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ドラゴンマスターの結界師  作者: 幸一
第三章 サンバード家の陰謀
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19 新世界構想

 サンバード家の地下室には、結界の張られた牢屋が並んでおり、お抱え冒険者がダンジョンやフィールドで拉致してきた魔族の血統にある魔族の亜種モンスターが監禁されていた。


挿絵(By みてみん)

「お前の魂は死んでいる」


 死霊使い(ネクロマンサー)グァラは、地下牢に閉じ込められている魔族とゴブリンの交配で誕生した小鬼姫(こきひ)の魂が、色褪せていく様を確認している。

 若草色の肌をした小鬼姫は、十代の少女のような容姿だが、一枚布で隠しただけの身体は、鍛え抜かれた成人男性と見違うほど筋肉質だった。


「くるるる……」


 小鬼姫は力無く喉を鳴らすのだが、(あざけ)るように見下したグァラを威嚇する気力が尽きており、むしろ母親に何かをねだる子猫のようである。


「グァラ様、こちらにおいででしたか」


 黒装束の女は、サンバード家に雇われた冒険者シィシア、彼女は、後手を組んで投獄されている小鬼姫を見ていたグァラに声を掛ける。


「ネスキス卿に献上した淫魔が、屋敷に潜り込ませた結界師との接触前に、彼の雇った別の結界師に連れ去られました」

「ネスキス卿に、()()()()が露見したのか」


「いいえ。屋敷の結界師が、サンバード家が送り込んだ間者(スパイ)だと気付かれていない様子です。淫魔を移送した冒険者パーティーも、邸内に間者がいると疑っていなかったとのことです」


 サンバード家は、淫魔のリリだけではなく、彼女の手綱を握る結界師もネスキス卿の屋敷に送り込んでいた。

 死霊使いグァラは、屋敷に潜り込ませた結界師に淫魔の呪詛を用いされて、ネスキス卿を思惑通りに動く操り人形にするつもりだった。


「ネスキス卿は魔界の女好きで、口にするのも穢らわしい趣味があり、淫魔を送れば喜んで受取ると思ったが」

「間者からの報告では、ネスキス卿が宅配クエストを受注した冒険者に、何かしらの()()()()()()()()そうです。もしかすると魔界の連中に毒された彼は、そもそもサンバード家から献上される淫魔を解放するつもりだったのではありませんか?」


「罪を犯した淫魔だと伝えたのに、モンスターに情けをかけて解放するとは愚かな男だ。しかしネスキス卿が当初から、淫魔を逃がすことを想定していたなら、サンバード家の結界師に届けさせず、酒場に宅配クエストを依頼したのが裏目に出たな」

「サンバードの身内が配達すれば、ネスキス卿がサンバード家から淫魔を受け取った履歴が残りません。グァラ様の計画が始動したとき、酒場を経由しておけば、ネスキス卿と獣人族の離間工作に利用できます」


 まさかネスキス卿が事後、密室談義でラインゼルを雇っていたように見せ掛けたとは、潜入している結界師が知らなかったので、グァラとシィシアは、小賢しい貴族と酒場の獣人族が結託して、サンバード家が献上した淫魔リリを逃したと考えた。


「淫魔は、呪詛で人心を掌握する希少なモンスターだから、一匹でも無駄にしたくなかったが、計画が露見しなかったのが不幸中の幸いだな」

「ネスキス卿のような魔界の住人との宥和政策を訴える人族は、()()()()()()()()()()に必要ありません。懐柔できないのであれば、粛清した方が良いと思います」


「シィシア、ネスキス卿は高位にある人族だ。軽々しく粛清などと、口にするものではない」

「も、申し訳ありません!」


「魔王が、魔界の高位にある魔族の信任を得たように、人間界の王も、貴族たちの信任を得なければならない」

「はい」


 グァラは、地下牢を監理していた結界師に目配せすると、結界札の牢屋から小鬼姫を出すように言った。

 小鬼姫が首枷をしていれば、獄卒の命令に逆らえば苦痛を与えることも殺すこともできるが、グァラは、おずおずと牢屋から出てきた小鬼姫の首枷を外している。


「くるるる……」

「俺に平伏せ、下賤の輩」


 グァラが命令すると、小鬼姫は硬く冷たい石の床に膝を付いて、額を擦るように深々と頭を下げて土下座した。

 死霊使いの呪詛は、魂の抜けた死人を操るが、生きた人間を意のままに操ることができない。

 しかし結界師に長期間、投獄されて拷問を繰り返された小鬼姫の魂は、グァラの呪詛を受け入れるのに十分なほど死んでいる。


「お前たち、よく見ておけ。俺は、ついに魂を殺した相手の精神支配ができた。それも魔王には、精神支配が不可能な魔族の血統を継いだモンスターだ」

「グァラ様、おめでとうございます!」


「魔王にできて、俺にできないことは何もない」

「そのとおりです」


「非道を貫く魔王に対抗するには、人間界にも真の王が必要だ」


 グァラが小鬼姫の魂に命令すると、彼女は立ち上がり、シィシアの方を向いた。


「シィシア、小鬼姫に服を着せてやれ。俺のパーティーメンバーが、全裸のゴブリンもどきでは見栄えがしない」

「解りました」


「俺の呪詛で、ここにいる魔族もどきを従えれば、魔王に怯えて宥和政策を唱える腑抜けた連中も目を覚ます。いいや、魔王だって俺に平伏す」


 グァラは小鬼姫にシィシアの指示に従うように伝えると、多くの生気を失った魔族の亜種モンスターが監禁されている地下牢を後にした。

読んでいただき有難うございます!

作品の続きが気になる方は、ぜひブクマと評価をよろしくお願いいたします。


私が泣いて喜びますm(_ _)m

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