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第20話 俺、収益化する





 俺はドラゴンの火種とドラゴンの脂身で焼いた最高級のドラゴンステーキの動画を撮影し終わると、一部切り取ってシバに食わせた。

 鉄板の上でジュウジュウと焼けていくステーキ、その油とバターを吸わせつつ醤油とこんがりニンニクで炊きたてご飯を炒めたガーリックライス。


「うわ〜、お肉うまそ〜」


 音奏は当然のように俺の隣に座ると取り分け用の木の皿を手に取った。


「レア?」


「よく焼きでお願いします」


 俺は自分用の肉を火加減の弱い場所に移す。俺はレアが好きだし。


「はいはい」


 俺は鉄板の上のステーキをヘラで一口サイズにカットしてレアな断面をコロコロと焼いていく。もったいないなと感じつつ、彼女のために手を動かした。


「あの〜、ガーリックライスは追いバターで」


「じゃあ、動画用の物撮りよろしく」


「任せなさいっ!」


 音奏はスマホを構えると鉄板で焼けていくサイコロ状のステーキやらガーリックライスやらを接写する。俺もそれに応えるように追いバター、焦し醤油で応戦。

 じゅうじゅうといい香りがたち、ぐぅと腹がなった。

 さっき、死ぬほど嫌なもの見たけど、俺たちは空腹には勝てないようだ。


「カット。よーし、美味しそうな動画とれたぁ。ねぇ、岡本くん。ドラゴンの最高級肉いただきましょ!」


「だな」


 音奏のプレートにはガーリックライスに追いバター、コロコロになったよく焼きのステーキが盛られ、いわばサイコロステーキ丼である。

 俺の方は一枚肉のステーキとガーリックライス追いバターなしで調整。


「いっただきまーす! あちぃっ、うまっ」


 はふはふしながら彼女はサイコロステーキを頬張り、ガーリックライスをかきこんだ。おいおい、女の子としてどうなんだ? と突っ込みたい気持ちもあるが、ストーカーに悩まされていた時、あんまり食欲なかったもんな。

 やつが死んだ安心感で反動がきているのかもしれない。ま、俺はそういうの気にしないタイプだし。


 なんてことを思いつつ、俺もドラゴンのステーキを一口。あの見た目からは想像がつかない柔らかさ、クセのないジューシーさと少し甘い脂。ドラゴンの肉は高級和牛の霜降り肉に匹敵すると言われるだけある。


「そうだ、なんで火種で調理する必要があるの?」


「ドラゴンの火種は高火力かつ《《肉を焼くのに適した炎》》なんだ。ほら、ドラゴンの攻撃手段だろ? ま、自らの肉を焼かれるとは皮肉なもんだけどな」


「へぇ〜、牛ステーキに牛脂みたいな? とんこつラーメンに背脂、みたいな?」


「ちょっと違うけど、まぁそんなとこだ。それでいて、希少なものだから余計に美味く感じるのかも」


 肉と米、にんにくと醤油にバター。

 最高すぎる……。


「そういえば、岡本くんって収益化した?」


「収益化?」


「そうそう、登録者が1500人以上で動画とかアーカイブの総再生が500時間いくと収益化? ってのができてお金稼げるよ〜」


 そういえば忘れてた。

 配信者は配信中の投げ銭だけでなく、動画の広告収益を毎月もらって生活している。その他、音奏なんかは宣伝なんかもしてスポンサーもいるようだ。


「忘れてた……そういえば通知が来ていたような」


「おっ、じゃあ配信でごはんデビューだね? 次の配信からは投げ銭解禁だっ。おめでと〜!」


 プシュッと開けた缶ビールを俺に渡し無理やり乾杯すると嬉しそうに微笑んでビールをぐびぐびと彼女は飲んだ。


——俺、もう働かなくてもいいんだな。まじで


「ありがと」


 俺はひんやりしたビールを流し込み、口の中をさっぱりさせる。うまい。


***


 その夜はいつも通り音奏がテント、俺が外でシバと一緒に眠って過ごし、朝一番で俺たちは撤収した。

 収益化も無事に済んだし、次の配信からは少し楽しみだ。ま、俺みたいな男に投げ銭をくれる視聴者がいるかどうかは謎だけど。


「じゃ、この辺でいいか?」


「へっ?」


 俺が車を止めたのは音奏のマンションの前。俺も収益化でザクザク稼いだからこのくらいのいいマンションに住めるのかな。

 そしたら毎日もっと良いキッチンで料理してもっとバズって……シバにも部屋を用意してやれるかもしれん。冷暖房完備の。


「ここ、音奏の家だろ?」


「でも、私は岡本くんの家に……」


「ストーカーの野郎は死んだんだ。もううちに泊まる必要ないだろ? それに、長く家を開けすぎるとカビるぞ」


「えぇ〜ん。じゃあ、またね」


「はい、じゃーな」


 俺は彼女をしっかり見送ってから自宅へと戻った。久々の1人(と1匹)の時間。ここ1週間ほど色々と我慢してきたし、DMでも見てスッキリするかな。

 まずはシャワー、それから……。


「英介、骨炙って」


「ん、いいぞ」


 俺はガスコンロに火をつけると持って帰ってきたドラゴンの骨を軽く炙る。なんでこれが好きなのか俺には理解できないが、サーモンを炙る感覚なんだろうか?


「熱いから気をつけろよ〜」


「サンキュ」


 シバは嬉しそうに骨を咥えると自分のベッドの方へポテポテと歩き、伏せの体制で骨を齧り始めた。トースト色のお尻が非常にかわいい。

 俺はスマホで写真を撮ると軽くモザイク処理をしてからSNSに乗っけた。シバの人気にも助けられてるってわけだ。


「さて、シャワーシャワーっと」


 洗濯機の前でパンツ1丁になり、タオルを手に取る。会社に行かない分暇だし、筋トレでもするかな。いや、シバを連れてジョギングでもいいな。


 なんて自分の腕の筋肉を見ながらぼーっと考えていると、アパートの階段をカンカンと駆け上がる音、そして……


「お〜っす!」


 玄関の扉が開いてついさっきまで一緒にいた女が手をあげていた。


「岡本くーん、きちゃった。ってきゃ〜、積極的〜!」


 勝手に入ってきて勝手に照れる音奏。彼女の手には満タンに膨らんだコンビニのレジ袋。


「お昼ご飯一緒にたべよ〜!」


「あ〜、はいはい」


「やった、じゃあお邪魔しまーす」


 

 

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