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第54話 俺、家をなくす


「はい、問題ないです」


 俺は念の為、病院に泊まり検査をされた後警察官に聴取をされていた。

 というのも、出荷元である104は空室、中に可燃性のスプレー感やオイルがあったことから今回の火事が「不審火」ということになっているらしい。


「しかも、岡本さんの部屋の前に大きな木材が置いてあったんですが何かご存知で?」


「いえ、部屋の前には何も……」


「そうですか。ご協力ありがとうございます」


 俺のドアが開かないように細工がされていたとのことで俺は疑われていないようだった。ちなみにアパートは全焼。火災保険でなんとかなりそうだが、一時的に俺は家と家財道具の一式を失うことになった。

 ちなみに、俺はあの後、音奏を電話で起こして大家さんに渡したシバを引き取ってもらった。危うく死ぬところだったぜ。


「スマホと財布はあるが……その他は全部」


 そう、俺が社会人時代に築いた全てが文字通り灰になってしまったのだ。死ぬほど着古したスーツと革靴、就活の時から使っていた安いバッグ。まるで神様から「もう社会には戻ってくるな」と言われているようだ。


「はい、岡本さん。検査の結果、特に数値には問題ありませんでした。帰っていただいて大丈夫ですよ」


 ナースのお姉さんが急足でやってきて俺に結果を伝えると「危なかったですね」と微笑んだ。


「あの……高橋さ……高橋有紗さんは?」


「あまり他の患者さんのことは言えないのだけれど、面会できますよ」


 ナースのお姉さんはくるっと俺に背を向ける。この人、どこかで見たことあるなぁと思ったらあれだ。

 俺が盲腸で入院していた時、刃物おばさんに襲われかけていたナースの1人だ。


「岡本さんはヒーローですね」


「いえ、そんなことは」


「さ、こちらですよ」



***


 喉の軽い火傷と軽度の一酸化炭素中毒で昏睡状態だったが、なんとか意識は回復したらしい。

 高橋さんERの病床にいて、腕と足の先が火傷で痛々しかった。


「高橋さん、意識が戻ったみたいで良かったです」


 高橋さんはうんうんと首を縦に振る。


「あの……また音奏とお見舞いに来ます。今はゆっくり休んでください」


 高橋さんは優しく口角を上げると再び目を閉じて眠ってしまった。ナースの人たちが後ろの方で「ヒーローみたいね」とコソコソ話をしているのが聞こえた。

 けど、俺が高橋さんをおせっかいで寝室に運ばなければ……いや、考えるのはやめよう。犯人が俺の家の前まで来ていたと考えると……もっと危なかったのかもしれないし。



「また来ます」



 俺はアパートに戻ると、焼け落ちた瓦礫の中から装備品を拾った。さすがは俺の装備品。弓の弦すらも焼けてはいなかった。


「こらこら、何やってんだ。危ないぞって……あぁ君か」


 消防隊員のお兄さんは夜通し作業していたようで、ひどい顔だ。


「君、有名な冒険者なんだってね。昨日は救助を手伝ってくれて感謝する。俺たちも日々の修行や柔軟性が足りないと自覚させられたよ。本当は消火現場に人は入れちゃいけないんだけどね。目を瞑ってあげるから早く探しなさい」


「ありがとうございます」


 俺は急いで装備品を手に取ると、アパート跡地を離れた。そんでもってなんとか無事だった車に少ない荷物を押し込んで、事務所へと向かう。


 あぁ、どうして事務所かって?



「岡本くん……ごめん! うちペット禁止なの!」



 そう、音奏のマンションはペット禁止。しかも結構うるさい大家さんが目を光らせているらしい。だから、夜中に叩き起こされた音奏はシバを連れてコンビニへ行きメシを買うと、今度は彼女が雪平さんを叩き起こして事務所を開けさせたらしい。



「この度はすみませんでした……ご迷惑おかけして」


 音奏と雪平さんは事務所でシバをなでなでしてなんだか楽しそうだったが俺は頭を下げる。


「岡本くん!」


 飛びついてくる音奏を抱きしめて、それからもう一度雪平さんに頭を下げた。


「岡本くん。社会人はとにかく謝れって教わるけどさ違うよ。君は何も悪くないんだから俺たちに謝らなくていい。むしろ、ありがとうって言われたいんだがな」


 雪平さんはヘラヘラと笑って見せたが、俺は泣きそうなほど嬉しかった。そんなこと、大人に言ってもらえたのは初めてだったから。


「ありがとう……ございます」


 雪平さんは恥ずかしそうに後頭部を掻くと


「ま、これもマネージャーと仕事なんでね」


 と照れ隠しをして、すかさず音奏が


「私も彼女の仕事をしただけだよ?」


 と笑った。


「で、今日から俺……どうしましょう」



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