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【短編】前世の愛弟子が出世していたので、陰ながら見守りたい ~気づかれていないはずなのに、なぜか執着されているんですが?~

作者: shiryu
掲載日:2023/10/30



「師匠! マリアンヌ師匠……!」


 私の愛弟子、レオポルドがベッドの側で泣きながら、私の名を呼んでいる。


 もう身体はベッドからほとんど動かず、目を開けるのも辛くなってきた。

 首を横に向けて、最期に愛弟子の姿を視界に捉える。


 まだ十五歳という子供で、幼さが抜けない可愛らしい顔をしていた。

 だけど綺麗な顔立ちをしているので、将来はカッコよくなるだろう。


 でも今は……涙を流していて、可愛い顔が台無しね。それでも愛らしいけど。


 銀色のふわふわとした髪、その髪の中から狼の耳が生えている。

 レオポルド、レオは狼の獣人だ。


 レオが十歳の頃に村が魔物に襲われて、彼が命からがら逃げだしたところを、私が保護したのだ。

 私は魔法使いだったので、それから彼を弟子にして育てて、一緒に暮らしてきた。


 一緒に過ごして、五年間……思った以上に、長く生きられた。


 レオがいたから、魔法薬を作って寿命を延ばした。

 本当は数年前に、不治の病で二十代で死ぬはずだった。


 だけどレオともっと一緒にいたいから、無理やり寿命を延ばして、三十歳まで生きた。


 私は力を振り絞って、愛弟子のレオの頭に腕を伸ばして手を置いた。


 ふわふわでずっと触っていたくなる髪。


「レ、オ……」

「師匠……!」


 ああ……ごめんなさい、レオ。

 またあなたに目の前で、家族を失わせてしまう。


 だから私は、あなたと一緒に暮らすのを躊躇った。

 絶対にこの瞬間が、来てしまうから。


 でも、レオ。そんなに泣かないで。


 私が死ぬのは覚悟していたことだから、これまでに後悔がないようにいっぱい話した。


「レオ……泣いてちゃダメよ。可愛い顔が、もったいないわ……」

「師匠……僕は、可愛いじゃなくて、カッコいいって言われた方が、嬉しいです……」

「ふふ、そうね……笑った方が、カッコいいかも」


 私がそう言うと、レオは腕で雑に涙を拭いて、不器用にニコッと笑った。


「ええ……そっちの方が、可愛くて、好きだわ」

「どっちにせよ、可愛いじゃ、ないですか……」

「ふふっ、そうね……」

「ははっ……!」


 私とレオは静かに笑い合った。

 最期の別れが悲しいだけで終わりじゃ、寂しいでしょ。


「特効薬は……完成させてね。そうしないと、雷落とすからね……」

「師匠の雷は、怖いですね……だけど、どうやって落とすんですか?」

「そりゃ、天国からずっと見てるからね……サボっちゃダメよ」

「……はい、わかりました。見守っていて、くださいね」

「ええ、もちろん……」


 もう目が、開かなくなってきた……力も入らず、レオの頭に置いていた手が滑り落ちた。


「レオ、私のレオ……愛しているわ」

「っ……僕も、愛しています、マリアンヌ師匠……」


 最期の言葉を告げて、レオからの返事も聞こえた。


 ああ、私は満足だ……。


 こうして、私の人生は終わった――。



「――と、思っていたんだけどね」


 私は、転生していた。前の人生、前世の記憶を持って。


 まさか転生するとは思わなかったわね。

 死んだと思って次目覚めたら、まさか赤ちゃんになっているとは思わなかった。


 今世の名前はマリア・アウティオ、前世のマリアンナという名前に少し近い。


 すでに生まれてから十八年が経った。

 その間にいろいろと調べたけど……前世の私が死んでから、百年という月日が経っていた。


 さすがに死んでからすぐに転生したというわけじゃなかったようね。

 百年経てばいろいろと変わっていて、個人的に面白かったのは魔法の進歩だ。


 私は魔法学園に入ったんだけど、いろいろ学べてとても楽しかったわね。


 五年間通ったけど、あっという間だった。

 まるでレオと一緒に過ごした日々のように……そう、レオ!


 あの子、魔法学園の教科書とかに出てくるくらい出世していた!


 最初にレオポルド・ミハルヴァーという名前を教科書で見た時は、本当に驚いたわ。


 しかも教科書に載っている内容が、私が死んだ原因の不治の病の特効薬を作ったからだと知った時は、もう教室の中で叫び出したいくらいに嬉しかった。


 あの子は、私との死に際の約束を果たしたのだ。

 もう……レオが私の愛弟子だと世界中に叫びたい!


