第43話 L級冒険者のゆくえ
「どうも〜! 週刊誌の記者やってま〜す! みうです!」
なんと目の前にいるゴリゴリのギャルが週刊誌の記者……だと?
俺の部屋でさっそくくつろぐギャルは音奏がクラブで出会った週刊誌の記者だ。ちなみに彼女は俺のパワハラ音源を世に流した張本人でもある。あの時は世話になったなぁ。
「で、こっちが探偵をやってる弟の琥太郎です」
琥太郎くんはどうみでも中学生か高校生といった風貌だった。探偵……? アルバイトか?
「あっ、お兄さん俺のこと子供だと思ってるでしょ?」
琥太郎くんはまだ声変わりもしていないのか少年のような声だった。でも、違うらしい。
「ちょっとした病気でさ〜、見た目は子供、頭脳は大人的な? 年齢はそこにいる音奏ちゃんと同じ20歳。立派な社会人だよ? っても探偵だけどね」
なんとも癖の強い姉弟である。が、彼らの「意外な容姿」は記者や探偵という仕事には有利に働いているらしい。そりゃ、みちゆくギャルや子供には警戒もしないからな。
「へぇ〜、音奏の彼氏めっちゃかっこいいじゃん。も〜、ずっと自慢してくるし胸焼けするっての〜」
と、みうさんは茶化したがバッグから大きな茶封筒を取り出した。
「も〜、みうちゃん本題本題〜」
「はいはい、L級の冒険者が日本にいないって話。ガチだったよ」
さっきまでも明るいほんわかした雰囲気はいっぺんした。L級ダンジョンと言うのはその階級が細かく分かれている割には多くないが、L級の冒険者がいないと言うのはちょっとまずい気がする。
「まず、前提として日本にいたL級の冒険者は全部で11人。岡本さんはそのうちの1人だから、他の10人の話をするね。うち5人はL10以上でパーティーを組んでた。主に希少魔法石類を売って生計を立ててたみたい」
そうか、L級ともなればパーティー行動が基本だ。ヒーラー、タンク、サポーター、アタッカー、あと一枠は魔法だったり遠隔だったり。
「そのパーティーがね、数ヶ月前にとあるダンジョンに入ったっきり失踪したの」
なるほど、それはまぁ理解できる。パーティー壊滅ってやつだ。どんなに強くてもL級ダンジョンでは不足の事態が起こりうるからな。この前俺が言ったマグマイルカのダンジョンだってそうだ。いきなり上位互換が現れたりするし。
「次に、政府に所属していたL級の冒険者5人、この人たちは主にL級ダンジョンの定期調査をする隠密部隊的なやつね。通称・LDS(legend dungeon scouter) は5人パーティーで定期的にダンジョンを偵察していたんだけど……」
みうさんの表情が曇る。
「LDSは最初に失踪したパーティーの死亡を確認するために、例のダンジョンに潜入。その後、タンクのみ両腕を失い、半死の状態で帰還したわ。ただ、その人も数日後、政府管理下の病院で死亡した」
「それって、一つのダンジョンで全滅ってこと?」
音奏の質問にみうさんは小さく頷いた。
「最初の冒険者パーティーで一番階級が高いやつはいくつかわかりますか?」
俺の質問にみうさんは茶封筒を開くと履歴書のようなものを取り出した。それは「冒険者手帳」のコピーだった。
(こんな個人情報どうやって手に入れたんだ……文夏記者こえぇ)
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伊藤正宗 32歳
階級:L20
使用武器:剣
功績:〜〜〜
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数々の輝かしい功績が並べられた手帳、いかにも強そうな顔つき。
L20といえばちょうど俺と同じくらいだ。その他のメンバーの冒険者手帳のコピーもあったがどれもこれも猛者でとてもバランスの良いパーティーだった。
「ちなみに、LDSの情報は?」
「LDSは全員L 45以上で構成されたチームだね。さすがに冒険者手帳は手に入らなかったけど」
まぁ、政府機関の個人情報は正直どうでもいいか。
「で、そのダンジョンってのはどこなんだ?」
姉弟は顔を見合わせる。次に口を開いたのは弟の琥太郎だった。
「《《白狼》》のダンジョン。階級はL10。半死で戻ったタンクを看護してた人によれば……(白狼、白狼)って何度もうなされてたらしいよ」
白狼の名前が出た瞬間、シバがぴくりと耳を動かした。俺も、心臓が止まるかと思った。白狼のダンジョンは……
——俺の親父が死んだダンジョンだ
にしても政府管理下の病院の看護師を見つけ出してアタックする探偵こえぇ……。
「ってことは、本当にL級の冒険者は俺だけ……?」
「えぇ。そうね。政府は外国から例のダンジョンに討伐部隊を呼ぶらしいけど正直、L45以上のLDSがやられてるとなると……、まぁ今後どうなるかはわからないわね。現状、SSS級単独でのL級挑戦は絶対に申請が降りないようになっているわ。なぜなら失踪しても死体を回収しに行く人がいないから。岡本さんは強いし配信で生死がわかるから許可が出ているみたい」
なるほど、それで相田さんがあんなに焦ってたわけか。とはいえ、政府機関としてもダンジョンで何が起こるかなんてわからないし「絶対」はない。こうなったら海外から優秀な冒険者をヘッドハントするか、新しい人材の育成をするしかない。
——白狼……か。
「ま、私たちが調べた限り政府には強制する力はないし、現状SSS級の冒険者がL級への申請を出してもめったなことがない限り通らないらしいから今のところ特に岡本さんたちに何かあるってわけじゃなさそう」
「そうっすか。うん、ありがとう」
親父の仇でもあり、俺なんかよりもはるかに強いやつを葬ったダンジョン……。気になるな。




