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モンスターテイマー  作者: 泰然
仲間との出会い
32/37

31話 愛しき人よ、永遠に



『終わった……』




 そう言いながら砂塵が舞う方向を見据え、槍が生き物のように手元に戻る。


 覚束ない足取りで、他の仲間を援護しようと足を踏み出す。




「姐さんっ、避けて下さいっ!」




 アンが叫んだ瞬間、煙の中から何かが飛んでくる。


 一瞬の出来事で、避ける事が出来ない。右目、左肩、左脚、右脚、四ヶ所に痛みが同時に押し寄せる。


 矢が同時に四ヶ所を射抜いている。


 運良く右目は骨に当たり、致命傷には至らない。他も動けない程の傷では無いが、ルクバに対抗できるか分からない。


 だが、右目は距離感が掴めず、体のバランスが取れない。


 少々、痛みに耐えながら砂塵の方を見る。


 そこには人の形をしていたルクバの姿は無い。


 腹に氷塊が穿たれた大きな穴に、醜悪な馬の顔に成り果てていた。




『なるほど……。それが本来の姿かい』




 アタイが発した言葉に、ルクバは答えない。


 満身創痍で喋れないのか、余裕が無いのか、理性が飛んでいるのか。


 極めつけはあの弓だ。何処にでもあるような簡素な弓に、先端に蒼い布が括りつけられている。


 何にせよ、今戦うには骨が折れる。


 槍を構えて態勢を整えると、ルクバは走りながら弓を放つ。




『アアアァァァッ!』


『言葉も忘れちまったのかいっ……』




 ルクバは咆哮しながら矢を後ろから取り出し、速射を繰り返す。


 速射にも拘らず、尋常じゃない射撃性能。動きに微塵も無駄がない。コイツの戦術は、射手が本来の戦い方。


 急所だけでなく、動きを封じる為に逃げ道を塞ぎながら足元にも矢で牽制してくる。


 槍でこの場を防ぐのは困難と判断し、脚は痛いが動きながら距離を詰める。


 足を踏み出した時、ルクバは右手を地面に押し当てる。


 すると、自分の足下が光り出し、光の剣が無数に飛び出してくる。間一髪、何とか避けることが出来た。


 しかし、詰めようとするとクレイモアが邪魔で近付けない。


 近付けなければ、防ぐものを創ればいい。そう思い立ち、自身の足下に手をなぞるように添える。




『ドゥシュ・イスベルグ……高く、舞い上がれっ』




 周りの砂漠が凍り付き、助走をつける。


 踏み出す度に地表が白く凍り、冬の湖のように波紋して広がる。ルクバは狙いを定めるが、先程より速度が増している為、中々当てることが出来ない。


 向きを変えながら走り、もう一度、足下に手を添える。


 そこから山のように盛り上がり、氷山を駆け上がる。その氷山に何度も矢を射るルクバは、弾切れを起こして焦り出す。


 それを見逃さず、頂上まで駆けあがり、大きく跳躍する。


 槍を両手で振り上げ、一撃で頭を突き刺そうとする。




『だああぁぁぁぁっ!』




 しかし、ルクバの先程の弾切れは演技で、光の剣を矢に見立てて放つ。


 それが脇腹を貫通し、軌道がずれる。槍はルクバの肩を掠めるだけに留まり、痛みを堪えながら後ろに下がる。




『油断したな、ドラゴーネ。小生が理性の無い獣と思ったか?』


『はぁ……はぁ……。それも、演技だったって……訳かい』




 またルクバは、肩を揺らしながらケタケタと嗤笑する。


 姿が変わっても、あの忌々しい表情が目に付く。


 全身痛くて、力が入んない。脇腹も抉られちゃ、何処に力を入れればいい。魔力も、もう無いのにさ。少し、休みたいね。


 そう言いながら、槍を杖代わりに体を支える。


 そんな姿を嘲笑うように、ルクバはアタイに指をさす。




『ドラゴーネ、冥途の土産に教えてやろう。我が伏魔十二妖星は、このように姿をもう一段階、隠している。小生らに勝てぬ理由は、至極当然だ』


『へっ……そうかい。だからっ……腹を大きく抉られても、アンタはピンピンしてる訳かい……』




 それが何だってんだい。


 本来だったら、アタイもお前と同じ土俵で戦えてたさ。回復が使えないんじゃ、意味ないけどね。


 全く何回、命を削れば気が済むのかね。


 これで流石に、《《限界だね》》。


 姿勢を正し、槍を大きく横に振る。足下には巨大な魔法陣が現れ、目まぐるしい程に蒼白く輝く。


 それを見たルクバは、眉間に皺を寄せる。




『ドラゴーネ。貴様には、もう魔力は無いはずだ。何だその魔法陣はっ……』


『アタイも、アンタに教えといてやるよ。魔力の限界値を越えたら、何処から補うか……。生命の源だよ、魔力ってもんは……』


『バカかっ。死ぬだけだっ』


『根っから頭は悪い方なんでね……。《《国に尽くすか、尽くさないか》》……この二択しか思いつかないもんでね。ついでに、アンタには冬の厳しさをよく覚えてもらうよ。身体が染み入る、極寒をね』




