第50話 俺、案件を受ける
高橋さんは「明日から鬼の3連勤! しかも夜勤もある!」と現実離れしたことを言っていた。夜勤からの日勤……? ブラックにも程がありませんか?
そんな中俺は、マネージャーの雪平さんと打ち合わせ中だ。雪平さんは40代のベテランマネージャーで2児を育てるパパさんだ。
音奏と俺の他にも何人かのインフルエンサーをまとめて面倒見ているらしい。
「いや〜、こんなに祝福されるとはね〜」
そう、雪平さんのいうように音奏との交際発表後SNSには祝福のメッセージが大量に届いた、俺と音奏のくっつきそうでくっつかない感じをカップリングして応援していた層がかなり多いようだった。
「僕もありがたい限りです」
「やっぱり、あの配信切り忘れで岡本くんが紳士だったのが逆によかったみたいだねぇ」
「ははは……とんでもないです」
雪平さんは事務所のバースペースでコーヒーを淹れ終わると俺を会議室に案内してくれた。俺がいたような昭和な企業ではなくイケイケのベンチャー企業。何もかもがカラフルでおしゃれだ。
会議室がソファー……?
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「じゃ、早速だけど今日は岡本くんに案件の提案があってね」
雪平さんがノートPCをモニターに繋ぐと企画書を反映させた。企画書なんて見るのは久しぶりで……社会人時代を思い出すなぁ。
「おっと、こっちは企画書だね。岡本くんには説明用のこっち」
画面には有名なメーカーの名前と「新商品」と文字。
「カップ麺の広告動画、しかもアレンジは岡本くんが考えてほしいってさ」
そこには日本一のカップ麺を展開するメーカーの名前が書かれていた。俺も社畜時代からお世話になっている。たくさんのフレーバーとお湯を入れて数分で食べられる手軽さ、ゴミやあらいものが多く出ない構造……控えめに言って最高である。
そんな商品のCMを俺が……?
「さすがにダンジョンの中はNGなんだけど、岡本くんの家で撮影してほしいって指定が来てるよ」
なんでもダンジョンの中で食品の広告をしてしまうと「ダンジョン内で座って食べる」という一般人にとっては非常に危険な行為の誘発になってしまうからだそう。まぁ、その通りだ。
「内容は、新作カップ麺のアレンジを撮影、レシピを投稿。食べるシーンはあってもなくてもOK。企画例<彼女がいない日のカップ麺アレンジ> まぁ企画は無視していいよ」
なるほど……、よく動画投稿者がやってるアレだな。〇〇やってみたとか。
「はい、是非」
「で、報酬はこんくらい」
目玉が飛び出るかと思った。
「まぁ〜ざっと今のところはどのくらい効果計測で数値が出るかわからないから登録者数1円でって感じかな」
俺のチャンネルの登録者数は今120万人である。たった1本の動画を楽しく撮るだけで……?
「禁止事項は、他社の類似製品の写り込みだけだね。じゃあ、撮影と編集のスケジュールが決まったらメールしてくれると助かる。一応、新商品の発売に投稿してほしいみたいだからそうだなぁ〜」
雪平さんは仮のスケジュールを出してくれたがかなりゆったりしたものだった。
「ありがとうございます!」
「おっ、いいねぇ〜。じゃ、新商品は郵送するから動画ができたら僕にメールしてね。一応、クライアントから字幕やアフレコの直しが入るかもだけどいいかな?」
「はい、誠実に対応します!」
「さすがは社会人、じゃあ頼んだよ」
俺は契約書にサインをし、インフルエンサーとして初めての仕事を決めた充実感に胸を膨らませながら帰路に着いた。




