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第55話 俺、再びバズる



「シバ、大丈夫だったか」


「うん、コンビニ飯もうまかった」


「よかった。とりあえず、音奏ありがとう」


「うん、いいけどこれからどうするの?」


 どうしよう。それは俺も聞きたいくらいだ。


「とりあえず、車で寝泊まりしつつ家探すかな……。一応、火災で家がなくなった証明書はあるし……」


「それなんだが……岡本くん。忘れちゃいないかい?」


「え?」


「案件」


「あっ……」


 そうだ。編集中のデータが入ったPCも撮影機材も新作カップ麺も灰になってしまったんだった。


「スマホに録画データはあるんですが、編集中のデータはなくて……家を探してから1から編集ってなると時間が。結構な金額ですし、キャンセルって難しいですよね」


「いや、キャンセルはできるよ。不測の事態だしね。けど、一個だけ方法があるんだ」



***



「わんちゃんだ〜!」

「わんちゃんだ〜!」


 シバをぎゅうぎゅうと抱きしめる可愛らしいツインテールの少女たちはおそろいだが水色と薄紫色の色違いのワンピースを着ている。


「ふわふわだ〜」

「もふもふだ〜」



「こらこら、お兄ちゃんに挨拶は?」


 雪平さんの一軒家は都内郊外の住宅地に構える立派な家だった。そして、双子の娘さんたちは雪平さんには似ていないとても可愛い子たちだ。


「こんにちは!リナです」

「こんにちは!ルナです!」


「娘の里奈と瑠奈だ。年齢は5歳」


「こんにちは、岡本です」


「こんにちは! お兄ちゃん。ワンちゃんと遊んでもいい?」


「いいぞ。ワンちゃんに意地悪しないようにね」


「はーい!」

「はーい!」


 シバは「わかってるぞ」とこちらにウインクをして子供たちと一緒に庭の方へと走っていった。デキる犬である。


「実は、2年前に家内が亡くなってね。僕も在宅を含めて仕事をしているがなかなか面倒見てやれなくて。家を探すのにワンちゃんを車の中に放置するわけにはいかないだろう? 2・3日うちを使うといい」


「あ〜、一応アレはモンスターなんで音奏も一緒にいてもいいっすか?」


「あぁ、頼むよ。きっと音奏もいる方が娘たちも喜ぶだろうし」


「すみません、何から何まで」


「また」


「あ、ありがとうございます」


「どういたしまして。じゃあ、僕は仕事に戻るから、岡本くんも編集。頑張ってくれよ」


 そう。俺は家探しをする拠点と暖かいシャワーを約束された代わりに、ここで新作カップ麺の案件の編集をやり直すことになったのである。

 雪平さんの家のPCは結構良いスペックで編集のし心地がよさそうだ。それに、このゲーミングチェア……絶対俺も新居で買おう。


「岡本くん、擬似同棲家族生活だね」


 音奏はニンマリしながら腕を組んでくる。庭ではシバと双子がきゃぴきゃぴと走り回っている。

 まったく……人の気もしらないで。


「さ、俺は編集と家探しをするから音奏……シバを頼む。ほら、飯の件万が一でも子供達に被害が出ないように」


「了解っ!」



***


 音奏が子供達に「ワンちゃんのご飯を取ったらガブされちゃうぞ〜」と可愛い脅しをし子供たちが信じきったのを見届けてから俺は雪平さんのPCを起動した。スマホのメッセージに諸々いただいたので編集ソフトを開き、スマホに残っている素材を元に編集を始める。


 雪平さんの編集部屋はめちゃくちゃ落ち着くサイズの書斎で、集中して仕事ができるように作られていた。

 俺はデスク脇の奥さんの写真に手を合わせて改めて思った。最愛の人を失ってまだ2年だというのにシングルファザーとして双子を育てながら俺たちの面倒も温かく見てくれる彼の偉大さを……。


「あぁ、雪平さんみたいな人が上司だったら俺もまだ働けてたのかなぁ」


 しばらく編集に集中してみたがまったく腰も肩も痛くならない……。ゲーミングチェアの凄さに驚きつつも目の疲れは流石に来たので一旦、PCから目を逸らした。


 そして、何気なく俺はスマホでツエッターを開いた。



 ツエッター 日本のトレンド


1位 岡本英介

2位 美女救出

3位 岡本さん

4位 ヒーロー

5位 ニュース

6位 ほぼ映画 救出 火の中


「はっ……?」


 ツエッターをみてみると、あの時の野次馬の中の誰かが撮った動画が鬼拡散されていた。そこには煤だらけで高橋さんを横抱きにして救急車に乗り込む俺が映っていた。



 またしても俺、意図せずバズってしまったのである。



 

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