 さすがにそんなことをしたら、頭がおかしい人だと思われてしまうけど。

 私が転生したことは、もちろん誰にも話していない。


 前世の記憶を持って転生した例など聞いたことないし、誰かに言っても信じてもらえないだろう。


 だから親にも友達にも言ってないのだが……。


 なぜか私は、レオに「僕のところで働かないか?」とスカウトされた。


 ――レオは、まだ普通に生きている。


 獣人族は寿命が長く、三百年くらいは生きるらしい。

 だから百年経った今世でも、普通に生きていた。


 私とレオが今世で出会ったのは、魔法学園の卒業式だ。

 レオは魔法学園の卒業式に、来賓代表として壇上に上がって挨拶をしていた。


『皆様、ご卒業おめでとうございます』


 記憶にあった声よりも少し低くなった、大人の男性の声だった。

 銀色の髪は伸びていて、肩に触れるくらいの長さまである。


 ふわふわな髪質はそのままなのか、遠くからでも柔らかそうな髪だとわかる。


 顔立ちは男らしくなっていて、だけど少し可愛らしい面影も残っていた。


 ああ、レオ……大きくなったのね。


 私はとても感慨深い気持ちで、レオが挨拶をするのを眺めていた。

 レオは真面目で少し冷めたような表情を浮かべながら、卒業式に参加している生徒たちを見渡しながら喋る。


 もう、もっと表情豊かにして、笑みを浮かべるようにって言ってたのに、それは出来ていないようね。


『皆様の今後の将来が楽しみです。いずれ一緒にお仕事を……っ!?』


 私の方に顔を向けた瞬間、レオの顔が強張って目を見開いた。

 そのまま数秒ほど固まってしまい、話が中断していた。


 えっ、どうしたんだろう?


 私以外にもそう思った生徒や参加者が多く、会場がざわざわし始めた。


『っ……あ、ああ、すみません。えっと、いずれ一緒にお仕事を――』


 しばらくすると何事もなかったかのように話し始めた。

 なんだったのかわからないが、とりあえず卒業式は無事に終わった。


 問題は、その後だ。


 卒業式が終わり会場を出た瞬間、レオに話しかけられた。


『ちょっと君、いいか?』


 まだ卒業生や参加者が多くいる会場の中。

 来賓者の中で一番有名で、師匠の贔屓目なしに顔が良いレオ。


 そんな一番注目を浴びているレオにいきなり声をかけられたのだ。


『君、名前は?』

『マリア・アウティオですが……』

『マリア……』


 まさか、私が転生したとバレてしまったかと思ったけど……。


『いい名前、だな』

『あ、ありがとうございます?』


 よくわからないけど、名前を褒められた。

 そしてレオは私の全身を眺めてから、一つ頷いた。


『ああ、マリアはとても優秀な魔法使いだ。身体から出ている魔力を見ればわかる』

『えっ、あんまり出してないと思いますが……』

『ああ、一般人くらいの魔力しか出ていない。それなのに君の身体から多大の魔力量を感じる、つまりそれだけ魔力操作が上手いということだ』


 そう言われた時、私はレオの頭を撫でてあげたくなった。

 私が前世で教えたことをずっとやっていて、とても偉いわね……!


 魔法使いは体外に出ている魔力量だけを見るんじゃなくて、体内の魔力量も察知できるように注意深く見ること。


 レオにそう教えたのは、この私だ。

 はぁ、褒めて撫でてあげたいけど、さすがにできない。


『ありがとうございます。レオ……ポルド様には負けますが』

『……ふっ、どうだろうな?』


 前世の時の名残で、普通に「レオ」と呼びそうで危なかった。

 みんなが注目している中、そんなことを話していたら……。


『そうだ、マリア。俺のところで働きにきてくれ』

『えっ?』

『君みたいな優秀な人材、逃したくないからな』


 レオに軽く口角を上げた笑みを浮かべてそう言われて、私は苦笑いをするしかなかった。



 そんな卒業式での再会があって、今日。

 私はレオポルド・ミハルヴァーが治める領地に来て、仕事をしていた。


 レオって貴族になっていたのね……しかも領地をいただけるほどの貴族、辺境伯様とのことだ。

 そりゃ顔も良くて辺境伯様だったら、卒業式でもどこでも注目されるわね。


 出世したのは師匠としてとても嬉しいけど……もうレオって気軽に呼べなくて、少し悲しい。


 とりあえず私は、そんな辺境伯様になったレオにスカウトされたので、待遇も良かったので喜んで引き受けてきた。


 私がスカウトされたのは、彼が総長を務める騎士団の団員だ。

 その中でも治療を務める、回復術師団に勤めることになった。


 回復魔法を扱う人はとても少ないので、私は魔法学園にいた時も重宝されていた。


 しかし、卒業式後にレオと面談をしたのだが……なぜ彼は私が今世でも、回復魔法を使えると知っていたんだろう?


