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第19話 俺、無様な死を目撃する


「なぁ、俺だよ。音奏ちゃん、覚えてるだろ?」


 と嫌がる音奏の腕を掴んでいたのは若くて金髪、しかも色黒で「パリピ」と呼ばれるような人種の男だった。顔もそこそこ格好良くて、腰にはどでかい剣を携えている。

 傍にはシバと食ってたであろうジャーキーが地面に落ちていて、シバはごろんと横たわっていた。


「おい!」


 俺が急いで彼女から男を引き離すと


「どうしよう、岡本くん。シバちゃんが! コイツに蹴られて……」


「オレのジャーキー……」


(シバは無事だな)


 俺はじっと男を睨んだ。


「誰?」


「知らない人……」


 彼女の言葉に男がぐわっと顔を真っ赤にして激昂する。


「ふざけんな! 《《クソビッチ》》! どうしてだよ、あんなにクラブで微笑みかけてくれたのに!」


 え? この陽キャがまさかストーカー? あの中学生みたいな誹謗中傷してた? 

 俺はクソビッチいう言葉がよく使われていたことを思い出して、哀れみの目線で男を眺めた。


「もしかして、あの変なアカウントって」


「そうだよ、お前が……最近クラブに来なくなって調べたら他の男に……」


「ってか誰?」


「クソビッチが! 俺だってここまでこれるSS級の冒険者なんだぞ!」


 男は激昂するが、俺を怖がっているらしく一歩もこちらへ寄ってこない。なんて情けないんだ……。ちなみに目の前にいる俺より弱い自慢してどうするんだ……アホか?


「俺はなぁ、学生時代からモテてきたんだ! なのに、30代になったらモテなくなって……お前みたいなギャルはみんな俺を好きになった! お前だってそうだろう? だから毎日クラブのバーに……」


 なるほど、学生時代は陽キャとしてモテてきたが年を重ねるにつれて女はそんなことで男を判断しなくなる。金がなければ若い女にもモテないし、まして、30代で金髪色黒じゃあな……。

 学生時代にモテていた陽キャはそうでなくなることに耐えられなくなったんだろう。学生時代からずっとモテてこなかった俺からしたらちょっと、ざまぁみろって感じだ。


「クラブのバーテンだってさ、音奏知ってるか?」


 彼女は首を振った。

 この男は勘違いしているが、彼女はクラブで店員に愛想よくしていただけだろう。薄暗い中では顔は見えないだろうし覚えていないだって仕方ないことだ。


「だそうだ。悪いが、うちのペットも傷つけられるし帰ってくれないか。お前が大人しく帰ってくれたらなかったことにしてやるからさ」


 俺がそういうと男は悔しそうに


「くそが!」


 と言いながら踵を返した。情けない奴だ。俺は念の為、男の姿が見えなくなるまで音奏のそばで警戒をする。


「ねぇ、よかったの?」


「何が?」


「タダで返して、だってシバちゃんが」


「あぁ、シバなら大丈夫。俺の命令なしでは人間相手に《《物理的な危害》》を加えない契約になっているだけだ。シバはドラゴンより丈夫だから問題ない」


「そ、そっか。どうせあいつは開示請求されるしね。穏便にすませてくれてありがと」


「いいや、アイツ。死ぬよ」


「えっ?」


「だから、アイツ死ぬ」


 俺は音奏の手を引っ張って、ストーカー男の後をこっそりと追った。


***


「ねえ、なんで死ぬってわかるの? あの人、ここまで単独でたどり着いた猛者だよ?」


「音奏、犬神って知ってるか?」


「シバちゃんのこと? ワンちゃんの神様。モンスターだよね」


「まぁ、ワンちゃんの神様ではあるけど、犬神ってさ大昔の日本では呪術につかわれてたって」


 俺は音奏にスマホで検索するように言った。


「ほんとだ〜、平安時代? 紫式部!」


「そうそう、犬神はわざと犬を可愛がって懐かせる。その後、その犬を首まで土に埋めるんだ」


「えっ」


「で、身動きが取れない犬の鼻先に大好物の餌を置く。犬は好物の匂いを嗅ぎながら食えない日々が続く」


 彼女が「ひどい」と呟いた。


「そんで、犬が餓死する寸前に首を切り落とす。すると、犬の首は餌に食いつくんだ。その首を焼いてそれから人通りが一番多い場所に埋める。そうすると、怨念を強く持った犬神が誕生するってわけだ」


「ひどい……」


「まぁ、シバはモンスターだから実際にそうやって作られたわけじゃないがこういうルーツがあるってこった」


「つまり、それがどうかしたの?」


 音奏がそう言った瞬間、「ぎゃ〜〜〜!!!」と男の悲鳴が響いて俺たちはサッと岩陰に隠れた。


「アイツ、シバのジャーキー蹴散らしたろ」


「うん、あいつ私に襲いかかってきて守ってくれたシバちゃん蹴飛ばして……その拍子にジャーキーが散らばって」


「犬神のルーツなのかは知らないが、シバの食い物の恨みはってか呪いは必ず不幸と死をもたらすんだ」


 そういって俺たちは男の方に視線をやった。男は雑魚モンスター<オニアリ>に囲まれている。

 男は目の当たりを抑えてぎゃあぎゃあと喚きながら剣を振り回している。

  オニアリと言えば、ドラゴン系のダンジョンで一番弱いモンスターで基本的に冒険者の前に出てくることはない。食物連鎖の最下層ってやつだ。


「たとえば、オニアリの酸が《《たまたま》》目に入るとか」


 俺は彼を助けようと弓を構えた。しかし、弦が突然バチンと切れてしまう。


「助けようとしても弓の弦が切れたりとか」


 今度は男が振り回した剣が《《たまたま》》岩に当たって折れ、男の足に突き刺さる。


「い、いだい……たすげて、なんで俺が……こんな雑魚に」


 無様に転がったあと動脈でも切れたのか血が噴き出している。その血にオニアリたちが群がり始め男は体中を掻きむしった。見開いた目はオニアリの酸で真っ赤に染まっている。


「たまたま、蟻に食われる地獄の苦しみを味わった後に……ここのフロアには滅多に出ないはずの<ヤツザキワニ>がやってきて四肢を食いちぎられるとか」


 アリを蹴散らしてやってきたでかいワニが男の腕や足を食いちぎっていく。男はぎゃあぎゃあと喚いていたがしばらくして動かなくなった。再びオニアリが彼に群がり、巣の方へと残骸を運んでいった。

 ざっと15分、多くの不幸と地獄の苦しみが彼を襲った。彼は年間数万人の「ダンジョン内行方不明者」として処理され、誰の記憶からも数年で消えるだろう。


「うっそ……」


「ま、アホなストーカーには相当な結末だな、帰るぞ」


「うん……」


「悪い、嫌なもん見せちゃったな」


「いいの……腕、強く握られて怖くて、でももうストーカーいないんだよね」


 ぎゅっと彼女が手を握ってきたので、俺もそのまま握り返した。


「シバちゃん、すごいんだね」


「そ、だから俺もあいつのメシが一番優先なんだ。親父の代から《《シバにうまいメシを毎日食わせる》》っていう契約でテイムしてるんだから」


「うぅ、怖かったぁ」


「はいはい、帰るぞ〜」


(やべ〜、カッコつけちゃったけど、あんなん見たらチビるくらい怖かった……)




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