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ドラゴンマスターの結界師  作者: 幸一
第三章 サンバード家の陰謀
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20 白亜の豪邸

 冒険者は、町を渡り歩いてクエストを受注しており、サンバード家に雇われた冒険者のように、町に留まってクエストを受注する冒険者でなければ、市街地の安宿や酒場の管理する賃貸長屋に暮らしている。

 しかしラインゼルは町に戻ると、サンバード家からリリの所在を隠すために、当該宅から離れた町外れの一軒家を購入した。


「ラインゼル様は、即金で石造りの屋敷を購入するなんて、じつはお金持ちだったのですね」


 リアンナは胸の前で手を合わせると、ラインゼルの買った庭付き三階建ての(はく)()の豪邸を見上げている。


「この町には、暗黒魔界に通じる紫色(ししょく)ダンジョンの入口があるし、長期滞在するなら宿や長屋の狭い部屋で寝泊りするより、一軒家で暮らした方が良い思ったのです」

「でも家は、借りても良かったのでしょう?」


「人目を避けて住める郊外の家は、この売りに出された屋敷しかなかったのです。サラのダンジョンから持ち帰った()()()()()()()()()ので、思い切って購入したのです」


 サラは『うん?』と、顎に拳を当てて首を傾げた。


「この屋敷は、私の紫色迷宮から盗掘した財宝で買ったなら、ラインゼルの屋敷ではなく、私の屋敷ではないか」

「いいえ。サラの財宝は、もともとモンスターに強奪された人族の財産ですし、ダンジョン内から持ち帰った戦利品は、役場に申告して税金等を差し引かれた後、換金されて冒険者に支払われます」


「その理屈なら、私も冒険者だから分け前をもらえるはずだ」

「サラは当時、僕に保護された大型龍(ドラゴン)だったし、酒場のクエストを単独(ソロ)で受注したのは僕なのです」


「納得いかぬ説明だ」

「メンバーから家賃を取るつもりもないし、サラの着ている装備や、いつも食べているお菓子も、換金した戦利品で支払っているので、それで納得してください」


「それなら良いが」

「配達クエストの報酬は、きっちり三等分して支払いますから、サラは部屋割りが済んだら、リアンナさんとシュークリームでも買ってくると良いです」


「シュークリーム〜♪」


 配達クエストの積荷だったリリは、ラインゼルのパーティーが連れ歩いているだけで、冒険者でもメンバーでもないので報酬が出ない。


「リリも冒険者になって、ご主人様の仕事を手伝いたいの」

「この町は、サンバード家と繋がりのある住民が多いので、リリには当面、屋敷の管理を任せたいのです。誰かが留守を守ってくれなければ、僕は安心して冒険できないのです」


「ご主人様、そういうことなら解りましたわ。屋敷のことは、リリにお任せください!」

「頼んだよ」


 ラインゼルが分不相応な広い屋敷を購入した理由には、町中で働けないリリに仕事を与えて、人間界での居場所を作りたいと考えたからだ。

 それにラインゼルは、サンバード家に捕らわれたリリの姉妹が見つかったとき、面倒を見ると約束していれば、大勢で暮らす広い屋敷が必要になる。

 先々の出費を考えると、紫色ダンジョンに残してきたサラの財宝を回収したいところだが、酒場の獣人族が盗掘クエストを発注したので、今さら感があった。


「すごいっ、玄関ホールは三階まで吹抜けで、カーブ階段が左右二本もあるなんて、これは、まるで貴族様の邸宅ではないでしょうか!」


 屋敷に入ったリアンナはホール階段で二階に上がると、踊り場に面したドアを開けながら『すごい!』を連呼している。


「この屋敷は、町を統治していた子爵の公邸の払下げだったのです」

「本物の貴族様が暮らしていたなら、高かったのではないでしょうか!?」


 踊り場から身を乗り出したリアンナは、玄関ホールから見上げているラインゼルに聞いた。


「市街地から遠く、モンスターの襲撃から町を守る結界線が近いし、地の利が悪いので相場の半値で売りに出されていたのですが、なかなか買い手が見つからなかったようです。この手の物件は、結界師を雇わないと防犯面で危険ですからね」


 貴族の屋敷は、景観の良い郊外に建てられることが多く、結界札を数珠繋ぎして町を守る結界線だが、内側にダンジョン入口が開いたり、物理的な衝撃で結界札が破壊されると、人里離れた郊外の屋敷が真っ先に狙われる。

 だから郊外にある貴族の屋敷には、必ず一人以上の結界師を防犯上の理由で雇う必要があった。


「結界師のラインゼル様には、お買い得な物件でしょうね」

「それに屋敷の管理も、リリを当て込んでいたので購入を決めたのです」


 リアンナは白い法衣の裾を手で摘み上げながら、カーブ階段を下りてきた。


「ラインゼル様、どの部屋も家具がそのまま残されているし、今日からでも問題なく暮らせるでしょう」

「部屋割りは、みんなに任せるけど、僕とリアンナさんの部屋には、結界札を貼るので決めたら教えてください」


「ご主人様は、リリが寝込みを襲うと考えているの?」

「そんなことはありませんが、サンバード家に監禁された淫魔が他にいれば、念の為に結界を張るだけです。淫夢による攻撃は、結界領域を展開しても防げますが、みんなと家にいるときくらいは、僕だって寛ぎたいのです」


