行こうとするのはいいが、特に何をするでもなく、ただそこにいる人たちのことである。
「あ! 返して、そのバッグを返して」
どうやらひったくりだったようだ。露出度の高いドレスを着た女性から、中年の小太り男がバッグをひったくったのだ。
『はいそこまで! 今ここで私に斬られたいのなら別だけど』
男は、崩れ落ちるかのように尻餅をついた。考えてみたら当たり前だ。
ひったくり犯は、バッグを盗めたと思った矢先、剣聖が目の前で実剣を構えているのだ。
それでおとなしくならないのは、ただの命知らずである。
「盗んだバッグ、返してもらおうか」
そう言い終えるやいなや、先ほどの被害者が男性から奪い返したのだ。
「剣聖様! ありがとうございました、なんてお礼を言ったらいいか」
「次からは、取られないようにするんだよ。とりあえず、男の方はギルドだな」
男は、逃げられないとわかっているようだ。完全におとなしくなってしまっている。
「すみません! ひったくり犯そこで捕まえたんですが」
「事情は全て聞いております、ご協力感謝いたします」
当然と言ったらそうだが、ギルドからの報酬は出なかった。ただ、お礼を言われただけだった。
書類や説明などで、時間はすっかり取られたのであった。
辺りはすっかり真っ暗である。
ご飯屋を見つけたい一心で歩き出そうとした直後、あの女性から声をかけらたのです。
「先ほどは、本当にありがとうございました。助けていただいたお礼をさせてほしいのですが?」
「え、いや結構です、私先を急いでいますので」
師匠が見てたら怒られそうな状況だけど、今はそんなことに構っている余裕がなかったのだ。
アリアは、一礼してその場から逃げるように立ち去った。
そうして、ギルドとは反対方向にある酒場で、大いにご飯を楽しんだ。
「あ〜美味しかった」
お風呂に入りたかったのもあったため、すぐさま宿屋近くまで歩いて行く。
一人で旅をするようになってからというもの、街の人たちにほんと、とてつもなくコソコソと話されている。
「コソコソ話してないで、面と向かって言いなさいよ!」
周囲に向けて怒鳴ってしまった。酔わないはずの酒に酔ってしまったのかと後悔するが、言えてスッキリしたところもあったのも事実であった。
そう言い放った直後、アリアより少しだけ大人の女性二人が近づいてきた。
「私たちの所のお姉さんが、あなたに助けらたのです。どうかお礼をさせてはいただけないでしょうか?」
「当然のことをしたまでだよ、何もお礼なんていらないから。そう伝えておいてくれる?」
正直、本当に迷惑していた。早くしないとお風呂やが閉まるからだ。
お久しぶりの国で、風呂に入れないのが嫌なのだ。
少し、子供っぽく表情を顔に出した。
「私、急いでいるんだけど。そこ、どいていただけますか?」
口調は丁寧だが、怒りのこもった表情と声色に二人は後に引き下がった。
「それでは」
そう言って、箒で一気に飛んだのであった。
お風呂の時間は、楽しめる時間ぐらいの余裕があって到着した。
「剣聖少女様! 今すぐ貸し切りを用意いたします」
「大丈夫ですよ、民の憩いの場をこんな風に汚してはいけないと思いますよ」
「申し訳ございませんでした」
受付に座っていたおばあちゃんは、頭を深々と下げていた。
「お風呂代、銅貨五枚ね」
それを受付で渡し、念願のお風呂に入っていく。
一部始終を聞いていたのか、脱衣所にいた女性たちは、少しよそよそしい雰囲気だ。
これもしかたないことかと、心のどこかで納得してお風呂場にやってきたのだ。
そりゃ見られるよな。バキバキに割れたおなか。全身の筋肉。
その時、アリアは気がついてはいなかった。誰もが、アリアの胸を見ていたことに。
「あ〜生き返る。やっぱお風呂、最高!!」
だらけきった声が、お風呂場に響き渡る。
「剣聖様お話、よろしいでしょうか?」
こっちから話しかけても、ビクついて多分ダメだった。そっちから話かけられたほうが、とても嬉しかった。
話しかけてきたのは、受付にいた人よりは若いがそれでも五十代に見える。
その後、話は大いに盛り上がりお風呂場に居たみんなと、世間話を楽しむのであった。
…………
アリアがお風呂やを楽しんでいる一方この方は、アリアを探していた。
名前は、カエリア。夜のお店で働く二十代の女性だ。
助けてくれたお礼をしたいがためだけに、国中を探し回っている女性なのでした。




