08 メンバー募集
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【オープニングメンバー大募集!!】
紫色ダンジョン探索を単独達成した
パープルの到達者が、パーティーの
新規メンバーを募集します。
リーダーのラインゼルさん(16)は
勇者パーティーの出身で若い頃から
修業を積んできました。彼は結界師
でありながらも、魔王討伐にかける
想いが誰より熱く、勇者パーティー
で学んだパーティー運営を活かして、
やりがいがある冒険を提供します。
■即戦力歓迎
■アットホームなパーティー
■やりがいがある冒険
■将来は独立も可能
■実力主義/成果主義
ラインゼルさんのコメント:
『メンバーは現在2名、まだ旗揚げ
したばかりの冒険者パーティーで、
リーダーの僕は、非戦闘系の結界師
です。ただ先輩メンバーとなるサラ
さんが『パープルの殺戮者』の称号
を所有しており、攻守ともに優れた
パーティーだと自負しています。
やればデキる!! 不可能はない!!
報酬は出来高制ですが、本気で魔王
討伐を目指すなら、ぜひパーティー
に応募してください』
問合せ先:ハミル
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勇者アルフォートのパーティーを辞めた白魔道士リアンナは、酒場に貼り出されているメンバー募集を見ていたところ、ラインゼルのコメントを読んで『本気で魔王討伐を目指すなら』の一節が目に止まった。
リアンナは、冒険者パーティーを立ち上げたばかりのラインゼルが、勇者パーティー出身の結界師だったので、アルフォートたちの言っていた自分の前任者だと直感する。
ラインゼルがリアンナの前任者ならば、彼はアルフォートたちと藍色ダンジョン最深部まで、結界を張ったまま到達できる高位の術者であり、さらに単独で紫色ダンジョンに挑んだなら、メンバー募集の謳い文句『魔王討伐を目指す』に偽りがないのだろう。
「モンスターを追い払う結界師がリーダーの冒険者パーティー? リーダーがモンスターを追い払っているのに、メンバーはどうやって経験値を稼ぐんだ」
リアンナの背後からメンバー募集を眺めていた男の冒険者は、顎の無精髭を撫でながら訝しげに首を傾げている。
「でも『パープルの到達者』がリーダーなら、魔王の棲む暗黒魔界まであと一歩です。本気で魔王討伐を目指す実力者なら、魅力的なパーティーではありませんか?」
振り返ったリアンナが、メンバー募集に難癖をつけた男に問い掛けた。
「魔法使いのお嬢さん、メンバー募集の謳い文句や待遇をよく読んでみなよ。やりがいがある冒険、アットホームなパーティーは、どこのメンバー募集でも定型句だし、成果主義なら、モンスターを倒さないと報酬がないって意味だぜ」
「先輩メンバーは、紫色ダンジョン内でモンスターを百体以上倒したから『パープルの殺戮者』の称号を得たのです。このパーティーの戦闘職には、戦闘の機会があるという証拠ではありませんか」
「魔王討伐なんて口にする冒険者パーティーは、死に急ぐ変わり者の集まりか、天賦の才に恵まれた勇者パーティーくらいだ」
「私は前者かもしれませんね」
「ちッ、せっかく忠告してやったのに、死にたがりは勝手にしろ」
男は舌打ちすると、反論してきたリアンナから離れて、昼間から酒を飲んでいる仲間の席に戻った。
リアンナは『決めました』と、ラインゼルがメンバー募集の問合せ先にしているハミルを呼び出して、彼女に面接の手配を頼んだ。
◇◆◇
サラは赫灼たるツインテールを左右に揺らしながら、ラインゼルに買わせた防具を行き交う人々に、見せびらかすように歩いている。
ビキニのように肌が露出しているサラの真紅の軽鎧は、夜の冒険が得意な娼婦紛いの女冒険者が御用達の鍛冶職人エロジィが、観賞用として作った見てくれだけの防具だった。
