100話 いつものあてもない旅
季節が秋になり、木々が色づき始めた頃、私たちはとある村に着いた所である。
上空から見た感じ、村は特に変哲もないどこにでもある感じで特徴のない村である。
それは、実際に中に入ってみても思ったことは変わらなかった。
村人たちは、旅人が来たというのに特に驚くこともなく自分たちの生活を変わらず過ごしているようだ。
私たちは、村の村長であるグインに案内されるがまま村の中を歩いていく。
案内をするのはいいが、特に話すこともないのか終始無言である。
口を開いたかと思うと、たった一言呟くだけだ。
「宿屋」
そうして、腰を曲げており杖をつきながらトボトボと歩いていく後ろ姿を見送りながら別れた。
宿の外観はいたってシンプルであり目立たず、長年そこにあるのが見ていてわかる。
そしてドアを開け、中に入ると小さな食堂と受付スペース、それに二階に続く階段があるのがわかる。
「ごめんください、あの三名って行けますか?」
私は、受付の奥にいるであろう人に聞こえるかのように声を出してみる。
ガタっと何かが地面にぶつかる音をさせている。おそらく、この声で気がついたのだろう。
慌てた様子で奥から出てきたのは、髪はボサボサで寝起きなのが分かりやすい顔で男性が出てきた。
「すみません、ここは滅多に人が来ないもんだから、寝てました」
なんとも正直に話す男性である。これで、言い訳をしたら流石に顔に出そうである。
「二名一室と、一名一室になされますか?」
男性は、私たちを見てそう判断したのであろう。ナズナが何か言いたげである。
「一名一室を三部屋頼めるか?」
フェクトは、ナズナが何か言い出す前に阻止するかのように、話しかけた。
横目で見なくてもわかる、とても不満そうな顔のナズナが気配でわかる。
「あ、それでいいんですか、何泊なされますか?」
その言葉で私はハッとする。そういえばそのことを決めるのをすっかりと忘れていた。
「何泊する?」
「とりあえず一泊でいいだろ、何か起これば連泊すればいい」
「それもそうね、ナズナはそれでいい?」
「今回こそは、わたしアリアと一緒の部屋が良かった!」
やはりそれか、それが頭にスッと過ったのだ。
「まぁ、それはいいじゃないの、とりあえず一泊でお願いします」
男性は、困惑そうにしているが、待たせたらいけないと思ったのかすぐに手続きを取り始めた。
「お食事は、日が沈んだ頃と朝は起こしに参ります。お部屋の鍵です、ゆっくりとお過ごしくださいませ」
私たちは、会釈とお礼を言ってその場を後にした。
部屋を開けると、古い椅子と机。それにベッドがあるだけの質素な作りとなっている。
私はとりあえず、やることもないのでベッドに腰掛けた。先ほどまで、箒で移動していたので疲れが溜まっていたのであろう。
少し眠たくなってくる。
「まだお風呂には早い時間だよね、でもな今寝たらな……」
そんなことを考えていると、扉を叩く音が聞こえる。
「アリア、せっかくだからギルドに行かないか?」
「ちょうど良かった、行こう行こう!」
私は心の中でガッツポーズして、部屋を後にした。そして、ナズナも合流してギルドの方に向かう。
「ここに来るまで、魔物は居たけど大したことないやつばかりだったよね」
「ナズナ、そりゃそうだろ」
フェクトの言う通りである。私たち三人を困らせる魔物は、おそらく数は少ないはずだ。
剣聖、魔族、獣人が居て手こずる魔物がいるのか逆に知りたいレベルである。
そんなことを思っていると、ギルドの方に到着した。
「やっぱギルドも年季入ってるな」
「村って大体こんなものよ、幾らお金があったとしても、全部をやり変えるのは難しいからね」
扉を開けると、ギルドでは珍しい開いたことに反応してか小さな鐘の音がなる。
これも村ならではのギルドであろう。
「はーい、今行きます!」
おばちゃんらしき声が、奥から聞こえてくる。そして、数十秒も経たないうちに出てくる。
「あら珍しい、旅人かい?」
「はいそうです、箒で各地を旅しているんですよ」
「また立派なことを、ってあなたどこかで見たことある顔だね」
そういえばそうだ。今日村に来てから一度も私が剣聖であることは誰も指摘してこなかった。
「剣聖をしております、アリアと申します」
「あらやだ私ったら、あなたことを忘れるなんてほんと申し訳ございませんでした」
彼女は、深々と頭を下げた。私は驚きあたふたしてしまった。
「頭をお上げください」
「でもこれはいい機会かもね、あるクエストを受けてはいただけないでしょうか?」
彼女の顔は、パッと明るくなって壁の方に指をさす。私たちは、それにつられるがままそちらに顔を向けた。
「これって」
一つだけ真新しい紙質のクエスト表がある。その内容は、魔族退治のクエストである。
「ここって魔族が出るんですか!?」
特に何もない村だ。そんな場所に住み着く魔族なんているであろうか。
「ここ最近、目撃情報がねーあってね、幸い怪我人とかは居ないんだけど、みんな怖がっちゃってね」
「特徴とかわかったりしますか?」
私は食い気味に聞いてしまう。それは、久しぶりの魔族との戦闘に心躍らせているからではない。
ただ気がかりな点があるのだ。
「黒いローブを纏っていて、槍を持ってるとかなんとか言ってたかな」
「ありがとうございます、このクエスト私たちが受けますよ」
「あらほんと!? それはありがたいわ、剣聖様自ら出向いてくださりありがとうございます」
そうして私たちはギルドを後にした。私たちは、今朝のことを思い出すのであった。
「ねぇ、今朝見たアイツってさやっぱりそうだよね」
「断定はできないけど、ほぼそうだろうな」
「今度はわたしが倒す! だってアリアとフェクトの攻撃をいなしたやつだからね」
胸騒ぎがするが、今からではもう遅くなるであろう。警戒を怠らず今日は過ごすことになった。




