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彼が彼女になる前の朝

通学風景がメインの作品です。よろしくお願いします。

「おはよう」

「おはよ、陸」


 朝晩と昼間の寒暖差が大きくなってきた11月の朝。

 俺、柄本(えもと) (りく)は通学路の途中にある家の前で待っていた親友の桜川(さくらがわ) 海翔(かいと)と挨拶をかわした。


「もう朝はめっきり寒くなったな」

「陸ったら、最近何日かに一回はそう言ってるけど」

「そうだっけか? 寒いのが苦手だから、つい文句を言いたくなるんだろうな」


 最近衣替えを済ませた詰め襟の制服を着た俺たちは学校に向かうべく歩き始めた。


「ねぇ陸、昨日更新されたソシャゲのストーリー読んだ?」

「途中まで読んだけど、ボスが倒せなくてそっから先が読めてない」

「え~、その話をしたくてワクワクしてたのにまだ読めてないとは思わなかったよ」


 いつも通り、他愛ない話に花を咲かせる。

 海翔とは小学生からの仲だ。最近気付いたのだが、小学校から高校まで仲良く出来る友達というのはなかなか珍しい。単純に進学先が別れてそのまま疎遠になってしまったり、大きくなるに連れて趣味趣向が合わなくなってしまったり。

 そういう意味では、この先も海翔とは引き続き円満な関係を築いていきたい。

 と思っていると肩を叩かれたので、そっちを見るとほぼ同じ高さにある海翔の顔が映る。


「陸、今何か考えてた?」

「あぁ、悪いな。いや……俺たちもでかくなったよなぁ、って」


 海翔に言うには少し恥ずかしい事を考えていたので、誤魔化すためについ考えていなかった事を言ってしまった。


「どうしたの急に」


 一度誤魔化すとまた誤魔化して取り繕わないといけない。どうしようかと思った矢先、ちょうどよく自動販売機があったので指を差す。


「俺たちが会った頃は自販機の一番上のボタンにギリギリ届くくらいだったのに、今じゃ余裕で届くようになったな、と思って」

「そんな事考えてたの?」

「まぁ」


 なんとか誤魔化せたようだ。


「……知り合った時はボクの方が大きかったんだけどね」

「そうだっけか?」

「そうだよ、ちょっとだけ勝ってたもん」

「まぁ、今は同じくらいで落ち着いたけどな」


 そう言うと、海翔はうつ向いて肩を震えさせてボソッと呟く。


「……じゃない……」

「え?」

「同じじゃないし。陸の方が2センチ高い」

「えぇ……」


 確かに身体測定の時にそんな話をしたけど、根に持ってたのか……。

 いや、海翔は負けず嫌いだから、負けたのが悔しいのかもしれないな。


「その気にしてないって態度……勝者の余裕ってやつかなぁ」

「いや……最後に測った時からもう半年くらい経つしどうなってるか」

「来年は絶対勝つからね」


 続けて「牛乳飲まきゃ」と呟く海翔。


「飲み過ぎて腹壊すなよ、あと牛乳だけじゃなくてバランス良く食べるのも重要だぞ」

「母親みたいな事言うなし。後、やっぱり勝者の余裕感が出ててちょっとむかつく」


◆ ◆ ◆ ◆


 高校までは電車を使う。

 家から駅までが10分、そこから電車で15分、駅から高校までまた10分。

 中学までは地元で歩きか自転車だったから、最初は通学に電車を使うのに大人になったような気がして興奮してたけど、慣れてくるとただ面倒なだけであった。電車が遅れるのを考慮して早めに家を出たりとか。

 幸いにも混む時間帯を回避出来ているのか、満員電車というのはまだ経験した事はない。


 高校の最寄り駅で電車を降りた俺たちは、引き続きゲームとか今日の授業の話をしながら歩を進めていると、視界に見知った後ろ姿を見つけた。


「お。あの後ろ姿は中原さんじゃないか?」


 中原(なかはら) 優奈(ゆな)さん。俺と海翔のクラスメイトで、明るい性格と小動物のような愛らしさを持ち、そのうえ誰とでも分け隔てなく接するという創作物にしかいないような超のつくコミュ力の持ち主でクラスの人気者である。

