第38話 俺、久々のL級で無双する
最下層にたどり着くと、地面には複数の穴が開いていてそこにはマグマが満ちている。ゴポゴポと不吉な音を立てるマグマ。
「くるぞ!」
シバがぼぅっと毛を逆立たせ、退避する。俺は弓を構えて獲物を待つ。複数ある穴のうち一つが大きく泡立つと派手な音をたてて大きなマグマの塊が飛び出した。
マグマイルカはマグマの雨を降らせながら上空を華麗に飛び、他の穴に入ろうとする。俺は降り注ぐマグマを避けながら奴のこめかみに水矢を打ち込んだ。
水の魔法石がくっついた矢でマグマがじんわりと冷え固まったたった一箇所をすぐ後ろに飛ばした通常矢が貫く。
マグマイルカが絶命し、落ちてきたので避け俺は次の矢を構える。
「英介! 奥だ!」
シバのいう通り奥の方の穴がぼこぼこと泡立ちマグマイルカが飛び出した。
やつの急所はこめかみにある耳だ。降り注ぐマグマを避けながらさっきの1頭の死体をジャンプ台にして飛び上がり、横っ飛びしながら先ほどと同じくこめかみに2撃。
俺が着地するのと同時に今度は4つの穴全てがぼこぼこと泡だった。シバがまずいとばかりに入口の方へ退避する。
フロアの奥へと走り込みつつほとんど同時に飛び出してきた4頭を順番に仕留めていく。マグマの弾幕を水矢の軌道を使って避けながら確実に仕留めていく。
「やけに数が多いな」
マグマの1滴が髪を焦がしたのかタンパク質が焦げる匂いが鼻を掠める。積み上がっていくモンスターの死体。こいつらは素材にもならないし食えないしで無駄な殺生なんだよなぁ。
「よしっと」
最後の1頭を仕留めると俺はざっとフロア全体を見渡した。泡立っている穴はない。俺は構えを解い後退りながら、何気なくマグマイルカの死体の数を数えた。
「1、2、3、4……5?」
初めてに倒した1頭、次に奥から飛び込んできた1頭。最後に4頭同時に仕留めたんだから死体は6頭ないとおかしいよな……?
——ズルズル……
何かをひきづるような音にパッと振り返ると、俺から一番遠い場所にあったマグマイルカの死体が何者かに引きづられてマグマの穴の中に落ちていくところだった。
「なんだ……?」
俺は即座に弓を構え、マグマイルカの死体がひきづり込まれたマグマ穴に照準を合わせる。
大きな気泡と共に現れたのは顔……ではなく大きな尾鰭。
バシャンバシャンと俺に向かってマグマを浴びせてくる。俺は飛び上がって避けつつ水矢と通常矢の二段攻撃でやつの尾鰭を貫いた。
「きゅおぉぉぉん」
と嫌な音が響き黒い尾鰭が引っ込むと今度は俺の背後の穴がぼこぼこと動き出す。マグマイルカよりも数倍早い動き、だが俺はもっと早い。
大口を上げて飛び出してきたやつはマグマイルカの三倍はある図体だった。俺は水矢を乱れ打ち奴の表面についたマグマを引き剥がす。
「すげぇ……」
水によって現れた奴の正体に俺は思わず声を上げた。ツルツルした体はクジラでもサメでもない。パンダのような可愛らしい白と黒の模様に真っ黒いつぶらな瞳。口の中は無数の歯が生えていて、何でも噛み砕いてしまいそうだ。
「はじめてみたわ。マグマシャチ……!」
マグマシャチは俺を眺めるとズボンと音を立てて潜っていった。まるで獲物を品定めするような視線は知能が高いことを感じさせる。
コポコポと泡立つ穴……しかし、やつが飛び上がったのはその真後ろの穴だった。
「おっと」
俺は背後からのマグマを横向きにジャンプして避けるとすかさず水矢をこめかみにむかって放つ。
しかし、マグマシャチはぐいんと体をひねるとヒレで矢を弾き落とす。
「なるほど、俺が戦っているのを見ていたってわけか」
となれば作戦変更だ。
今度は飛び上がってきたやつにフェイクの水矢を打ち込みつつわざとそれを弾かせる。
「そこだ……!」
俺はやつが飛び込もうとしたマグマ穴に水矢を打ち込んでマグマを冷やしかめてしまう。マグマシャチは頭から冷え固まったマグマに激突しぎゅおおおおと大きく吠えた。
俺は構わず近くのマグマ穴も水矢ですべて塞ぎ退路を立つ。
こうなってしまえばもう俺の勝ちである。のたうち回るマグマシャチにトドメを刺した。
「無事、L級ダンジョンを踏破しました!」
「いや〜、今日も岡本くん絶好調! 余裕でマグマイルカだけじゃなくマグマシャチ? も倒しちゃいました〜! かっこいい〜!」
「ワンッ!」
巨大シバの決めポーズとともに配信の終了ボタンをしっかりと押す。押した後は自分と音奏のチャンネルで配信が終わっていることを何度も確認した。
「いや〜やばかったね! マグマをひょいひょい避けながら飛び上がって弓矢えぐかった〜!」
「音奏、オレも褒めて」
「シバちゃんもありがとう! ヨシヨシ」
「よし、帰りますか。やっぱ戦闘配信よりのんびりの方が性にあってるわ」
いい感じにL級配信も完了したし、この録画をお役所に渡しつつあとはのらりくらしすりゃいいか。
「私も頑張らなきゃね〜! 岡本くん、帰りは景気付けに焼肉食べちゃお〜!」
「はいはい」




