97話 記者と出発
私とフェクト、ナズナの三人が、国を出国しようと決めたのはその日の夜のことだった。
古めかしい宿の一室。私が泊まっている一室に二人は集まっていた。
フェクトは、壁にもたられつつ立っている。ナズナは私が座っているベッドで自由気ままに過ごしている。
備え付けのテーブルには、整理整頓ができておらず少々散らかっている。
「二人とも、聞いてるかい?」
二人は、気の抜けた返事で答えるだけで聞いているか怪しかった。
「もう一度言うけど、明後日には出発するんだから明日は準備だからね」
「わかってる、わかってる」
フェクトは、そう返事をしたがその反応はあまりちゃんと聞いていない時のものだ。
私の隣では、いつの間にか寝息を立てて眠るナズナ。そんなナズナを、頭を摩りながら気持ちよさそうに眠るナズナを私には起こすのは無理であった。
「仕方ない、私はこの子と寝るわ。フェクトおやすみ」
「じゃおやすみ」
そうして、フェクトは部屋を出て行った。フェクトも顔には出さないが、どこか眠たげな雰囲気をしていたのでちょうど良かったのだろう。
私は、ここ最近毎日明日でいいやと後回しにしていた掃除を、軽く始めた。
「あ! あった、いつの間にかに無くなってたポーション見つけた」
ベッドの下のゴミを取ろうとしゃがんだ際、買っていたポーションを見つけ、静かに喜んだ。
私は、寝る準備を済ませナズナが寝ているベッドに入りその日は眠ってしまった。
「―きて―きて―起きて!」
私の体を揺さぶりながら、起こしてくるのはナズナだった。
昨日、寝落ちを決め込んだ時とは違いとても元気はつらつで、寝起きの私にはついていけなった。
「おはよう、ナズナ。よく眠れた?」
「うん! アリアと一緒に寝るってないから楽しかった!」
とてもにこやかな顔で言うナズナに、私は起きているのか眠りかけているのかわからないような笑みを浮かべた。
そんなことをしていると、扉を叩く音が聞こえてくる。
「アリア、ナズナ起きたか?」
その声は、フェクトである。
「起きてるよ! 今開けるねー」
ナズナは、勢いよくベッドから飛び出し扉に向かい扉を開けた。
「アリアちゃんと起きてるか?」
不安と心配と、若干の呆れが入り混じったような声を掛けてくるフェクト。
「みりゃわかるだろ、寝起きだよ」
「今日は買い物行くんだろ、早く支度しろよ」
そういえばそうだ。昨日自分で言ったのに忘れていた。私はすぐさまベッドから起き上がり準備を進めていく。
十分経った頃だろうか、準備を終え廊下に出ると二人は楽しそうに会話をしていた。
「お待たせー!」
「やっと来たか、朝ごはんを食べて買い物しようぜ」
そうして外に出ると、隠れて待ち構えていたであろう新聞記者たちに取り囲まれる。
「ギルド職員を全員クビにしたって本当でしょうか!」
「真実をお聞かせください!」
それに対応したのは、フェクトの方だった。
「みなさん落ち着いてください、近所迷惑になりますのでお引き取りください。必要があれば、魔法界を通じて声明出します」
冷静に対応をしようとするが、そんなものでは治らないのが新聞記者というものだ。
フェクトの発言は、誰にも求められていないのだ。それを無碍に扱われるのも仕方ないであろう。
「あなた方、ここで何をしていらっしゃるの?」
ドスの効いた声、それにとんでもない魔力量をオーラとして具現化しているのは、イデリアであった。
それにすら屈さず、なんとしてでも質問しようとする記者たち。それはまるで、仕事に取り憑かれたアンデッドにも見える勢いである。
「実力行使が必要なようね、あなたたち捕まえて構いませんわ!」
どこからともなく、飛び出してくる黒服の魔術師たち。それに驚いて、逃げ惑う住民や記者。それでもなお、質問を投げかけてくる記者もいる。
「止まれ!」
魔力を帯びた言葉、魔言を私は発したのだ。
「そこまでする必要はない、単に私は調査を頼まれたからやったまでのことだ」
「クビにしたのは事実なのですね!」
「私はあくまでも助言をしたまでだ、そう決定付けたのはギルド長だ」
そう言い終わると、何人かの記者たちはメモをとっていた。
「早く解放しろ、それと意味なく私たちに記者は近づかないように」
魔術師たちは、一斉にイデリアの方を向いて指示を仰いでいる様子だった。
どちらの言葉を信じたらいいのか、わからなくて当然だ。直接的な上司はイデリアである。ただ、イデリアと同等の権力を持つのは、私も同じなのだ。
「せっかくの機会だったけど、仕方ないわね、解放してあげて」
そうして、その場はいつもの朝を取り戻した。
「イデリア、私たち明日には出発するから」
私は、普通に日常会話をするようにイデリアに言った。あまりにも唐突なことで、反応が一テンポ遅れてやってくるイデリア。
「なんでなんで、まだここに滞在するんじゃなかったの?」
「しないわよ、私たちは旅人なのよ、長いこと止まるのは最小限にしたいのよ」
そう言ってみるものイデリアが納得しないのは、目に見えていた。
涙を流し、行かないでと懇願するイデリア。私は、これこそ撮られたら威厳がなくなるのではと、心配でたまらなかった。
「話は、朝ごはん食べながら聞くからね」
そうして、一日中泣いていたイデリア、最後の方は涙が枯れるてるんじゃないかと言わんばかりのカラカラの涙を流すのだった。
「それじゃ、私たち行くわ。お見送りありがとうな」
「師匠たちの旅立ちですよ、冒険者一同、感謝しています」
代表で声を掛けてきたのは、白銀の冒険者ことラールである。そして、皆んなからは沢山の食料やらポーションをもらったのだ。
「大切に使うねー」
「お前たち、腐るなよ」
「「はい!」」
そうして、私たちは国を後にした。その時である、ガラガラな声になったイデリアが必死に叫んでいるのだ。
「また、早く帰ってきてねーー」
私は、右手を少しあげ拳で挨拶した。そして振り返ったのだ。
「また連絡するー」
そうして、この国と別れたのであった。