 相手の魔力量を感じ取ることは出来るけど、どんな魔法を使えるかなどはわからないはずだ。


『どうして私が回復魔法を使えるとわかったのですか?』

『ん……勘だな。獣人の勘は結構当たるんだ』

『そうなの、ですか?』

『ああ、そうだ』


 面談の時に質問したけど、なんか要領を得ない回答だった。


 獣人の五感が人間よりも鋭いというのは聞いたことあるけど、ただの勘が当たるなどは聞いたことなかったし。


 まあなぜ当てられたかはわからないけど、私はレオの下で働くことにした。


 レオのことは好きだし、彼がどんな風に成長したのかを見たかったから。

 だけどレオは辺境伯様でとても忙しいだろうし、会う機会など少ないはず。


 時々、遠くからレオのことを見守ったりできればいい、と思っていたんだけど……。


「マリア。今日も精が出るな」

「……レオポルド様。おはようございます」


 私が仕事をしている中、今日もレオが仕事場にやってきた。

 今は回復用のポーションを調合しているところで、私は一人で調合していた。


「おはよう。いつも大変だろうけど、お疲れ様」

「いえ、レオポルド様ほどじゃありませんよ」

「レオ、でいい」


 彼が笑みを浮かべてそう言った。

 くっ、カッコよくて可愛いね……昔の可愛らしさが少し残っているのが、逆にドキッと来てしまうところだ。


「……辺境伯様をそんな気軽には呼べませんよ」


 私はいろんな人に「なんでレオポルド様とそんなに仲良いの!?」と言われている。

 レオは辺境伯領や、ここの騎士団の中でも、不愛想で有名だったようだ。


 そんな辺境伯様が王都の魔法学園の卒業式に出席して、すぐに女の魔法使いをスカウトしてきた。


 しかもとても仲が良さそうだということで、いろいろと噂になっているらしい。

 なぜなのかなんて私はわからないけど、これ以上変な注目を浴びたくない。


「そうか? だけどマリアもレオの方が呼びやすいよな? 何回か『レオ……ポルド』って詰まっていたし」

「うっ……」


 確かに、何回かそんな呼び方をしてしまったことがある。

 だってレオって呼ぶ方が慣れているから。


 でも、ようやく「レオポルド様」と呼ぶのに慣れてきたのだ。


「それに関しては失礼をしたと思いますが。これからはしっかりレオポルドと呼びますので、大丈夫です」

「ふふっ、頑固だな、マリアは」

「レオポルド様ほどじゃありません」


 私達はそう言って笑い合う。


 ああ、なんだか懐かしいわね。

 前世の頃、私とレオは二人、狭い部屋でこうして魔法の実験などをしていた。


 私はあまり出世できなかった魔法使いで、狭い家で一緒に暮らしていた。


 レオは私の死後、いっぱい努力して実績を立てて、辺境伯様になったのだろう。

 ……あれ? そう思うと、レオを教えた期間なんて、彼が生きてきた百年以上の中の五年間。


 私が師匠だなんて名乗るのは、おこがましいかも……。


 だ、だけどあの五年間は私の中でとても思い出深いものだった。


 ……師匠と名乗るのはやめて、家族にしようかしら?


「それで、レオポルド様はどうしてこんなところに? 回復術師団に用なんかないですよね?」

「ああ、回復術師団には用はないな。ただマリアに会いに来た、というのはダメなのか?」

「一人の騎士にそれだけ時間をかける暇はないと思いますが……」


 本当に、なんでレオはこれだけ私に執着してくるのだろう?

