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第57話 俺、苦戦する



「あ〜、冒険者で職業は配信者ですか……正直なところ審査はほとんど通らないと思った方が良いですね」


 これで4件目の不動産屋だった。

 お兄さんもお姉さんもおじさんもおばさんもみんな申し訳なさそうに同じことを俺に告げたが……当然だろう。

 冒険者は冒険者でない人間よりも「突然死ぬ」確率が高い。賃貸において、家主が突然死ぬと非常にやっかいなのだ。事故物件にはならないものの、親族がいない場合は家主が片付けや諸々をしなければならなかったりするから。


 その上「配信者」というのも、審査が降りない大きなポイントである。不安定な収入、SNSや動画の撮影などで住所が特定されファンが集まるなど他の住民に迷惑をかける可能性、そもそも配信者という人種に対する偏見。


 ついでにうちはテイムモンスターOK、ペットOKでないとダメである。


「ですよね……、いやぁ火事で家がなくなってしまって……」


「ご事情はわかりますが……なかなか審査が厳しいんですよ」


 ですよね……。定期的に金が入ってくるかどうかもわからない人間と賃貸借契約を結ぶのを嫌がるのは当然だ。

 それに、最近は「迷惑系配信者」なんかも多い。オーナーの多くは年配の人たちだから偏見があるんだろう。


「ですよね。でも家がないと困っていて」


「はい、全力を尽くします。って……もう10連敗しちゃってますね。申し訳ないです」


 お兄さんは申し訳なさそうに肩を下げた。


「お願いします」


「ちなみに家賃の前払いってどのくらい前でいけます?」


「契約年数分ならいけます」


 金はある。


「ちなみに、建売の一戸建てもありますけどいかがです?」


 これを機に持ち家を買ってしまうのも良いかと思ったが……、俺の中ではちょっとした不安がある。

 それは例の放火だ。明らかに俺を狙った犯人はいまだに捕まっていない。そんな奴が野放しな状態で一戸建てを買うのはなぁ。

 それならセキュリティの良いマンションを借りてしまう方がコスパが良さそうだし。


「いや、収入も不安定ですしまだそこまで貯金は」


「ちょっと待っててくださいね。たしか、事務所さん名義で借りられるところがあったような……」


「すんません」


 不動産のお兄さんはコピーしに事務室の方へと戻っていった。金さえあれば、部屋なんかすぐに見つかると思っていたが、社会では「信用」というのが大事だったことを思い出した。

 非正規雇用よりも正社員、未婚よりも既婚。そうやって人は知らない人の信用を測っているのだ。

 ちなみに真面目に働いている人からみると今の俺は「力が強くて有名な無職のおじさん」である。


「ちょっと予算を……かなりオーバーしますがここであれば可能かも」


 お兄さんがぺろっと俺の前に置いた資料には都内高級タワーマンションだった。明らかに芸能人や有名配信者なんかが住んでいるような場所だ。いわゆる「信用」よりも「金」がものをいう場所。


「月130万……半年ごとの更新ですか」


 鬼である。ちなみに更新料は家賃の1ヶ月分。


「ここでしたら、最初の半年分の前払いがあれば岡本様の条件を全てクリアできます」


 前に住んでいたアパートの建て直しがおおよそ半年〜1年といっていた。その間までに放火犯を捕まえれば立て直した前のアパートに、あそこがダメなら一軒家を買うか……。


「内見、してもいいですか?」


「はい、あっ……岡本様。申し訳ございません。空いていた1室がたった今埋まってしまったようです」


 PCを眺めながらお兄さんはがっくりと項垂れた。

 そりゃそうだ。ここに来て既に1時間。お兄さんは何度も電話をかけ部屋を探してくれているんだから。


「あぁ……まじっすか」


「ちなみに、岡本様。先ほどのタワーマンションと似たようなお部屋を探すとしたらいくらまで出せます……?」


「月150まで……ならなんとか」


「もっかい、探してきます……!」


 お兄さんはもう一度事務室の方へと入っていった。

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