 周りを旋風のように雪が舞い、徐々に強さを増していく。


 その旋風が、槍に集まり始め、耳を割くような鳴りを出す。まるで、強風に煽られる冬のような吹雪に。




『極寒の中で震え、雪原の地に激動する。奥歯を鳴らして、あの世で悔いろっ。イヴェール・ラァァァァジュッ!』




 槍から巨大な竜巻のようにうねり、 氷が複数ぶつかりながら雷鳴を発して唸る。


 支える腕が震える、脚から血が流れて力が入らない。目から痛みが増して、頭が割れそうだ。


 でも、関係ない。死んでいったアイツらに比べれば、安いもんさね。


 踏ん張って、魔力を抑えろ。血を沸き立たせろっ、脚を前に出せっ、みんなが《《国》》に帰るまでっ。




『死に損ないがっ……。其の身を捧げるは、御身の魂。我が守護星の名の下に、正義の鉄槌を。ファイブ・ジュピターッ!』




 ルクバから放たれた五つの矢が一陣となり、お互いの魔法がぶつかり合う。


 攻防一体、どちらも一歩も引かぬ魔法は、拮抗し続ける。少しずつ、自分の魔法が押し返し、もう少しでルクバに届く。


 少しだ、後少しで届くっ……。




『ぐぅぅぅっ……。俗物がぁっ』




 ルクバの光の矢から、一矢が飛び出し、それが自分の左脚を射抜き、消失する。


 体勢を大きく崩し、砂漠に顔を打ち付ける。それでも槍は手放さず、前に突き立てる。だが、又もや振出しに戻った。


 もう、力が出ない。ごめんよ、お前達。


 全力、出したんだけどね。




「姐さんっ、いつものバカ力はどうしたんですかっ。諦めないで下さいっ、俺がアンタの脚になりますからっ。そんな悲しい顔、しないで下さいっ」


『アン……』




 アンに励まされながら肩に摑まり、気持ちを切り替える。


 流した泪を拭ってもらい、一か八かの賭けをする。初めてやるから、どこまで通用するか分からないがアンに提案する。




『アンッ、アタイをこの竜巻に投げ入れなっ』


「えっ、そんなことしたら姐さんの体がどうなるか――」


『今更どうもこうも無いだろっ。早くやんなっ』




 アンは言われた通り、竜巻の近くに寄せる。


 すると、風の流れに乗り、アタイは渦の中に吸い込まれる。そのまま槍を突き立て、ルクバの下まで飛ぶ。


 空気抵抗を受けぬまま、旋風の勢いで光を突き抜ける。




『終わりだああぁぁぁぁっ!』




 ルクバは突然現れた自分に驚愕し、目を大きく見開く。すぐに憎しみの表情を浮かべ、その顔面に槍を伸ばす。


 頭蓋骨を貫通し、ルクバの劈く(つんざく)悲鳴が響き渡る。




『小生はっ……ぼくは……。ただ、弓を褒めて欲しかっただけだああっ……』




 そう言い残したルクバは、黒い灰のように消えて空に消えていく。


 アタイはその場に倒れ、一歩も動けない。何処にも力が入らず、鼓動だけが静かに鳴るのを感じていた。流石に、頑張り過ぎたか。


 首を横に動かし、虚ろな瞳で夕陽を眺める。


 綺麗だね、こんな夕陽で最期を迎えられて幸運だよ。五百年以上も生きてきたんだ、後は悔いなんて――。




「姐さん……姐さんっ。しっかりして下さいよっ……。俺……まだ、姐さんから返事……聞いてませんからっ……」


『へん、じ……。何の事だい……』


「告白っ……。聞いてませんからっ」




 そんなこと言ってたね、勢いだけのデマカセだと思ったのに。


 まぁ、期待させて死ぬよりも断っとくのが無難かね。一生、コイツが童貞で死んだ方がアタイも浮かばれないしね。


