第29話 俺、ギャルを見守る
「じゃじゃーん! 可愛いっしょ!」
と目の前で手を広げてくるくると回ってみせたのは新しい特注衣装を身につけた音奏だった。
露出を抑えても可愛く見せるためかテイストは和服を取り入れているらしい。折り重なったような着物風の白いトップスはきゅっとリボン風の帯でウエストが絞られている。動きやすい様に軽くフレアになったスカートはまるで女子大生の袴のようだ。しかし、足元はしっかりとブーツで動きやすく……。どこかでみたことあるような?
「可愛い……」
忖度なしに可愛い。センスがいい、露出をここまで抑えたのに全男性に刺さる可愛さ……。
「髪型もハーフアップにしたんだ〜、清楚っしょ?」
ギャルが清楚っぽい服を着ているという感じではあるがそれもまたいい。風間さんの奥さん、強い……。
「胸元のワンチャンも可愛いし、私これ気にいっちゃった!」
音奏が動くたび袖がひらひらと揺れ自然と目が追ってしまう。淡い色づかいも生地の加工もなんというかセンスの塊。
「そうそう、ステッキも新調したんだよ〜。魔法石の自動入れ替え機能付き!」
ステッキも魔法少女から魔術師感のあるシックなものに変わっている。こっちは風間装備店のチャーム付き。
あの奥さんは商売がうまいな、全く。
「ねぇねぇ、写真撮って!」
***数分後***
「ハッシュタグ風間装備店、ハッシュタグぴーあーるっと。よーし、美彩ちゃんとのミッション1はこれで達成っと。岡本くん、ありがと。じゃあダンジョン行こっか!」
数分の間に何十枚も連写させられて俺はぐったり。
インフルエンサー恐るべし。
「岡本くーん、早く早く!」
「はいはい、シバいくぞ」
シバを抱き上げると彼は珍しく俺の方を見上げフンフンと鼻を鳴らした。さっき飯食ったばっかだよな?
「英介、オレも新しい首輪ほしい」
「ん? 首輪か? いいぞ。これからいくダンジョンでちょうど素材が取れるだろうしな」
「ほんと? 今日はどこのダンジョン?」
「あぁ、ほんとだよ。そうだな、伸び縮みする厄介なやつ。どんな柄がいいか考えとけ」
シバがぶんぶんと尻尾を振った。音奏のはしゃぎようを見て羨ましかったらしい。俺よりも随分年上であるが可愛いやつだ。
***
「音奏〜! 頑張れ〜!」
俺は彼女とアルラウネの戦闘を見守っていた。もちろん、音奏のチャンネルで配信中である。
「いや〜!」
音奏は火属性の魔法石に切り替えたステッキを振り回しながら、必死にアルラウネの触手に応戦している。
「きゅぉぉおぉぉぉぉぉ!」
アルラウネはSSS級モンスターの中でも攻略が簡単な方。その触手が物理耐性が高く魔法耐性に弱いことから彼女の相手にうってつけだ。しなやかで切れにくい触手はさまざまな武器の素材になる。
さて、俺はピンチヒッターだしコメントでもチェックするか。
<めろたんがんばえ〜!>
<岡本くんと配信するために頑張れるの健気可愛い>
<触手プレイ、エッなんですけど>
<これはすこ>
<岡本くんナイスアイデアかな?>
<めろちゃんねるだから本体映らなくて悲しい写せ>
<こいつらまさか……L級配信するつもりなんかな?>
<いや、流石にLはないだろ。日本でも数人しか行けない階級だぞ>
<ってか配信者でL級にいったやつ未だかつていなくね?>
あぁ、L級挑戦の発表はまだ隠してるのにバレてるな……。ネット民の勘の鋭さは異常だな。
「いやぁぁ〜!」
なんてコメントに関心していたら音奏は片足を触手に掴まれて逆さ吊りにされている。
が、しかしアルラウネの触手のトゲ程度では彼女の装備を傷つけられないので特に怪我はしないだろう。
「音奏〜、焦るなよ〜」
音奏は足を掴んでいる触手の根本に火炎玉を飛ばし、解放されるとやっと臨戦体制に入った。なるほど、彼女はパニックになるタイプか。デスゲームでいえば最初に見せしめで殺される系キャラってところだな。
「いいか〜、事前に勉強したんだ。しっかり弱点をつくんだ」
音奏はぬるぬるの触手から逃げるので手一杯。やはり、これではL級には連れていけないな。あと10分まって倒せないようなら諦めよう。
俺は現実的な考えを持ちつつ、コメントに視線を戻す。
<めろちゃん弱可愛い>
<新衣装はあのゲームキャラにそっくりで可愛い、センスある>
<岡本くんの趣味かな? えっちだね>
<はよ付き合えよ、いちゃいちゃするのが見たいんじゃ>
<でもこれじゃめろちゃんSSSにはなれないぞ! がんばえ〜!>
<俺はケントの配信で出てきたお隣さん推し、主に胸>
<もうめろちゃんねるの視聴者ほぼ岡本くんのファンになってて草>
音奏は愛されてるんだなあ。
俺も今度ちゃんと自分の配信のコメント読んでみよう。
「きゅおぉぉぉぉぉん!」
音奏の一撃を食らったアルラウネは大きく身をよじらせ無茶苦茶に触手を振り回した。音奏のやつ、やっと冷静になったな。
アルラウネは無数にある触手のうち<主触手>と呼ばれる触手を燃やすと胸に大きな花を咲かせる。まぁ見ての通りその花がやつの息の根を止める弱点なのだが……アルラウネは怒り状態になりその弱点を隠す様に常に触手が胸を覆ってしまう。
(音奏が主触手を見破るまで数十分、うち受けた攻撃は5回)
(主触手を燃やすまで数分……これは筋がいいな)
(次はあの弱点を覆っている触手を燃やし、次の触手が来る前に燃やせるかだが……)
「きゃっ!」
なんて思っていたら音奏は両足を触手に掴まれて逆さ吊りにされる。彼女の足にぬるぬるした触手が絡まり太もも、腰、胸まで触手が絡んでいく。
花を胸に咲かせ怒り狂ったアルラウネは音奏の顔に向けて大技の「酸性液」を吐き出すために《《全身の触手をうねうねと振るわせ》》口を大きく開けた。
——まずい! 顔は!
俺が弓を構えた時、音奏の声がした。
「ひっかかったね〜、いただくよっ」
音奏は左腕でステッキを振るとステッキが鈍い光を放った。その瞬間、大きな火炎玉が胸の花に命中、アルラウネが絶叫する。
(そうか、大技を打つ前はスキが生まれる)
「ぎょぉぉぉぉぉお!」
「あちちっ」
音奏は触手から解放されると火の粉を払う様にくるっと回るとカメラにピースしてみせた。
俺、こんなに心配性だっけか。大技前に隙ができることくらい俺だってわかっていたのに、彼女がピンチだと思ったら焦って頭が回らなくなっていた。
あぁ、俺の方が阿呆だったかもなぁ。
「SSS級のアルラウネ、撃破! いぇ〜い☆」
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