第23話 俺、凸られる
俺はまっすぐ自宅に向かった。というのも、音奏のやつに勝手に部屋の中をかき回されるのはごめんだからだ。
あいつ、泊めていた時に渡していた合鍵を持ったままだったはず……。信用しているが、男子のあれこれを見られるのはちょっと恥ずかしい。
——ギャルものが好きなんて言えない……!
車を駐車場に停めて、アパートの階段を上がった時だった。
「すいませーん! 俺、ケントチャンネルのケントっていいます! 岡本英介さんですよね!」
カメラを構えた若い感じの男の子が俺に大声で話しかけてくる。
「は……?」
「コラボしてください!」
「え、えっと」
「すいません。もう帰らないと」
「いいじゃないですか〜!」
「すいません、まじで」
「へ〜、断るんだ。じゃあ、せっかくだし質問に答えてよ」
無茶苦茶である。
そもそも初対面の少年とコラボできるほど俺はコミュ力が高くない。今だって何も言い返せてないぞ!
「いや、その……」
「虐殺して楽しい?」
ケントと名乗った少年は歪んだ笑顔を見せる。
「虐殺なんかしてないです」
「してますよね? あなたは明らかに自分よりも実力のないモンスターを虐殺する配信をしてますよね? 殺す必要がないモンスターを殺して金を稼いでいる。恥ずかしくないんですか?」
ニヤニヤと笑いながらケントは俺が言い返すのを待っている。小学生の喧嘩みたいな問いに答える必要あるか?
でも、こんな明らかに若い子を押し退けて転びでもしたらそっちの方が問題だ。
「俺は、冒険者です。モンスターを倒して素材や食材を調達して食べて生活をしているだけです」
「はぁ? キャンプとかいってヌルゲーして虐殺してるだけだろ? そもそもモンスター殺さなくてもカップラーメン食べればいいじゃん! はい、論破!」
馬鹿にしたように舌を出すと彼は大声で
「ここに住んでる岡本英介は弱いモンスターを虐殺するサイコパスで〜す!」
と叫んだ。
「お、おい!」
「事実を言っているだけでーす! それともモンスター殺してないの?」
殺しているのは殺しているし、俺が「ワンパン」配信で人気を得ているのも事実だ。
「警察呼びますよ」
「別に〜、呼べば? 名誉毀損で訴えられても金なら払ってやるよ〜。 お前みたいな、わざわざダンジョンに出向いてモンスター殺してお金を得ているような奴よりマシだし!」
早くこの場を切り抜けないと……。
一旦、警察に電話するか? いや、でも俺も今実質無職だしな。くっそ……。
「とにかく、家に帰りたいのでどいてもらえませんか?」
「そうだ、あと一つ、岡本さんはリスナーを騙してますよね?」
「え?」
「ほらこれ、<独身彼女なし男性のダンジョン料理 再生リスト>ってあるけど、アンタ人気ギャル配信者の伊波音奏と付き合ってますよね?」
「は? 付き合ってねぇし」
「俺には証拠がありまーす」
とニヤニヤしながらケントはいうと俺の家のチャイムを鳴らした。反応はない。しかし、ケントは何度も何度もチャイムを鳴らす。
すると、当然の如く扉が開き、音奏が顔を出した。
「あっ、岡本くんおかえり! ってこの人誰? 私、動画の編集でヘッドホンしてたから気が付かなかった」
笑顔120%の音奏である。
「ほらね? 付き合ってるどころか同棲中! 岡本英介はガチ恋の女視聴者を騙して投げ銭させてました!」
「だから、音奏とは付き合ってないって」
と否定してみたものの、彼女は俺のTシャツを着ていたしメイクも薄め。なによりも俺の家から出てきたもんな。当然のように。
俺はもうパニックになっていたのか頭が真っ白になり始めた。
——これで人気がなくなる?
——まさか虐殺犯だとか思われる?
——アンチが大量に増える?
——最悪、サイトをBANとかになる?
——女ファンが減ってモテなくなる……?
——え、夢の配信者ライフ終了なのでは?
配信者が一つの火種で一生を棒にふるというのはよく聞く話である。俺も音奏に配信のあれこれを教えてもらった時にそういわれたっけ。
これはまずいのでは?
かなりまずいのでは?
「ってか、君誰?」
音奏がケントにそういうと、ケントは「えっ」と若干引いた。その隙に俺はシバをかかえて彼を横を通り、自宅のドアの前にたどり着いた。
「ケントチャンネルのケントでーす! コラボしてくれなきゃ暴露しちゃうからな! で〜? 2人は付き合ってるんですか?」
「付き合ってません」
「将来的にはお付き合いする予定です!」
——音奏〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
「はい、ガチ恋勢騙してるの決定〜!」
俺がパニックで絶望していたら、ガンッと大きな音がして俺の部屋の隣のドアが開いた。
「うるさい!!! 警察に通報すんぞクソガキが!」
だらっとしたスウェットにすっぴんだが非常に美人なおねぇさん。しかし、怒り慣れているのか声には非常に迫力がある。
隣の部屋に住む、夜勤明けの飲兵衛看護師・高橋有紗さんがケントを怒鳴りつけたのだ。