「ちゃんとした防具を買い揃えようと言ったのに、実用性のない玩具みたいな鎧を選ぶとは思わなかったです」
「攻撃なんて全て躱せば良いのだから、鎧は重いより軽い方が良いのだぞ」
「軽さに拘るなら、鎧を着ない方が良いです」
ラインゼルは、局部のみ覆っているだけの真紅の軽鎧を見て、防具として機能しないのであれば、水着を買ってやれば安上がりだったと後悔する。
そもそも申し訳程度に隠すなら、大型龍のサラは生まれてからずっと全裸だったのだから、いっそ服など着ないでも良いのではないだろうかとさえ思った。
「いやいや、あのドワーフの鍛冶職屋は、一瞬にしてカパカパだった胸部を打ち直して、腰回りも詰めてくれたのだ。私が纏う防具を任せるのに相応しい、きっと名のある職人に違いないぞ」
サラが、鍛冶職屋エロジィの店頭に飾られていた軽鎧を気に入って試着したところ、幼児体型の彼女では、夜の女冒険者用の軽鎧とサイズが合わず、試着室からパンツが膝まで落ちて、胸部アーマーが斜めにずり落ちた状態で出てきた。
ラインゼルたちが購入を諦めようとしたとき、試着の様子を見ていたエロジィが『待っておれ!』と、その場でサイズ調整してくれたのである。
「エロジィさんは、サラの採寸時の目がやらしかったけど、槌を打ち下ろす姿は真剣でしたね」
「今後も贔屓にしてやろう」
サラが満足しているなら、彼女の部屋から持ち帰った金塊を換金した棒貨で買った軽鎧であり、ラインゼルは文句を言わなかったものの、裸同然の少女を連れ回しているのは世間体が悪い。
だからラインゼルは、メンバー募集を貼り出した酒場に戻る前に、洋品店に立寄って軽鎧に合わせた真紅のローブマントを購入して、サラに着せてやった。
「ラインゼルさん、メンバーの応募がありましたよ」
「本当ですか!?」
「はい。しかも、ラインゼルさんが希望していた魔法使いです」
呪術系のラインゼルは、魔術系の落とし穴など魔法系のトラップを見抜くことも、魔法により呪われたアイテムを浄化することもできず、紫色ダンジョンでは何度も飛ばされているし、呪われるのが怖くてアイテムを放置してきた。
それにサラは身体能力が高く近接戦闘に長けていれば、火炎を吐くなど遠距離攻撃にも対応できるものの、やはり魔術系のトラップを回避できないし、呪いも浄化できない。
ラインゼルは、ハミルに魔法使い、できれば治癒や呪いの浄化ができる白魔道士を希望していた。
「応募してきた魔法使いは?」
「面接の日程を調整しようと思ったのですが、すぐにでもラインゼルさんに会いたいと言うので、うちの個室に案内しています」
「ハミルさん、ありがとうございます!」
ラインゼルが応募者を待たせている個室に向かうと、サラはカウンターに座って、行き掛けに買ってもらったシュークリームの箱を開けている。
「サラさんは、甘いものしか食べませんよね?」
ハミルが、サラに聞くと−−
「貴様は食わないから、そう身構えるな。獣人族が便宜を図ってくれたおかげで、私は人間界で暮らしていけるのだからな」
「そういう意味ではなくて、サラさんは食事が必要ないのでしょうか?」
「ああ、菓子だって本来は食べる必要がないのだぞ。しかし私は、なせか甘味の誘惑に勝てないのだ。私の夢は、クッキーの櫛で髪をといて、カスタードクリームで歯磨きして、シュークリームの枕に横になり、ミルフィーユの布団をかけて眠ることだ」
「か、かわいい」
ハミルは当初、サラの正体が炎龍と解って恐怖したが、ラインゼルからもらった菓子を頬張っている彼女を見て、可愛らしいと思えるほどに親しくなっていた。
明日の更新はありません。
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