 私がマリアンヌだとバレている? だけどそんな素振りはないし。


「レオポルドさまぁ~!」


 そんなことを考えていると、部屋にノックもせずに入ってきた令嬢がいた。

 レオはその令嬢の声を聞いた瞬間、令嬢に背を向けていたので、わかりやすく顔をしかめていた。


 私も令嬢の猫なで声に辟易しそうだ。


「……ディアンタ嬢。どうしたんだ?」


 レオは私と喋る時は無表情ながらに柔らかい雰囲気が多いけど、彼女と喋る時はいつも通りの冷たい雰囲気だ。

 仕事として接している、みたいな感じになっている。


「ここにいたんですね~。うっ、なんか薬品臭いですぅ」


 そりゃ薬品が置いてある場所なんだから、当たり前でしょ。


「というかレオポルドさまぁ、家名じゃなくてシーラって呼んでくださいよぉ」

「そこまで親しくないから無理だな」

「えぇ~、これから仲良くなればいいじゃないですかぁ」


 辺境伯様のレオに気に入られようと、シーラ嬢は話しかけに来ているようだ。


 シーラ嬢は隣の領地のディアンタ伯爵家の令嬢だから、レオもあまり失礼は出来ない。

 だから適当に接しているが、さすがに無視はしていない。


 前世では嫌いな相手は完全に無視していたのだから、成長はしているようね。


「それで、マリア。新しいポーションの開発はどうだ? 上手くいっているか?」

「あっ……」


 レオは腕にすり寄ろうとしていたシーラ嬢を避けて、私の方に寄って隣に立った。


「そうですね、新しい薬草などを取り入れて実験をしてますが、まだ完成にはほど遠いです」

「そうか、マリアでも難しいなら時間がかかりそうだな」


 二人並んで実験したポーションなどを見ているのだが……。


「……」


 後ろから、すごい視線を感じるわね。

 シーラ嬢からの熱くて冷たい視線がビシビシと。


 そりゃずっと狙っている辺境伯様が、よくわからない女魔法使いと楽しそうに話していたら、思うところはあるわよね。


 今のところ睨まれているだけだから実害はないからいいんだけど。


 百年前はもっといろいろとあったからね……。


 そんなことを考えていると、またこの部屋に一人の騎士が入ってきた。


「レオポルド閣下! 北部の砦で魔物が大量に発生したようです!」

「っ、そうか。俺も向かおう」

「お願いします!」


 この辺境地は魔物が出ることが多く、だからこそ騎士団が常駐している。

 他の領地では騎士団のような大きな兵団を作ることは違法とされているので、それだけ王族から信頼され、特別扱いをされているというのがわかるだろう。


「すでに怪我人も出ているだろう。マリアも同行してくれ」

「もちろんです」


 回復術師団の私は戦いに出ることはないが、戦地に行ってポーションを分け与えたり、自らの回復魔法で怪我人を治す仕事がある。


 そして私達はすぐに馬に乗って、前線へと向かったのだが……。


「……シーラ嬢、なぜ来たのですか?」

「えっ、だって、レオポルド様のカッコいいところが見られるんでしょ? そりゃ行くに決まっているでしょ?」


 私と一緒に馬に乗っているシーラ嬢。

 彼女の方が小さいので前に座っていて、その後ろで私が馬の手綱を掴んでいる。


「戦いの場に出るつもりですか? さすがに危ないので、出るのは禁止されると思いますよ」

「えっ……と、遠目から見ることは出来ないの?」

「前線の状況がわからないので何とも言えませんが、難しいと思います」

「そんな……」


 残念そうにしているシーラ嬢、なんだか可愛らしいわね。

 こんな子に好かれているのに、レオは邪険に扱うのね。


 レオは結婚をしていなくて、婚約者もいないようだ。


 だからこそシーラ嬢は狙っているのだが……なんでレオはモテるのに、婚約者がいないんだろう?


 もしかして、男性が好きとか?

 五年間一緒に暮らしたけど、そこらへんは知らないわね……。


「そういえばあなた、名前は?」

「私ですか? マリアと申します」

「そう、マリア。なんだかレオポルド様に好かれているようだけど、あまり調子に乗らないようにね! 私が絶対にレオポルド様を落とすんだから!」

「はぁ、肝に銘じときます」


 シーラ嬢は睨んできているのだが、私の前でちょこんと座って見上げて言ってきているので、全然怖くない。


 十八歳と聞いているので、私よりも歳下のシーラ嬢。

 赤くて長い髪がふわふわしていて、顔立ちも可愛らしい。


 ……なんだか前世の小さかったレオを思い出すわ。


 頭は撫でちゃダメよね?


「それと、どうやってレオポルド様とあんなに仲良くなったのか教えなさいよ」

「うーん、それが特に思いつかないんですよね。なぜなんでしょう?」

「私が聞いているんだから、質問を質問で返すんじゃないわよ」


 シーラ嬢に怒られてしまったが、本当に思いつかないのだ。

 最初からなぜかあの距離感というか、前世の時のように喋りかけてくる。


 いや、前世の時よりもなんか意地悪になって、私に話しかけに来ている気がする。


 私が彼に話しかけられて困っているのを、少しニヤついて楽しんでいるようだ。


「じゃあ私がレオポルド様に気に入られるように協力しなさいよ」

「うーん、いいですけど……まず一つアドバイスが」

「なに?」

「いつもレオポルド様に話しかける時に猫を被ったように甘えた声になりますが、あれはやめた方がいいですよ。絶対に好かれないので」

「よ、余計なお世話よ!」


 そんなことを話していたら、北部の砦に辿り着いた。

 馬を降りて、レオとシーラ嬢と一緒に砦の中に入る。


「閣下! お待ちしておりました!」

「現状は?」

「魔物の数はあまりいないのですが、強い魔物がいまして、前線でギリギリ耐えている状態です。けが人も多数います」

「わかった、よく耐えてくれた。俺が前線に出て魔物と戦う、他の者は援護を頼む」

「かしこまりました!」


 レオはいつもよりも真剣な表情で、砦の中で他の騎士の話を聞いて指示を出していた。

 彼がどれだけ強いかはまだあまり知らないけど、一人で戦うつもりなのかしら?


