第44話 俺、ざまぁの行く末を知る
「岡本さん、どうもーっす」
俺がやってきたのは都内のカフェだった。まるで中学生男子のような彼は探偵の琥太郎君である。
「ばっちり、調べてきたっすよ〜。あ〜俺ブラックで」
彼はスマートにブラックコーヒーを注文すると俺の向かい側の席に着いた。探偵らしくハンチング帽をかぶっているがなんというか、幼さとは不釣り合いだ。
「じゃ、報酬はっと……確認しました」
彼はスマホで口座情報を確認すると少し大きめのリュックから茶封筒を取り出した。なんか、探偵っぽい。
「でも、どうしてこの人たちのその後が知りたいって思ったんすか?」
「あ〜、実は1人支払いが延滞している人がいてさ。弁護士の先生と一緒に追加で対応しようと思ってたんだ。あとはその……俺も顔が割れてきたし復讐とかそういうのが怖くてさ」
そう、俺は退院後、音奏の事務所に所属することが決まった。今のところまだ音奏と同じマネージャーさんが着いたくらいで何も変わらないが、今後は広告動画を作ったりうまく転べば公式放送やTVなんかにも出演できるかもしれないのだ。
となると、俺を恨んでいるであろう武藤の存在が少し怖かったのだ。まぁ、襲われたところで絶対に負けないけれど、音奏に何かされたら嫌だし。
現状を知っておきたいということだ。
「じゃ、報告を開始するね〜。まず、元派遣社員の羽風和子。22歳。今は都内の大人なお風呂屋さんで働いているみたい。この子は岡本さんへの支払いは終わってるね。けど最近ホストに貢いでるみたいで地方を転々としているみたい」
なるほど、キラキラOLがなんとまぁ。完全に闇落ちした写真をみてゾッとした。
「そうか……、延滞してる方は?」
「えっと、この子だね。光浦アイ。23歳。彼女は騒動後田舎に戻ったみたいだ。慰謝料の半額を貯金から支払ってるね。今は慰謝料の肩代わりや家の名声回復のために親が決めた相手と結婚したみたいだ。地元の農家……65歳の独身地主息子に嫁いで姑舅の介護と農家の仕事に追われているみたいだ。あ〜、滞納の理由は妊娠による体調不良みたいだ。すげ〜65でもまだ現役なんだね。旦那さん」
こっちはもっと悲惨だった。美人OLだった彼女はやつれきった顔でモンペを着ている。しかも、エロい顔で彼女の肩を抱いている旦那は歯の抜けた汚いジジイだった。陸の孤島のような場所もあって浮気なんかは不可能だろうから、腹の子は……うっ、想像しただけで気持ちが悪い。
「なるほど、ありがとう」
「じゃあ、最後。これはちょっと胸糞かも。武藤健三。50歳。彼は会社を首になりネットに諸々されされた後、妻と離婚。高校生の一人息子の親権も妻へ。その後、家を失い日雇い労働者として働くもひどいいじめに遭い……最後は高架下で自殺をしてるね」
——死んだ……のか。
「そうか、ありがとう」
「あぁ、でも彼が勝手に選んだ道だ。岡本さんが気にすることじゃないと思うぜ。ただ、悪事を明るみにされただけで……女の子達にしても選択肢ってのはあったはずだから。じゃあ、俺はこの辺で」
琥太郎くんはくいっとコーヒーを飲み干すとカフェを足速に出ていった。俺は武藤の死亡診断書のコピー。元受付の子たちの現在の写真。ほんの1週間でこんだけの情報が集まるもんか……。
にしても、武藤の件はちょっと後味が悪かったかもしれない。
「ふぅ……今日は1人でゆっくりしてから帰るか。すみません」
「はい、お伺いします」
「コーヒーのおかわりを」
「かしこまりました」
俺は写真も調査書も全て茶封筒にしまって、この記憶をもう過去にしてしまうことにした。俺は音奏と一緒に配信者として前に進むんだから。
大丈夫。俺は大丈夫だ。




