96話 成果と真実
二人は勢いよく飛び込んできた、それまで昂っていた心は、落ち着きを取り戻し対処に向かう。
特段早くない動き、二人の左右からの攻撃を完璧に対処する。
「簡単に弾き返されるな、少しは粘れ!」
怒号が彼らを襲う。一瞬、体がビクッとなるが攻め込まれてもいいように、防御態勢は崩す様子はない。
「着地した時、次の一手にいる行動をちゃんととれよ!」
その言葉通り、彼らは着地と同時にもう一度駆け出してくる。
今度は、この一週間ずっとやり続けた動きを簡潔にしたような動きで、私を襲う。
「今のお前たちの攻撃は残像剣には程遠いぞ、もっと早く狩り殺す勢いで来い!」
「「はい!」」
返事は一人前そのものだが、この修行で一番の成果を上げてるとはいえ、まだまだだと感じる。
私は、咄嗟に剣を構え二人を地面に叩き落とす。
「どうした? そんなので私を殺せるか、考えていた技とかあるんだろう、それを多用して戦ってみろ」
「僕たちの技、リーチの短い小型ナイフをどう使うか」
「兄貴、あれやってみようぜ!」
弟は楽しそうな声で言う。とてつもなく劣勢であるというのにこの場を楽しんでる時点で、私としては合格を上げてしまうほどだ。
冒険者は、どんなとかでも楽しむのが一番である。どんなに過酷で辛くても、楽しめたやつは強い。
「そうだな、剣聖様と戦える機会なんてほぼないんだ、楽しむぞ!」
私はニコッと笑ってしまう。自然にそうさせてしまう二人に、思わず本気を出しそうだ。
先ほどとはまるで違うかのような動きで、平原を駆け回る二人。
「緊張でもしていたの? さっきまでとは全然違うからこっちな方が良いわよ!」
「余裕ぶっていられるのも今のうちだよ!」
「「成長」」
おいおい、小型ナイフ型の木剣をまさか大剣にするとは私でも想像つかなかった。
「「残像剣!!」」
交互に勢いよく飛んでくる。後ろに兄貴か、失敗しても大丈夫なように保険の役割もあるのだろう。
それに、二人が先ほどからバラバラな場所に意識を集中させようと画策しているのが分かる。
それもいい対策であり、これは魔族相手にでも通用するであろう。
それに気がついているかは分からないが、磨けば宝石が出るのは間違いない。
「でもね君たち、それでは後ろに逃げられカウンターを喰らうよ」
元々にして、優しい性格の持ち主なのだろう。それが裏目に出ている。
魔物、魔族相手にはそんな甘い考えは通用しない。それどころかそれを利用して殺されるかもしれない。
「こんな風にね」
弟の攻撃、兄貴の攻撃を高速で後ろに下がり避ける。大剣なんていう武器を使うからだ。
慣れていない武器を使うってことは、リスクがより高まるのだ。
「地面に突き刺さって兄弟揃って取らないとはね、冒険者としてまだ未熟過ぎるよ!」
揃って仲良く吹き飛んだ二人。それが決定打になってしまったのか、気絶して倒れるのであった。
「はい、お疲れ様でした! 二人起きたら、ある場所に移動するよ」
みんな困惑した表情をしていたが、すぐにわかるだろうとその顔は誰もが普通に戻っていた。
そしてしばらく経った頃、二人は目覚め悔しがっていた。
「悔しがることはいいことだ、これからも続けていけ」
「「はい!」」
私たちはある場所に向かったのだ、その場所に一同驚きを隠せない様子である。
それもそのはず、今いる場所はこの国で人々を守ることを目的とした部隊、国軍の基地に来たからだ。
「中から人が出てくるぞ、ってあれギルマス?」
テイの一言で、冒険者たちはより謎が深まったような顔をしている。
「お疲れ様です、剣聖様お待ちしておりました」
ごつい体をしたギルマスが話しかけてきた。
「あいつからわずごつい体してますね」
「え、師匠知り合いですか? どこで会っていたのですか?」
そう思うのも無理はないだろう、なぜなら私たちはここに来てすぐに、ギルマスに声を掛けられたのだ。
話の内容は、ギルドを私の力で再生させてほしいということだった。
ギルマスが幾度と注意しても直らず困っていたのだ。終いには、受付嬢も冒険者に加担してしまい、ある種の崩壊を真似ていたのだ。
「ここに入国した時だよ、お金目当てであるクエストを受けたんだよ」
「あるクエストってなんですか?」
「君たち、ギルドの冒険者の更生だよ」
それを言った瞬間、胸がキュとなるような苦しそうな顔をしている冒険者たち。
この状況を見るに、だいぶ心辺りがあるのだろう。
「そしたらあの時現れたのって……」
「いや、あれに関しては本当にたまたまだよ。まさか初っ端から人がドアを突き破って登場するんだもん、あれは焦ったよ」
ギルマスは、何それ知らないと言わんばかりの顔でこちらに視線を送ってくる。
「言うの忘れてました、そんなことより受付嬢の方は、一新するべきですよ」
ギルマスは、それを聞くなり苦虫を潰したかのような顔で、頭を抱える。
「え、どういうこと?」
テイは気になったのか、すぐさま話に入ってきた。
「君たちが先に出た後にね、ちょっとした一悶着があったんだよ」
そういうと、あ、アレかと思い出したのかそれ以上聞くのをやめた。
「それよりそろそろ本題に入ったらどうです?」
歩きながら話している間に、大きな会議室に入った私たち。
「君たちには、これから冒険者としてよりよい成長を遂げてもらうために、特別修行を言い渡したのだ」
「より良い成長ってもしかして、魔法界の一件ですか?」
ワードは食い気味に聞いている。それだけ、あの戦闘はワードからしてみれば、参加したかったのだろう。
魔法界とダークウィッチーズとの戦い、それだけ衝撃が強かったことだろう。
「それも関係しているが、単にちゃんと冒険者としての仕事をしてほしかっただけだよ」
「君たちが、最低限の仕事しかしないとぼやいていたのがきっかけだからね」
白銀の冒険者でさえ、二週間に一度仕事したらいい方だったと聞かされたほどだ。
しかも、低級難易度のものばかりだ。他も、お金がなくなりそうになれば仕事をするといった者ばかりだった。
それがたった一週間で見違えるほど変わったのだ、それを維持してほしいのもまた願っているのだろう。
「これからはちゃんとギルマスのこと、話はちゃんと聞くんだよ、それじゃ解散!」




