6話 旅の最中には犯罪者にも出逢います
冬が終わりを知らせる、春の暖かさが身にしみてくる今日この頃。私は今、賞金首の男を追いかけている真っ最中です。
話は、数日前に遡る。いつものように私は、箒に乗って小雪片手にコーヒータイムを楽しんでいる最中のことだった。ふと目を自然の方に向けると、ちょっとした丘の上に人が立っているの見つけたのです。
好奇心が湧き小説をボックスにしまい、コーヒー片手に箒をそちらに向け、方向転換したのです。
「そちらの旅人らしきお方、今何されているのですか?」
アリアは、微笑みつつ声をかけた。
男は、少しビクついた様子でこちらを向いた。男は、とたんに顔を真っ青に染め、今にでも逃げ出そうとしていたのだ。
慌てて箒を現します。
アリアは、この光景に驚きながら、今度は慌てた様子で声をかけた。
「え、どうしたんですか何かありました?」
その言葉を無視して逃げたのだ。アリアの表情が険しくなる。
「ちょっと止まってくれるかな。止まらないなら実力行使でいいんだね!」
アリアは少し、荒らげた声で叫ぶが止まる様子もない。箒を、全速力で逃げた方向に飛ばす。箒から立ち上がり、助走台として箒から箒に飛び乗ったのだ。
アリアは、声色は最初と変えずに言葉を放つ。ただ先ほどと違って笑顔はない。
「いったん、止まってくれるよね」
観念したのか、すぐさま箒を地面に下ろした。そして、すかさず地面に頭を擦りつけたのだ。そして見渡す限りの平原ど真ん中で、命を懇願してきたのだ。
その時、私はようやく理解した。目の前にいる男は、賞金首なのだと。
「どうか命だけは助けてくれ! 俺は、あなた様に敵うような相手ではございません。どうかご慈悲を」
目の前にいる男。最初、すぐに気づけなかったのは仕方ないと心の中で思う。手配書の顔とはまるで違う。手配書には、綺麗な銀髪をしている爽やかそうな笑顔の男。
今、目の前にいる男は薄汚れた銀髪で、いやなにおいを放つ痩せこけた男である。
アリアは、ボックスに入れてあった手配書の束を取り出し魔法を唱えた。
「見つける」
この魔法は、探し物を頭の中でイメージしそれを見つけ出す魔法。
手配署が、パラパラとめくられていく。
そして私が想像した通りである。やはりこいつは、賞金首なのである。そうと決まれば、やることは二つに絞られる。
一つ目は、ギルドに連れていき身柄を引き渡す。
二つ目は、ここで始末してギルドに持ち込むこと。
「あんたの名前は、ナール。罪は結婚詐欺師ね。ダイナール一枚」
こいつ結婚詐欺師として、悪徳すぎて、恨みを買いまくっているレベルでつけられるやつの金額じゃん。
アリアは蔑む目でナールを見た。
彼は、完全に怯え切っている。私が誰だかわかっているようだ。
「あなた、ここで死んでた方が身のためだと思うけど?」
これは私なりの良心である。このままだと禁固刑にはならず、奴隷堕ちである。
買われたとしても、せいぜいもって数時間がオチである。騙して恨まれまくっている彼を、私は被害者に断罪の機会をあげることになる。
ただそれには問題がある。
貸出し制度では、奴隷だからといって殺してはならない。冒険者になったといって許可されるわけではない。
昔それ目的で、やったやつが何人もいたと師匠から聞いた。
それら全員、その当時の剣聖が違法として罰したのだ。
「いやです。死にたくありません、助けてください。奴隷堕ちで構いませんから、どうか命だけは」
彼にも事情があるのはわかる。ただ、どの道ここで死んでいた方が彼のためになると思うのだ。こうして考えごとをしているうちに、奴隷について思い出したことがある。
「もしかして、奴隷堕ちして買取されたいの?」
彼は、即答であった。
「はいそうなんです」
その時私は、全て理解した。こいつには運命を誓い合った恋人がいる。その証拠に、右手の薬指に指輪をはめている。あれは、両親もはめていたものと同じだ。
そして買取されて、駆け落ちしようとしていることに思い当たったのだ。それには、莫大な費用がかかる。それは、通常誰が考えようがそれをほぼやるメリットはない。
それどころか、デメリットでしかない。
そう考えていると、彼は箒に乗り込み逃げていた。
「やっぱ逃げよう」
そう言い残して、彼は飛び立ったのだ。
私は、ため息をこぼしつつ彼を追った。それがまさか、何日も日を跨ぐとはおもいもしなかったのだ。
「あいつ、どこに行きやがった」
アリアも、何日も動いてばかりで苛立ちが目立つようになってきていた。やつの逃げた方向に向かって何度か見かけたが、彼を捕らえることが出来なかった。
あと一歩のところまで来たのを何度も繰り返していた。
だがそんな状況で、神様は見捨てなかった。
本当に偶然、こちらに向かってきているのが見えたのだ。
「何やってんだあいつ?」
なぜか、箒は折れており魔物に追いかけられていたのだ。
「アレはゴブリンか?」
「た、助けてくれーー!!」
本気で叫んでいるのがわかる。アリアは、ため息をつきつつも剣を取り出した瞬間には、ゴブリンの後ろにいた。
「ハイおしまい」
次の瞬間、ゴブリンは消滅し魔石へと変化したのであった。
それを拾いつつ、ナールを本気で睨みつけていた。
ナールは、完全に怯え尻餅をついて、股のところが濡れはじめていた。
辺りの地面が少し滲んでいく。
「改めて言うよ、ここで死んだ方がマシだと思うけど」
「それは何度、言われても変わりません! どうかご慈悲を」
「ちょ、近づいてくんなこの変態!!」
剣をナールの前に突き出しつつ、後ろに下がらせた。
「わかったわ、私が折れたらいいのね。その代わり、どんな未来が待っていようと、それは自業自得だからね!!」
そう言って、この数日間彷徨っている間に見つけておいた村によって身柄を渡したのだ。
賞金が準備出来次第私は旅に出た。もうこの男に関わりたくなかったからだ。
そうしてそんなやつがいたことを忘れた頃に、私は思い出すこととなる。
とある国のとあるカフェ。テラス席で優雅にコーヒーを飲んでいる。ふと、新聞の記事がひときわ目を引いたのだ。
『結婚詐欺師ナール、奴隷引渡しの際殺害!! 犯人は女性』
だから私は、禁固刑の方が良かったと思うのに。アリアは、そう思ったが口には出さなかった。
「すみません! デザートにショートケーキお願いします」
いやな記事を見た時は、口直しが必要不可欠と思いながらケーキがくるのを待つのであった。