 そして――


「多分そうだろうね。で、なんでそれをわざわざボクに言うのかな?」

「いや、だって海翔、中原さんの事好きだろ?」


 膝上丈でヒラヒラと舞う中原さんのスカートを目線で追いながら海翔に問いかける。


「違うし」

「そこで否定されてもな。普段から視線で追っていたり本人を目の前にした時の態度で丸分かりなんだけど」


 特に、中原さんから話しかけられた時の海翔は緊張してしまうのかガチガチになる。見てて面白い、とはさすがに本人には言えない。


「陸こそ今えっちな視線を送ってたような気がしたけど、中原さんに興味あるんじゃないの」

「俺だって健全な男子高校生だからな。膝上で揺れるスカートの中には興味あるさ」

「うわー、サイテーなこと言ってますよこいつ……」

「相手がお前じゃなきゃ言えないってこんなこと……。だから、他の人には間違っても言うなよ?」


 呆れたようにはいはい、と返事した海翔だったが、続けて質問を飛ばして来た。


「で、結局陸は中原さんのこと好きなの?」


 こういう話はあまり好きじゃないんだけどな。心の中でため息をつく。


「クラスメイトとしては好きだな、中原さんがいる事でクラスの雰囲気が明るくなるし。ただ、男女としての仲になりたいかと言われたらノーかな」

「なんで? 中原さんかわいいと思うけど」

「確かにかわいいとは思うのは否定しないけど、俺としてはもう少し落ち着いた感じの人の方がいい」


 海翔はどこか安心したように長い息を吐いた。

 ……それで好きだってことを隠してるつもりなんだろうか。


「そういえば、陸からそういう話聞いた覚えがないけど、好きな人とかいないの?」

「俺か? うーん、別にそういうのはまだいいかなって」

「陸って本当に高校生? 枯れちゃってない?」

「こうやって海翔と話してるだけで満足してるし、愛だの恋だのに興味が出ないんだよ」

「……今の発言はちょっとないわぁ」


 思っている事を話しただけでドン引きされてしまった。どうして。


「いや、お前だけじゃなくてクラスの奴らとだからな。その中でもお前が一番だってだけであって」

「陸、勘違いされるからボク以外にはその話しない方がいいよ?」


 頭に手をついてため息を吐く海翔。そんなおかしい事言ったか、俺?


「ねぇ、陸。もうそろそろ今年も終わるし、来年はボクたちも高校2年生だよ?」

「そうだな」

「3年生になったら受験がどうとかで遊びにくい雰囲気になっちゃうでしょ? その前にさ、制服デートとか高校生ならでは、みたいなことしておきたくない?」


 何かのスイッチが入ったかのように力説する海翔。ともあれ、言ってることは大体正しい気がする。


「その気持ちはわかる。なるほど、海翔は中原さんと制服デートしたいってことか」

「そ……茶化さないでよ」


 そうだけどって言おうとしたのであれば、全く隠しきれてないけどそれでいいのか、我が親友よ。

 というか、別に取るつもりがあるわけでもないから素直に言ってくれてもいいんだけどな。海翔には海翔の考えがあるだろうし、いくら親友であっても言いたくないことだってある。


「確かに現役で制服デートっていうのは惹かれるわ。機会があったらやってみたいかもな」

「機会があったら……って、作ろうとしないとそういう機会はできないよ?」

「でも、積極的にやろうとは思わないし」


 そんな風に言う俺を見て、海翔は良い事を思い付いたという風に「じゃあ、勝負しようよ」と持ちかけてきた。


「勝負?」

「そう。どっちが先に彼女作れるかって勝負」

「そんなの好きな人がいる海翔の方が有利じゃん」

「だから好きな人いないし。そもそも、仮にいたとしても付き合えるかが分からないじゃん」

「それもそうか……まぁ、一応受けてやるよ。だからって好きな人を探すとかそういうのはしないからな」


 そうして、戦いの火蓋は切られたが、お互いに何の進展がないまま1ヶ月、2ヶ月と時間が過ぎていき、俺がこの約束を忘れた頃、俺と海翔の間に大きな出来事が起こるのであった。

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