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第42話 俺、無事帰還



「ただいま」


「おかえり〜!」


「英介、遅いゾ!」


 可愛い彼女と愛犬(?)に出迎えられて俺は数日ぶりに自宅に戻ってきた。音奏はシバに欠かさず餌をやってくれていたらしい。俺が死んでないからな。


「も〜! 寂しかったんだからね〜?」


「はいはい、すんませんでした」


「シバちゃんも、ねっ?」


 シバはそっぽを向くがぶんぶんと尻尾を振っている。シバとは一緒に実家を出た大学生の時以来ひとときもかかさずに一緒にいたんだもんな。俺の体に異常がなかったのが奇跡って感じだ。


「ふあぁ、英介の顔見たら眠くなった」


 シバは俺に何度か撫でられると満足したらしく自分の寝床で丸くなった。あぁ、なんて可愛いトースト色なんだ。シバが起きたらたくさん撫ででスンスンしてやる。



「音奏、ありがとうな」


「いいえ〜、どういたしまして」


 音奏の方はゆるっとしたTシャツ(俺の)にゆるっとしたスウェット(俺の)を着てうっすらとメイクをしている。コイツが勝手に人のものを着たり食ったりするのは前からだが彼女となるとなんというか……支配欲がぐっと満たされるような。


「岡本くんにいいニュースと悪いニュースがあります」


「なんだよ畏まって」


「いいから、どっちがいい? グッドニュース? バッドニュース?」


 なんだか企んでいるな? 


「じゃあ、グッドニュース」


 音奏は「待ってました!」とばかりにポケットに手を突っ込むと何やらチャラチャラ取り出した。


「ん?」


「合鍵、作りました!」


「あぁ、そういえば。大家さんに連絡しとくよ」


「でね、ついでにこれも買っちゃった。見てみて」


 チャリ、と音を立てて揺れたのは合鍵にくっついたキーホルダーだった。よく見ると可愛い柴犬のモチーフで尻尾が動きに合わせて揺れるようになっている。


「かわいいな、シバに似てる」


「でしょ〜? 鍵屋さんの近くの雑貨屋さんで見つけたんだ〜。でね、岡本くんの分も買ったのでプレゼントです! 初めてのおそろいだね〜! はい、これ。岡本くんの方の鍵にもつけてね?」


 おそろい……か。なんか嬉しい。

 可愛らしい柴犬のキーホルダーを速攻で鍵にくっつけて眺めてみる。なんか、めっっちゃカップルっぽいな? あぁ、カップルか。


「ありがとう。大切にするよ」


 彼女はにっこりと笑うと、ささっとベッドの方へと向かう。そんでそのままの勢いでベッドの上に座った。


「続いて悪いニュースです」


 俺はここでとっても嫌な予感に襲われて全身に鳥肌が立った。そう、音奏はシバの世話をするために俺の家に泊まっていた。 多分、俺のベッドで寝ていた。そんでもって、1人で暇だから色々探ったんだろう。


「岡本くんはギャルが好きですか?」


「なんで敬語なんですか」


「岡本くんはギャルが好きですか?」


 こ、こえぇ……。


 俺はベッドの上で何故か正座する。


「ギャルは……好きです」


「じゃ、じゃあ……岡本くんはギャル=ビッチだと想ってますか」


「は? そ、そんなことは……」


「質問を変えます。岡本くんはビッチなギャルが好きなんですか?!」


 あぁ、やっぱり……まずいぞぉ。付き合いたてで彼女にみつかりたくないものNo1の「セクシーなDVD」である。スマホで見る派ではあるが、こう……パッケージも楽しみたくてお気に入りのものは買っていたりする。


——黒ギャル、ビ◯チな彼女の◯おろし♡


「いえ、そのそういうわけでは」


 音奏は俺のDVDを取り出すと目の前に並べる。どれもこれもギャルものでビッチな女の子が出てくるものだ。ちなみに女の子がリードする系である。あぁ恥ずかしい!

 あぁ、俺短い恋人期間が終了するかもしれません。儚い夢でした。


「岡本くん、ビッチなギャルじゃないと……嫌?」


「へ?」


「だから……その」


 てっきりキレられるかと思いきや、目の前の彼女は少しだけ不安げに俯いていた。


「あ、あぁ。これはその音奏と会う前に買ったもので、気分を悪くしちゃってごめんな。俺には音奏がいるんだしさすぐ捨てるから……」


「違うの、捨てなくていいよ。そうじゃなくて……私ね、あのね……」


 俺がDVDを捨てようとして、何故か音奏がDVDを守るように抱きしめる変な図になって頭が混乱する。


「音奏?」


「私、ギャルじゃん?」


「ギャルですね」


「でも、ビッチじゃないっていうか……そのえっと」


 彼女は言葉につまって何度か俺をみつめて俯いてを繰り返す。俺はじっと彼女が話し出すのを待った。


「岡本くんはさ、このDVDの子たちみたいなギャルで男の子をリードしてくれるようなビッチで可愛い子が好きなのかな〜? なんて思ってその実はね」


 覚悟を決めたように息を吐いて、それから彼女はちょっと小さな声で言った。


「私……えっちなこと、したこと……なくって」


 俺は「実はギャルはキャラ作りなんです」とか「童貞は無理です」とか言われるのかとおもって身構えていたが……意外な方向性からのカミングアウトに息を呑んだ。

 すると彼女はマシンガンのように話し出す。


「ほら、カップルなんだし? 大人なんだしそういうことも将来的には考えたいなって思ったけど、お掃除してたらこのかわいこちゃんたち見つけてさ? 岡本くんが私のことこういう可愛くてえっちな子だと思って好きって言ってくれるのかな? って思ったら不安になっちゃって。だって私ってそういう経験ないんだもん!」


 わ〜! と1人で盛り上がって音奏は俺に抱きついてくる。正座をしていたからかそのまま俺は受け止めきれずに後ろに倒れて、半ば押し倒された感じになった。


「俺は、その……経験がないとかそういうの気にしないし。恥ずかしいけど俺も素人童貞……だし?」


 自虐っぽく笑って、起きあがろうとすると音奏はぎゅうとさらに抱きついてくる。


「よがっだぁ……、じゃあまだ私のこと好き?」


 押し倒されたような状況で涙目で見つめるのはずるいっすよ……。


「好きです」


「ちなみに、ちゅうもまだ……だよ?」


「そうですか」


 お互い自然と目を閉じる。ベッドの上、目の前には目を閉じる可愛いギャル。近づく唇……



——ピンポーン!


 突然の大きな音に俺たちはバッと離れてベッドから降りた。


「オマエら、犬も食わないぞ。いちゃつきやがって」


 ちょっと嬉しそうなシバに照れながらも俺は来客を出迎えに玄関に向かった。


 

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