「第3回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品シリーズ
鏡に映るは過ぎし日の記憶
目が覚めると俺は鏡の中にいた。
どうやら夢の中らしい。
目の前には見覚えのあり過ぎる一人の若者。
間違えようもない。十年前の俺だ。
この頃俺は、小説投稿サイトに作品を投稿しまくっていた。
ロクに読まれもしないのに、よくまああれだけ書いたものだ。
「くそっ、何で読まれないんだよ!! 絶対に俺の小説の方が面白いだろ」
布団に八つ当たりする十年前の自分の姿。恥ずかしくて見ていられない。
今ならわかる。なぜ読まれないのか。だがこのときの俺は……。
手元を見れば、スマホがある。当時使っていた懐かしい機種だ。
もしかして……?
画面に映る懐かしい小説投稿サイトをタップする。
あった……俺の小説。
見事なまでに誰にも読まれていなかった。
十年ぶりに読み返して感想を書く。
自分自身に感想を送るなんて変な感じだけどな。
頑張れよ、俺。ここで筆を折ったら後悔するぞ。
ユーザー名はどうしようか。
適当に助手の名前を借りておこう。
感想を送り反映されたことを確認する。
あれ? もう一件感想が付いている。
しかもまさかのユーザー名丸被り!?
これじゃあ、同じ奴が連投したみたいじゃないか。
読んでみれば、俺が書いた感想より、
よほど良いことが簡潔にまとめられていて驚いた。
あ……この感想、憶えている。いや、思い出した。
そうだ、初めてもらった感想なのに何で忘れていたのだろう。
ははは、今読むと本当に良いこと書いてあるなあ……。
当時の俺は、素直になれず悔しくて、怒った記憶があるけど、
結局、その感想のおかげで今の俺があるんだよな。
……ちょっと待て、俺が書いた方の感想も思い出したぞ。
知った風な事書きやがってって腹が立ったんだよな。
あれ……? てことは、あの感想は未来の俺が書いたってこと?
「……先生、鏡の前で何にやにやしているんですか?」
助手に声をかけられ我に返る。
「なあ、ジョッシュ。お前も小説書いていたんだよな?」
「はい、十年前に小説投稿サイトで素晴らしい作品を読んで、あまりの衝撃に長文で感想まで送ってしまったんですよね。今思えばそれが小説を書こうと思ったきっかけですね」
「その小説のタイトルは?」
「白昼夢」
「なあジョッシュ」
「何でしょう?」
「ステーキと特上寿司どっちが良い?」
「どうしたんですか、急に? そうですね、両方ですかね!!」
「ははは、両方か。ジョッシュらしいな。よし、両方頼もう」
「やったああ!! ケーキも良いですか?」
「もちろんだ」
ありがとなジョッシュ。