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第24話 俺、洗礼を受ける

 高橋さんはケントのカメラをぐっと押さえると顔が映らないように地面に向けた。


「いいか? 人の家の敷地でかってにカメラ回して大声で騒いでる馬鹿が何言っても説得力なんかないんだよ。ってか、なんだ? このクソガキがぁ」


「えっ、いや、それは」


 押され気味のケント。そしてあまりの迫力に引いている俺。


「虐殺だぁ? お前が着ているレザーの服は? 具合が悪くなったら飲む薬は? お前が毎日口に入れてる全てはなぁ! 全部弱くて小さい多くの動物を犠牲にして成り立ってんだよ! んなこともしらねぇで偉そうなこと言ってんじゃねぇよ!」


 この人元ヤンなのかな……。

 こ、怖ぇぇ。


「で、でも弱いモンスターを殺すのは倫理的に……」


 ケントが言い返すと高橋さんがクイっと片眉をあげる。


「は? じゃあアパートに不法侵入して名誉毀損して勝手に撮影配信するのは倫理的にいいんだ? ダンジョンの中は自己責任でモンスターを倒すことは法律には触れないけど? 犯罪してるやつが何いってんの? お前が倫理なんか語るなボケが」


 まさに論破……!


 高橋有紗さんが怒鳴った数秒後、パトカーのサイレンが聞こえた。どうやら他の住民が警察を呼んだようだった。


「はい、あ〜、また君か」


 警察官のおっさんはケントを見ると嫌な顔をして彼を俺たちから離すと、配信を止めるように指示しアパートの敷地外へとつれて行った。それから、俺たちは簡単に聴取を受けると警察官は「どうも」と言って去っていった。



「あの、高橋さん。ご迷惑おかけしてすんませんでした」


 高橋有紗さんは長い黒髪を頭の上でお団子にし、灰色のスウェット上下で完全に寝起きの格好だ。少し性格のキツそうな美人。すらっと背が高くて顔が小さい。


「謝ってすむなら警察はいらないのよ。夜勤後のサービス残業、12時に帰宅して風呂入って寝入って4時間で起こされたんだから」


「いや、あのほんと」


「貸しなさいっ」


 というが早いか高橋さんは俺の腕の中にいたシバを奪い取った。そのままシバを思いっきり抱きしめて頬擦りして


「シバちゃんっ、今日もかわいいでちゅね。もふもふしてるんでちゅか。あらまぁふわふわでしゅねぇ〜。おひさまの匂いがしましゅねぇ〜。お姉さんにちゅっちゅっさせてぇぇぇぇぇ。チュッ、チュッ〜んふ〜〜」


 もふもふ、ちゅっちゅっ。

 さっきまでの貫禄はどこへやら、デレデレの顔でシバを堪能する彼女。


 そう。

 お隣の高橋さんはうちのシバの大ファンなのである。


「あら、シバちゃんっ。笑顔なの〜? かわいいでしゅねぇ〜。ああぁぁぁぁ」


 シバの胸に顔を埋めて犬吸いをし始める彼女。シバはこちらにこっそり振り返ってドヤ顔。


——何せ、シバは<たわわ派>である。


 しっかり前足でたわわに触れている。このスケベ犬め。


 高橋さんはダボダボのスウェットでもわかるくらいの《《たわわ》》である。まぁ、夜中に酔い潰れて廊下で寝ていたり、すっぴんスウェットでどこでも出歩く系女子ではあるが……。

 

「ぷふぁぁ……ま、岡本くんは悪くないしね〜。気にしなくていいわよ。それに、冴えないリーマンだと思ってたけど、ヤルじゃん。音奏みたいなピッチピチの子捕まえて人気配信者になったんでしょ〜? 隅におけないねぇ〜」


 満足げなシバを俺に寄越すと、眉を上げて俺を揶揄うように彼女は言った。当然の如く、音奏もニヤニヤしている。


「ま、あぁいう変な輩からちゃーんと音奏を守るのよ? それから、たまにはシバちゃんに会わせてよね」


 ってか、音奏の名前……


「もしかして、2人って知り合い?」


 音奏と高橋さんが顔を見合わせて笑顔になる。


「友達! この前、岡本くんの家に来た時に仕事帰りの有紗ちゃんとばたり出会ってたまーに飲みに行くんだよ〜。ね〜」


 恐るべきコミュ力! 俺だってシバがいないと話すこともできないのに……!


「じゃ、私寝るわ。そうそう、ここ壁薄いから。気をつけてね」


「いやだから付き合ってないって」


 バタン。

 高橋さんの家のドアが閉まった。なんというかこう彼女はとても面白い人だ。


***


「迷惑系配信者?」


 音奏とコンビニ飯で一杯やりながら俺は配信についてのあれこれを学んでいた。

 わざと人に迷惑をかけて閲覧を稼ぐ奴らがいるらしい。


「そ。あのケントチャンネルはいわば無敵の人なんだよね」


「無敵の人ってあの無職とかで大量殺人とかする?」


「まぁ、そんな感じ。逮捕歴もたくさんあるし……けどスキャンダル系の配信だからか投げ銭とか広告とかで稼いでて罰金払って終わり。みたいな?」


「まじで無敵の人なんだな」


「そう、ムカつくことに逮捕されるような犯罪、暴力とか脅迫とかはしないんだよ〜アイツ。でっかいパトロンがいるとか親が太いとかなんかな〜?」


 ふにゃふにゃのチータラを食べながら音奏が言った。ってことは、逆を返せば迷惑系で浸透しているあいつに何を言われても俺に影響はないってことか。

 あぁ、よかった。


「焦った。あんなん人生で初めてだったから」


「あぁいう煽り系の輩は人気の配信者をカモにするから。洗礼ってやつかも?」


「洗礼かぁ、迷惑千万だな」


「まぁだからテキトーに流して警察呼ぶのがいいよ」


「だな、そのうち俺に飽きるだろ。あんまりしつこいようなら大人の対策をだな。それまでは気にしないことにするわ」


 俺にはやつを懲らしめてるちょっとした案がある。まぁ、あまりにもしつこい様なら……だけど。


「でも……」


 音奏がちょっと不満そうに頬を膨らませた。


「何だ?」


「将来的に付き合う予定って私が答えたのは……嘘じゃないから」


 彼女はボッと顔を赤くすると「今日はもう帰る!」と荷物をとって玄関の方へと走っていった。






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