「なるほど、承知しましたわ」


 リリは納得した様子だが、なぜかサラの態度が不満気である。


「サラは、何か不満でもあるのですか?」

「不満はないが、問題がある」


「僕とリアンナさんの部屋に、結界を張ることの何が問題なのですか?」

「貴様は、私とリリをリアンナの部屋に入れないようにして、いったい何を企んでいるのだ」


 ……。


「我らは、貴様に夜這いなどしないが、首枷で自由を奪っている私やリリ、部屋を結界札で人払いされたリアンナを貴様が夜這いしない保証はない! 断じてないのだ!」


 ……。


「ラインゼル様は、私に夜這いするために、サラたちを私の部屋に入れなくするつもりなのでしょうか? ラインゼル様は、私と結婚してくださるのでしょうか? 身体だけの関係を求めているのでしたら……、貴方を殺して私も死にます」


 ……。


「リリは、ご主人様の命令であれば、どんな命令にも従いますわ」


 ……。


 サラは人化しているが大型龍で、リリは男を誘惑して生気を喰らうモンスターで、リアンナは発想が重い。

 しかしラインゼルが本音を口にすれば、彼女たちを傷付ける気がしたので−−。


「僕には、ちゃんと恋人がいるので、みんなを襲わないから安心してください」

「「「えーッ!」」」


「貴様に恋人がいるなんて聞いてないぞ!?」

「リリも初耳です!?」


「みんなが、知らないのも無理はないです。彼女と僕は、遠距離恋愛だからね」


 もちろん、女の子とデートすら経験がないラインゼルの作り話であり、問い詰められてしどろもどろに言い訳すると、心を見透かした顔のリアンナが指差してきた。


「ラインゼル様、彼女さんがいるなんて嘘でしょう」

「そ、そんなことありませんよっ」


「そう言えば、ラインゼルはけっこう嘘をつくぞ。私は、やつに騙されて首枷を付けさせられたのだ」

「サラまで、僕を疑うのか?」


「では、彼女さんの名前を聞かせてくれるでしょうか。彼女さんが実在するなら、名前くらい聞かせられるでしょう?」


 リアンナに問い詰められたラインゼルは、その場を逃れるために適当な名前を呼んだ。


「ル……、ルルカさんです! 僕の恋人は、前のパーティーで一緒だったルルカさんです!」


 皆の知っているハミルの名前を出さなかったのは、賢明な判断だったが、リアンナは勇者パーティーに僅かだが在席していた。


「え、あ、あの見せたがりの黒魔道士でしょうか?」

「もうそういうことで勘弁してください!」


 ◇◆◇


「はくしょんッ!」


 黒魔道士ルルカは同時刻、勇者アルフォートと盗掘クエストトレジャーハンティングで紫色ダンジョンの最深部を目指していた。


「何処かで、あたしの噂しているのかしら♪」

「いいや、くしゃみが出たのは、ルルカが()()()()()()()()身体を冷やすからだ」


 アルフォートは、くしゃみした下着姿のルルカに言った。

 

「こんなに身体が火照っているのに?」

「ルルカの魔法は、ダンジョン内で焚き火の着火するしか役に立たないし、欲求不満で発熱するなら、無理について来なくて良かったんだ」


「でもアルフォート様、一人より二人の方がいっぱい戦利品を運べるわ♪」

「ラインゼルくんがいれば、もっと運べるというのに、本当に役立たずの結界師だぜ」


 アルフォートとルルカは、紫色ダンジョンの主である炎龍を捕獲した冒険者が、ラインゼルだと知らなかった。


 ◇◆◇


 リアンナは、ルルカがラインゼルの恋人だったと聞かされて、しばらく呆然としていたものの、部屋割りを決めた皆が荷物を自室に運び入れて玄関ホールに戻ったとき、我に返り大きく深呼吸した。


「ぷはぁ〜。ラインゼル様は、即金で石造りの屋敷を購入するなんて、じつはお金持ちだったのですね」


 リアンナは胸の前で手を合わせると、ホール階段を下りてくるラインゼルを見上げている。


「この町には、暗黒魔界に通じるダンジョンもあるし、長期滞在するなら一軒家で暮らした方が良い思ったのです」

「でも家は、借りても良かったのでしょう?」


「−−って、この話題は、先ほどしましたよ」

「え、何のことでしょう? そう言えば、部屋割りは決まったのでしょうか?」


「僕は階段上がって二階の左側、女性陣は右側の手前からサラ、リリ、リアンナさんです。荷物を部屋に置いたら、僕とリリが邸内を掃除するので、リアンナさんは、サラと市街地で買出ししてください」

「解りました」


 リアンナは自分に都合の悪い話を聞くと、頭の片隅に追いやって聞かなかったことにするらしい。

 ラインゼルたちは、この白亜の豪邸で生活しながら、サンバード家の調査クエストを開始するのだが、まさか人間界を揺るがす大騒動になるとは、このとき誰も思わなかったのである。

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