「マリアは砦の外に臨時の救護室があるから、そこに向かってくれ。重傷者が多いだろうから、回復魔法を何回も使うことになるだろうが」

「かしこまりました。大丈夫です、そのために来ましたから」

「ああ、頼んだ」


 レオに指示されるのはなんだか新鮮ね。

 成長したという感慨深くなってしまうけど、今はやるべきことをやらないと。


「ねえ、砦の外の救護室の方が、レオポルド様の戦う姿が見られる可能性が高いわよね?」


 私の隣で静かに聞いていたシーラ嬢がそう問いかけてきた。

 それが聞こえたのか、私が答えるより先にレオが答える。


「なぜ来たのか知らなかったが……ここは遊びじゃない。砦の中で邪魔にならないように、隅で大人しくしていろ」

「じゃ、邪魔はしません! 私も伯爵令嬢で勉強しましたので、救護などの知識はあります!」

「知識と実践じゃ違う。それに外の救護室は重傷者が多い、そこらの令嬢が見て卒倒して、邪魔になったら困るんだ」

「っ……」


 レオにそこまで強く言われて、シーラ嬢は何も言えなくなる。

 今のレオは辺境伯様として冷静に判断しているので、いつもの彼よりも威厳があって怖い。


 シーラ嬢はそれに怖がっているようだが、それでも意志は固いように見える。


「レオポルド様、私の臨時補佐として彼女を連れて行ってもいいでしょうか?」

「っ、マリア、本気か?」

「はい、何かあったら私が責任を負いますので」

「マリア、貴女……」


 私がそう言うと、レオが驚きながらも私と視線を合わせてくる。

 数秒ほど睨み合うように視線を交わすと、レオは折れたようにため息をついた。


「はぁ、わかった。ただしシーラ嬢が邪魔になったらすぐに引っ込ませろ」

「かしこまりました、ありがとうございます」

「シーラ嬢、マリアの邪魔をしないように。それと怪我をしても知らないからな」

「わ、わかっております!」


 レオがシーラ嬢にそう言ってから、私達に背を向けて砦の外に向かっていく。


「――変わらないな、昔から」


 レオが何か呟いた気がしたが……隣の騎士に指示でも出したのだろう。

 私は隣でため息をついているシーラ嬢に声をかける。


「私達も行きましょう、シーラ嬢」

「わかったわ。その、ありがとう、マリア」


 まさかシーラ嬢からお礼を言われるとは思わず、少しだけ頬が緩んでしまう。

 しかし一刻を争う状況なので、すぐに引き締める。


「いえ、人手が足りないのは本当なので。働いてもらいますよ、シーラ嬢」

「わ、わかっているわ! 私が活躍したら、レオポルド様に活躍したことをしっかり伝えてよね」

「わかりました、それならより一層頑張りましょう」


 そして私とシーラ嬢は、砦の外の救護室に向かった。


 臨時の救護室、その大きなテントに着いて、まず感じたのは酷い血の臭い。

 想像以上に怪我人が多く、数十人以上は怪我をしていて、包帯だけを巻いてほとんど処置をしていない怪我人もいる。


 私は前世からこういう現場は見慣れていたが、シーラ嬢は見た瞬間に息を呑んでいた。


「大丈夫ですか?」

「っ、だ、大丈夫よ! それで、私は何をすればいいの?」


 気丈に振る舞っているが、この光景を見てもそれだけ振る舞えれば十分だろう。


「ポーションがありますので、それらを軽傷の方の患部にかけたり、飲ませてあげてください。包帯も交換してください」

「軽傷の方? じゃあ重傷の方はどうするのよ」

「私が魔法で治します」


 入ってすぐのところで倒れている重傷者、この方は肩から胸にかけて裂かれたような大きな傷があった。

 ポーションでは回復しきれないような酷い傷だ。


 私はその方の側に跪いて、手をかざして魔法を行使する。


「――『治癒キュア』」


 回復魔法を行使すると、淡い橙色の光が患部に放たれる。

 しばらく魔法を発動し続け、光が消えると怪我がなかったかのように回復した。


 よし、これで問題なさそうね。


 その騎士は苦しんでいるように寝ていたが、呼吸も落ち着いて寝息を立て始めた。


「えっ、一瞬で!? すごいわ……!」


 後ろで私の魔法を見ていたシーラ嬢がそう呟いたのが聞こえた。

 褒めてくれるのは嬉しいけど、今はそんな場合じゃない。


「シーラ嬢、軽傷者をお願いします」

「っ、わ、わかっているわ!」


 そして私達は動き出した。


 シーラ嬢は救護室にいた他の回復術師の人と協力しながら、ポーションを配ったりかけたりして、献身的に包帯などを替えてあげたりしていた。


 私も重傷者の方に回復魔法をかけていって、一人ずつ救っていく。

 回復魔法は大量の魔力量を使うので、普通の回復術師が重傷者を治せるのはせいぜい五人程度だ。


 だが私は前世から魔力量が多かったので、五十人くらいは余裕で治せる。


 今回は重傷者が数十人なので、全員を一人ずつ治していく。


 三十分もすれば、重傷者の傷を全部治すことができた。


「これは、奇跡か……!?」

「回復術師が絶対に足りないと思っていたが、まさか一人で全員を助けられるなんて……!」


 私が辺境伯家の騎士団に入ってから初めての実戦だったので、他の回復術師の方々からそんな言葉が聞こえてくる。


 とりあえず、死人を出さずに終わったのはよかった。


「あ、あなた、そんなにすごかったのね」

「シーラ嬢、ありがとうございます。シーラ嬢もとても素晴らしい働きでした」


 人手不足だったのは確かだったので、ポーションを配ったり包帯を巻いてくれるシーラ嬢がいて助かった。

 伯爵令嬢だから習っていたというのは本当のようで、包帯の巻き方も綺麗だった。


「ふ、ふん、これくらいは当然よ」

「見直しました。シーラ嬢ならレオポルド様の婚約者に相応しいかもしれませんね」


 猫なで声でずっと話しかけていた時は変な令嬢だと思っていて、レオの婚約者としてはダメだなと思っていたけど……。


 こういう時に迅速に対応できる度胸があるような強い令嬢だった。


「ほ、ほんと!? じゃあレオポルド様との仲を取り持つように、協力しなさいよ!」

「えっ、私がですか? 私ができることなんてないと思いますが……」

「だってあなた、絶対に気に入られているじゃない」

「辺境伯のレオポルド様にシーラ嬢を紹介できるとは思えないですが……」


 そんなことを話していると、シーラ嬢が「はっ、そうだわ!」と何か思い出したように喋り出す。


「私、レオポルド様の雄姿を見に来たのよ! もう怪我人もいないし、見に行ってもいいわよね!?」

「あっ、シーラ嬢! まだ外は魔物が……!」


 私の言葉を聞かず、シーラ嬢はテントの外に出て行くので後を追った。

 救護室のテントを出てすぐのところが前線で、テントの中からも魔物との戦いの音が響いていた。


 私とシーラ嬢が前線が見えるところまで向かうと、ちょうどレオと魔物が対峙していた。


「あっ、レオポルド様よ!」

「シーラ嬢、ここは前線なので危ないのですが……」

「あっ、剣を抜いたわ! それだけでカッコいい……!」


 私の声は届いていないみたいね……。


 というか、剣? レオって剣を使うんだっけ?

