第46話 俺、ご近所付き合いをする
「そうだ! 今度のキャンプさ、有紗ちゃんも誘おうよ!」
って、先ほど2人用の寝袋も買ったのに……? まさか、音奏さんってば人に見せびらかしたいタイプですか?!
「高橋さんも? いいけど」
「有紗ちゃん、ここのところ連勤やばいらしくってさぁ。シバちゃんに癒されたいらしい」
なるほど、そう言えば高橋さんと音奏は結構仲良しだ。俺が知らないところで2人でご飯食べたりメッセしたりなんというかまぁ……。
「オレはいつでもイイゾ。お隣さん好きだし」
シバはたわわ派なので高橋さんによく懐いている。
「でも、高橋さん連休とれんのかな」
「どうだろう、聞いてみる。おっきいシバちゃんモフモフできるよって言ったらきそうだけど……」
「何がなんでも休み取りそうだな、それは」
「みんなでお出かけ楽しみだね。誘っとく!」
***
今日は音奏を家まで送った後、すっかり遅くなったしまった。音奏のやつ、やってほどイチャつきやがって……。
駐車場を出ると愛着の湧いた軽自動車に鍵をかけて部屋へと向かう。シバはもう寝てるかな。今夜のSNSにアップする写真がほしかったんだけど。
アパートの階段を上がると、見慣れた光景が飛び込んできた。
スウェット姿で廊下で爆睡する高橋さん、その手には一升瓶。ぐごぉぐごぉと豪快ないびきは……流石の足立区でも絶対に襲われない色気のなさである。
「高橋さーん、ここは外ですよ〜」
「うぅ……おそとぉ」
「はいはい、お外ですよ〜」
「部屋はいりますからね」
俺は一旦高橋さんを持ち上げるとドアを片手で開けてなんとか彼女を玄関の中に下ろした。長身なこともあって音奏よりも重い。
「高橋さん、鍵閉めれます?」
「しめれりゅ〜」
「とりあえず、お水持ってきますね」
「お酒〜」
「お酒じゃなくてお水ですよ」
俺は一旦、部屋を出て家に戻りグラスに水を入れる。前までは「困った人だなぁ」なんて思っていたけど、この前入院中に遭遇した刃物おばさんのことを思い出すと高橋さんがこうなってしまうのも理解できなくはない。
全員を救うために働いているのに、高橋さんだって死なせたくなかったはずなのに遺族の矛先が彼女たちに向かう。そんなことが毎日のように起こるんだ。俺には考えられないな……。
「お水ぅ」
「お疲れ様です」
「ありがとぉ……」
グラスを両手でもち、ゴクゴクと水を飲む高橋さん。医者の不養生なんてよくいうけど、肝臓壊すぞ。まじで。
「じゃあ、鍵。閉めてくださいね」
「はあい」
「おやすみなさい」
「おやすみ〜」
俺は丁寧にドアを閉めると、鍵の音がするまでちょっと待った。しばらくすると鍵がガチャリとしまったので部屋に戻る。
「ただいま」
「おう、遅かったな」
「高橋さんが潰れてたからな」
「そうだ、英介。コレ、こんなにいるか?」
シバが鼻で突いたのは音奏が大量にかった避妊具だった。盛った高校生でもこんなに買わんぞ……。というレベルで積んである。
「音奏のやつ買いすぎだな」
「オレ、よくわかんけどこれいらないと思うぞ」
「いるだろ。無責任に妊娠させたらどうすんだ。あの子まだ20歳だぞ」
「英介の母ちゃんはそんくらいで英介産んでたぞ」
この犬やっかいである。というのもこんなに可愛いトースト色のクセに俺のことを俺よりも知っているのだ。
「まぁ、順序ってもんがあるわけよ」
「音奏が英介の子供産んだらオレ、あと100年はお外で過ごせるし……赤ん坊はミルクの匂いがして好きだ」
「まぁそれは……2人のタイミングでな」
音奏が聞いたら「結婚する!」と騒ぎ出しそうでちょっと怖い。配信者で世帯をもつなんて見たこともないしな……。マネージャーさんにお願いして案件をやってみるなりなんなりしないとな。
「なぁ英介」
「ん?」
「絶対、音奏を悲しませちゃだめだぞ」
「わかってるよ、相棒」
「わかってるならいいけどさ、オスは番ができると弱くなるもんだから」
そのフラグやめてくれ〜。洒落になんないわ。
「まぁ、SSS以下のダンジョンでキャンプしたりダラダラ配信してゆっくりするよ」
「それがいい、早くしろ。写真」
「あっ、すんません」
シバの可愛いお願いポーズを写真に収めると、彼はベッドに丸くなった。
SSS級相手に無双してキャンプと料理動画配信して、案件もらって生計を立てる。それで十分なはずなのに、俺はやっぱり「白狼」を倒したいと心のどこかで思っていた。
——でも、シバの予言は当たるのでしばらくはやめとこう……
おかげさまで
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※レーベル様・発売日等は追ってお知らせします。
書籍化に向けて応援してくださった読者様、ありがとうございます。
これからも楽しんでいただけますと嬉しいです。