 でも、どうしようかね。迷うくらい、コイツに揺れ動いちまって。数百年、忘れちまってたから、すっかり乙女になっちまったよ……アタイも。


 浅い呼吸に耐えながら、ただアンの瞳を見つめて口を開く。




『アタイ、も……す、き……。だ、い……好き……』


「――っ。……じゃあ、両想いですね。姐さん……」




 あぁ、目にも力が入ん無くなってきちまった。アンの顔、もっと見たいのに。


 こんなアタイを、憾まないでくれよ。今度生まれ変わる時、一緒に……もっと――。
























「姐さん……? 姐さんっ……ねぇ、姐さんっ」




 何度呼んでも、姐さんは目を覚まさなかった。


 首を起こすと、姐さんの閉じた瞳から夕陽に照らされた涙が零れ落ちる。俺は悟り、姐さんが帰らぬ人となった。


 俺は何度も姐さんの亡骸を抱き、咽び泣く。


 逝かないでくれ、戻って来てくれ。その言葉しか出てこない。


 自分でも折れる程、彼女を抱き締め、肩に顔をグシャグシャに擦りつける。護りたかった、生きている時に強く抱き締めたかった。


 そんな感情が湧き上がり、自分の無能に苛まれる。




「姐、さんっ……」




 涙が止まらぬ最中、周りが静寂に包まれている。


 見渡すと、モンスターや召喚獣がいない。何故だ、そう疑問しか浮かばない。辺りの兵士たちも、何が起こったのか理解が追いつかないようだ。


 そして、夕陽の方角から誰かが歩いてくる。ザクザクと砂漠を歩く音に杖を携え、絢爛と言った言葉が似合う羽衣。


 《《女神のように》》。


 逆光で何も見えないが、シルエットが女性であるのは分かる。その方は、ゆっくり近づき、正座をする。




『よくぞ、耐え抜いた』


「貴方は――」


『娘を借りるぞ』




 その女性は、姐さんの胸に手を当て、何かを唱えている。


 その言葉の意味は、今まで聞いた事の無い言語だった。




『バァ・ミィ……』




 彼女が言い終わると、姐さんの体が黄色く光る。先程より穏やかな表情に変わる姐さんを、俺は呆然と眺める




『もう大丈夫だ。しかし、済まんな。毒と脚は、修復することが出来ない。その猛毒は、我と同じで高貴なものだ。治す事は出来ない』




 彼女は悲しい表情を浮かべ、俺はそこまで気を遣わないように言葉を返す。


 すると、彼女が柔らかい表情を浮かべ、何故か分からないが心が安らぐ。


 暫くしてから我に返り、俺は咄嗟に胸に耳を当てる。




「動いてるっ……」




 その嬉しさに、また大量の涙が零れ落ちる。


 心臓が、また動き出している。目は瞑っているが、疲れて寝ているだけと女性は語る。彼女は立ち上がり、デューネ帝国に向かって歩いて行く。俺は姐さんを優しく寝かせて立ち上がり、女性にお礼を言う。




「あの、ありがとうございますっ。アナタは命の恩人ですっ。できれば、お名前を――」




 彼女は振り返らず、首だけを動かし、短く告げる。




『……お前達の《《祖》》だ。すぐ、また逢える』




 彼女はそう告げ、夕陽に照らされた横顔は、とても美しかった。その場から浮遊し、デューネ帝国へと飛び立つ。


 だが、どんな魔法を使って姐さんを助けたのか。俺達の祖とは、一体どういうことだ。


 あれは、何なのだ。







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