 私も気になってレオの様子を見ると、確かに剣を持っている。


 前世で私が魔法を教えた時は剣を持っていなかった。


 えっ、もしかして……魔法が嫌になって、剣で戦うようになっちゃったとか?


 それはなんだか、ちょっと悲しい。

 でも私が教えた相手の魔力量をしっかり見ることはやっていたから、魔法使いだと思っていたんだけど。


 そんなことを考えていると、狼の魔物がレオに襲い掛かった。

 三メートルほどはある魔物、とても素早いのが遠くにいる私でもわかったが、レオは瞬間移動したように避けた。


 あれは風魔法の応用ね、予備動作なく一瞬で移動している。

 そして後ろに回り込んで、狼の魔物に剣を振り抜いた。


 剣が魔物に当たっているようには見えなかったが、気づいたら胴体が真っ二つになっていた。

 あれは剣に風魔法の刃を纏わせて刀身を伸ばしているのね。


 やっぱりレオは魔法を使っているけど、魔法使いというよりかは魔法剣士っていう感じだ。

 とても強くなったわね、レオ。


「え、い、いつの間にか終わっちゃってた……」


 私が感慨深く思っていたら、隣で見ていたシーラ嬢が呆然としていた。

 確かに、普通の人だったら狼がレオに襲い掛かって、気づいたら真っ二つになっているようにしか見えないだろう。


 説明してもいいかもしれないが、ここはやはり前線だから危ない。


「シーラ嬢、レオ……ポルド様を見たからもう戻りましょう」

「で、でも、よく見えなかったからもう一回……!」


 一応物陰に隠れて見ていたのだが、シーラ嬢がそこから出てもっと近づこうとした。


 その瞬間、私は嫌な予感がした。

 レオも私達に気づいて、こちらを向いて目を見開いた。


 その目は私達というよりも、その上を見ていて――。


「――シーラ嬢!」

「えっ、きゃっ!?」


 私はすぐにシーラ嬢に飛びついて押し倒した。

 二人で倒れた瞬間、上を大きな影が通り過ぎていった。


 見ると、今のは鳥型の魔物で、体長も狼の魔物よりも大きい。


「な、なによ、あれ……!」


 シーラ嬢も鳥の魔物を見上げて、顔を真っ青にしている。

 その魔物が空中で急旋回して、またこちらを襲ってきた。


「ひっ!?」

「シーラ嬢、大丈夫です!」


 シーラ嬢の悲鳴を聞きながら、私は彼女の前に回り込む。

 私は回復魔術師団に勤めているが、攻撃魔法を使えないわけではない。


 だけど前世から回復魔法は使えていたので慣れているが、攻撃魔法は今世で才能が目覚めた。


 つまり実戦ではやったことないが、やるしかない。


「――しょう!!」


 遠くでレオが何か叫んでいるのが一瞬聞こえたが、私は両手をかざして集中して攻撃魔法を放つ。


「『光線ストラール』!」


 瞬間、私の両手から光線が放たれる。

 光魔法の攻撃、高熱を持った大きな光線、光の速さだから避けることはほぼ不可能。


 鳥型の魔物に当たって墜落するが、まだ動いているので生きている。


 光魔法はとても速いが、攻撃力は乏しい。


 私の魔力量が万全だったら仕留められたかもしれないけど、地面に落とすので精いっぱいだった。


「ギエエエェェェ!!」


 鳥の魔物は苦しんでいる様子だが、また翼を広げて飛ぼうとしている。

 しかし、これだけ時間が稼げれば……。


「――逃がすか」


 レオが近づいてきて、剣を一度振るって終わらせた。

 間近で攻撃を見たけど、すごい切れ味ね。どんな固い魔物も簡単に斬れそう。


「無事か!?」


 レオが慌てたようにそう問いかけてきた。

 いつも無表情のレオにしては、本気で焦っている顔だ。


「大丈夫、ですよ。お陰で助かりました、レオポルド様」

「それならよかったが……」

「あっ、シーラ嬢。大丈夫ですか?」


 後ろで座り込んでいるシーラ嬢の方に振り向いて、問いかけたのだが……彼女は呆然とした顔で私の顔を見つめてきた。

 どうしたんだろう?


「シーラ嬢?」

「……カッコいい」

「えっ?」

「と、とてもカッコよかったです! マリアお姉様!」

「お姉様!?」


 えっ、なになに!? なんでお姉様!?

 もしかしてシーラ嬢、頭でも打ったの!?


「助けてくれてありがとうございます! 回復魔法を使って騎士の方を助けるのも素敵でしたが、私を背に庇って魔法を放つのは本当にカッコよかったです!」

「え、えっと……ありがとうございます?」

「敬語なんていりません! 私の方が歳下ですし、シーラと呼んでください!」


 こんなに態度って急変するものなの?

