3話「新たな始まりへ」
あの後国王から呼び出しを受けた。が、拒否。すると国王自ら家までやって来て、息子の非礼を詫びたうえもう一度やり直してほしいと言ってきた。しかしどうしてもあそこに割って入る気にはなれなくて、だから丁重にお断りした。
だってそうだろう? 謝られたからといってすべてが解決するわけではない。謝れば何でもなかったことになるのなら、罪人なんて生まれないのではないか? そういうものだ。
それに、オーツレットらには正直もう関わりたくないのだ。
オーツレットも、ルビアも、ひっついて私をのけ者にする――そんな人たちと関わるなんて永遠に嫌だ。
もし説得されて戻ったとしても、どうせ、座を貰うだけになるだろうし。きっとまた二人からはあれこれ言われるのだろう。そして私は二人の関係を壊そうとする女みたいな立ち位置になってしまうのだ。
だから絶対に頷きたくなかった。
国王が真剣に謝りお願いしてくれていることは分かる。
でもだからといって言いなりにはなれない。
生きているのは王族だけではなく、私にだって心というものがあるのだ。
「申し訳ありませんが、私はもう関わる気はありませんので」
そう言って、私は国王に帰ってもらった。
「ふぅー、疲れたわねー」
よりによってまた父のいない日だった。
だから母だけに同席してもらうこととなってしまった。
負担をかけて申し訳ない……。
「ごめん母さん」
「え? いやそういう意味じゃないわよ」
しかし母はそれほど気にしていないようで、迷惑を被っているとも思っていないようであった。
母はいつも寄り添ってくれる良い人だ。
「でも……良かった、ちゃんと話を聞いて帰ってくれて」
「陛下は悪そうではないのよねー」
「ええ、けど……すべての頼みに応えられるわけじゃないわ」
「分かる分かる。だってそもそも、婚約を壊したくないならややこしいことにならないよう父としてちゃんと見張ってなさいよーって話だものね」
背伸びをしてから、母は水道がある方へと歩き出す。
「あ、そうだ。お茶淹れるわ、何の味がいいとかある?」
「……ええと」
「何でもいいもアリよ」
「じゃああの前飲んだはちみつの香りのやつ!」
「オッケー。じゃ、待っててね」
◆
あれから数ヶ月が経った。
一応あれ以降はややこしい話には巻き込まれていない。国王から何か言われるとかも特にはなく、父母と暮らせるという平穏な日々が続いている。
だが、そんな暮らしの中でも、ちょっとした変化というのは自然と発生してくるものだ。
というのも、私には最近親しくしている男性がいる。
「また会えて嬉しいよ!」
「こちらこそ」
暗めの黄緑の髪が特徴的な彼の名はウィージス。
彼は大抵箱を持ってきている。
恐らくその中に道具が入っているのだ、彼が取り組んでいることに使うための道具が。
今日は約束して喫茶店で喋ることにしていたのだけれど、彼と初めて喋ったのもここ喫茶店だった。
しかしその時は約束して会ったわけではない。
彼が一人で店の一番奥の席に座って黙々と紙を折っていて、どうやら何かを作っているようで、それに興味を持った私が声をかけてみた――それがすべての始まりだった。
何でも、彼は折り紙というものが得意らしい。
「今日は何折りますか?」
「ハリネズムント」
「えっ、何ですかそれ」
「僕の故郷で神の遣いとされている魔物だよ」
「知らなかったです……」
ウィージスが苦笑しつつ「聞いたこともない?」と尋ねてきたので、正直に「はい、聞いたことがないです」と返した。嘘をついても意味がないと思ったからだ。とはいえ、がっかりされたり苛立たれたりするかと不安もあったのだけれど。ウィージスはさらりと「そっかぁ、確かにこの国じゃあまり知られてないよね」と言って笑うだけだった。
着席して第一に注文するのは、私はアイスココアで彼はホットの紅茶。
これはもう定番となっている。
「よし! やろっと」
「その箱って……やっぱり紙ですか?」
「そうだね。折り紙用の」
「おお……! 凄い」
「今日は大きい方を持ってきたんだ、前のは小さい方」
「色々あるんですね」