4話「お茶と折り紙と」
彼が紙を折っているのを眺めているのは楽しい。様々な色や柄の紙が並んでいるだけでも綺麗だし、彼の手の技によって思わぬ形が出来上がってゆくのも非常に興味深い。つい最近まで馴染みのなかった分野だからこその魅力を感じるのだ。
「今日も細かいですね」
アイスココアを口腔内へ注ぎ、そのほどよい甘みを舌で感じながら意味もなく感想を述べる。
「うん、ハリネズムントって結構難しいやつなんだ」
「レベルが色々あるってことですね?」
「そうそう!」
「へぇー。けどそれを作れるなんてウィージスさんやりますね」
言葉を交わしている間もずっと彼は手を動かしていた。流れるように、さくさくと、紙を曲げたり折ったり伸ばしたりして。その手つきは、まるで紙を操る魔術師であるかのようだ。
「リメリアさんも何か折ってみる?」
ふと、思いついたかのように彼は言ってきた。
「え……いや、私ちょっと、不器用なので……」
「そう? でも簡単なやつならできるんじゃないかな」
「私はこうして見ているだけで満足なんです」
「そっかぁ。でも、そう言ってもらえるのも嬉しいよ。ありがとう」
さりげなく微笑んで、それから彼は小型のポットからカップへと紅茶を注いだ。湯気が立ちのぼり、それと同時に爽やかで心地よい香りが溢れてくる。ふわり、そんな表現が似合いそうな香りだった。
「あ、そうだ、リメリアさんも紅茶飲んでみる?」
「え」
「そういう時はカップもう一つ頼めばいいんだ、前にやったことあるよ」
前に……?
一つの紅茶を二人で、って……誰かと?
「うちの父が紅茶マニアでさ、結構いろんなの飲んでて。僕が違うやつを頼んだら絶対「ちょっとだけ飲ませて」って言ってくるんだ。なんか色々飲みたいみたいで。で、前ここでも頼んでみたことあるんだよ」
そういうことかぁ、ほっこり。
「紅茶が好きだなんて、素敵なお父様ですね」
「え? いやいや! そんなことないよ、普通普通」
「紅茶に限るわけじゃないですけど……お茶ってほっとさせてくれますよね。匂いを嗅いだり、味わったり、それだけで癒されます。いつも凄いなぁって思うんです」
頼まれてもないのに、つい語ってしまって。
「リメリアさんもお茶好きそうだね」
そんなことを言われてしまった。
でも実際お茶は好きだ。
種類が豊富なのも楽しい点である。
「はい! 好きです!」
「家でもよく飲むの?」
「はい、母が淹れてくれますね」
「えー! 良いお母さんだね」
「そうですね、いつもありがとうとは思っています」
ウィージスと喋っているのは楽しい。
話題は大抵特別感なんてないもの。
でもそれでも楽しさは無限大。
共に過ごせる時間、それは何よりも勝る宝物――は言い過ぎにしても、人生においてかなり楽しい部類であることに間違いはない。
オーツレットに振り回されるくらいならこうして喋っている方がずっと幸せ。
「そっかぁ、リメリアさんはお茶が好きなんだ。あ、だからこの店にいたんだ?」
今日彼は何枚の紙を折ったのだろう。既に二十くらいは越えているのではないだろうか。一旦折り終えたものを軽く数えたらそのくらいだった。