 まあ可愛いと思っていた子がキラキラした目で見てくるから嫌な感じはしないけど。


「じゃあシーラちゃん、怪我はない?」

「はい! マリアお姉様に押し倒されてビックリしましたけど、怪我はないです!」

「そう、よかったわ」

「そういうマリアは、怪我をしているようだな」

「っ……気づきました?」


 後ろからレオにそう言われて、苦笑いをしながら白状した。

 私がシーラちゃんを押し倒した側なのに、地面の岩でくじいてしまって、足首が腫れてしまっていた。


「マリアお姉様、私を助けるために……!」

「私がドジをしただけよ、気にしないで」

「マリア、魔力もほぼ尽きているだろう? 救護室でどれだけ回復魔法を使ったんだ」

「そんなに使っては……」

「マリアお姉様は三十人以上の重傷者を治してました!」


 私が適当に誤魔化そうとしたのに、シーラちゃんが言ってしまった。


「やはり……それであの攻撃魔法を使ったんだ。怪我がなかったとしても動けていないだろう?」

「……はい、まあそうですね」


 立とうとしても全然動けなかった。


 それにもう少しで寝てしまいそうなくらい疲れている……寝るというよりかは気絶に近い気がするけど。


「しょうがないな、マリアは」

「きゃっ!」


 レオが近づいてきたと思ったら、私を横抱きにして持ち上げた。

 えっ、まさかこれで運ぶの?


 いや、シーラ嬢じゃ私を運べないし、これが一番効率的なんだろうけど。


「そ、その、重くない……ですか?」

「ああ、綿毛と思うくらいに軽いな」

「そんなに軽くはないと思いますけど……」


 横抱きされているから、顔がとても近い……前世から成長して、本当にカッコよくなった。

 そりゃシーラ嬢も惚れて……あっ、シーラ嬢の前でこんなことをされてもよかったのかしら?


「くっ、私にもっと力があれば、お姉様を運べたのに……!」


 ん? なんか違う嫉妬の仕方をしてない?

 私に嫉妬じゃなくて、レオに嫉妬してる?


 よくわからないけど、私に怒っていないならいいかな?

 そんなことを考えながら、私はレオに横抱きにされながら運ばれる。


 恥ずかしいけど、これはこれで感慨深いわね。


 前世の頃、彼がまだ十歳の頃は私が運ぶ側だった。

 レオが眠った時に、横抱きにしてベッドまで運んだ覚えが何回かある。


 それが今では真逆だ。

 まああのころから百年も経っていて、彼は成長しているんだから当然ね。


 近くで見上げる顔は昔と変わらず端整な顔立ちだけど、可愛いとは言えないくらいにカッコよくなった気がする。


「……攻撃魔法を使えたんだな」

「そう、ですね。回復魔法だけじゃ自分の身を守れないので、頑張りました」


 だけどあの攻撃魔法で魔力を本当に使い切ったから、疲れたわ……すごい眠くなってきた。


「知らなかったから、本当に焦ったぞ……また、目の前で……」


 レオの顔が少しだけ悲しそうに歪んだ。

 その表情を見て、前世で一緒に暮らしていたレオを思い出す。


 私が魔物と戦って傷ついた時に、こんな表情をしていた気がする。


 確か前は、こうして……。


「大丈夫です……私は、生きてるから」

「っ……」


 頭を撫でて、慰めた気がする。

 久しぶりに触るレオの髪の毛は、あの頃のようにふわふわで……。


「レオポルド様が助けてくれたお陰で……助かりましたから」

「……ああ」

「助けてくれた時のレオポルド様……カッコよかったです」

「っ……ふっ、その言葉が、どれほど聞きたかったか……」


 レオは嬉しそうに口角を上げて、私を抱きしめている力を強くした気がする。

 もう私は疲れて目も開けられなくなってきた……。


 目を閉じて、眠気に身を任せる。


「少し、眠ります……おやすみなさい」

「……ああ、おやすみなさい……ししょ――」


 レオの返事を待たず、私は夢の中へと入っていった。



 ――後日。

 私はいつも通り、職場でポーションを作っていた。


 あの北部の砦が魔物で襲われた日、私が眠った後の後始末はすぐに終わったらしい。

 怪我人は私がほとんど治したし、魔物の死体処理を全員でやって終わったようだ。


 私は何も出来ずに申し訳なかったけど、逆に全員に感謝された。


『マリアさんがいなかったら、重傷者が何人か死んでいたかもしれない! ありがとう!』

『後処理なんてマリアさんがいなくてもどうとでもなるから! 逆に起きてても休んでもらっていたよ!』

『本当にありがとう、マリアさん!』


 などなど、いろんな人にそう言われた。


 もちろん嬉しかったけど、いろいろと戸惑ったわね。

 なぜか横で聞いていたシーラ嬢やレオが得意げな顔をしていたのも気になった。


 そして今、私は職場と言ったが……前に勤めていた場所とは変わった。


 今、私が出勤して、ポーションを作っているのは……。


「マリア、おはよう」

「……おはようございます、レオポルド様」


 レオが朝の挨拶をしに来た。彼は部屋着のような格好だ。

 それもそのはず。私がいる場所は、辺境伯家の屋敷の庭にある離れの建物だ。


 前は辺境伯家から結構遠い場所にある建物だったのに、あの事件があってからはここが職場になった。


 だからレオが部屋着のまま、ここに来ることが可能なのだ。

 なぜここに移ったか、理由はレオが説明してくれたんだけど……。


『今回の功績で、マリアを回復術師団の団長にすることに決めた。だから職場も家も、良いところがいいだろう?』


 という、よくわからない理由だった。

 確かに家は一人暮らしなのにとても広い一軒家になって、給料も増えて、職場も近くなった。


 だけど、何で職場が辺境伯家の敷地内なんだろう?


 まあ研究用の素材もいろいろ揃っていて、いいとは思うんだけど。


「レオポルド様、毎日来ていますが、暇なんですか?」

「いや? 今日もなかなか忙しいぞ」

「ですよね。それなら毎日来なくてもいいですから」

「前も言ったと思うが、俺が会いに来たいと思っているだけだから、気にするな」


 いや、辺境伯様のレオが会いに来て、気にするなは無理だと思うんだけど……。

 レオは部屋着のまま私の隣に来て、私が調合していたポーションを一緒に見る。


「やはり会いに来やすいから、マリアの職場をここにしたのは正解だな」

「そう、ですか」


 やっぱりここを私の職場にしたのは、一番はそれなのかしら?

 それだったら、かなりの職権乱用じゃない?


 まあ私は全く文句ないし、レオの近くにいた方が彼を見守れるからいいんだけど。


「マリアお姉様!」


 また一人、私の職場にいつも来ているシーラちゃんが突撃してきた。

 そして前と同じように、レオが顔をしかめて嫌そうにした。


 嫌そうにしている理由は変わっているようだけど。


「あっ、レオポルド様もいるんですね。暇なんですか?」

「シーラ嬢、あなたはなぜこの辺境伯領にずっといるのだ? 伯爵領の令嬢のはずだが?」

「まあ、辺境伯様はか弱い令嬢一人を、領地にいさせてくれないのですか? なんて酷い人だと思いませんか、マリアお姉様?」

「か弱い? それはどこの令嬢のことを言っているんだ? 俺が言っているのは面の皮が分厚くて、強情な女のことを言っているんだが」


 二人はなぜか、言い争いをするようになってしまった。

 シーラちゃんはレオのことが好きだったんじゃないの? なんで目の敵みたいになっているの?


 レオも前は嫌な顔をしつつも丁寧に接していたのに、いつの間にそんな喧嘩腰に接しているの?


 だけど……。


「お二人は仲良くなりましたね」

「なってないぞ!」

「なってないです!」


 ほぼ同じ台詞を言って、キッとお互いを睨み合う二人。

 うん、前よりもだいぶ仲良くなっているわね。


 今世でレオの友達がいないと思っていたけど、シーラちゃんと仲良くなっているなら安心かも。


 シーラちゃんも腹黒いところはあるけど、根はいい子だし。


「マリアお姉様ぁ、レオポルド様がイジめてきますぅ」


 シーラちゃんがそう言って私に抱き着いてくる。

 私よりも小さいから、胸の中にすっぽり入ってくる感じが愛らしい。


「ここは居心地がいいです……永住したいです……」

「ふふっ、可愛いわね」


 私がシーラちゃんの頭を撫でていると、レオが複雑そうな顔で見てくる。

 なんでだろう? もしかして頭を撫でられたいとか?


「彼女は可愛い方がいいのか? 確かに俺のことも可愛いと言って可愛がっていたが、男として見られている感はなかったし……」


 何か呟いているが、よく聞こえないわね。

 まあ小さい頃は可愛がると少し嫌がっていたから、撫でられたいとかはないと思うけど。


「今日もマリアお姉様の家に泊まりに行っていいですか?」

「なっ、シーラ嬢はマリアの家に泊まっているのか?」

「ええ、そうですよ! マリアお姉様はレオポルド様とは比較にならないくらいに優しいので!」


 シーラちゃんが私から離れて、またレオと言い争いを始める。

 楽しそうね……とりあえず私は仕事をしよう。


 ポーション作りに集中して、二人の口喧嘩を適当に聞き流す。


「マリアお姉様は私のです!」

「いいや、俺のだ」


 っ、えっ……レオの言葉に、私はビクッとしてしまった。

 今のは、買い言葉に売り言葉みたいな、言い返しただけよね?


 本気で思っているわけじゃないわよね?


 今のレオに「俺のものだ」なんて言われたら、いろいろと勘違いしてしまうから。

 それに、私はどちらのものでもないしね。


 なんでこんなにレオに執着されているのか。


 やっぱり前世の私に気づいている?

 わからないけど……前世で愛弟子として暮らしていたレオと、こうしてまた一緒にいられる。


 それだけで私は、とても嬉しいわ。


「マリア?」

「っ……い、いきなり顔を覗き込まないでください」

「ふっ、すまないな。マリアの顔が見たくて」


 だけど……愛弟子のレオがこんなにカッコよくなっているのは、ちょっと心臓に悪いわ。


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― 新着の感想 ―
え、好き… めっちゃ好きすぎる!!!!!!! レオ視点求む!!
[一言] レオポルドにはマリアがマリアンヌとわかっているようですが。壇上から見渡した時、操作した魔力で見極めたのでしょうか? 今のところ、マリアにとってはかつての可愛い弟子のまま。レオポルドの気持ち…
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