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ドラゴンマスターの結界師  作者: 幸一
第三章 サンバード家の陰謀
18/27

17 死霊使い

 酒場の獣人族は、冒険者の名簿(リスト)やダンジョンの構造図(マップ)などを管理しており、依頼者が持ち込む案件に適したクエストを作成して、店内の掲示板に貼り出したり、冒険者に直接発注したりする。

 酒場に依頼を持ち込む依頼者は様々いるが、ダンジョン探索に限れば、ほとんどが政府か町の統治者であり、個人からの依頼は少ない。

 なぜならダンジョン探索の主な目的は、最深部までの構造図の作成とモンスターの遭遇情報であり、未開のダンジョン探索を依頼すれば、構造図の買取り費用がかさんで、想定外の報酬を支払う場合があるからだ。


「町の近くに開いた紫色(ししょく)ダンジョンの構造図が更新されたと聞いたので、最新版のガイドブックを購入したい」


 酒場では、ラインゼルから買取った紫色ダンジョンの構造図を図版した『ガイドブック』を委託販売しており、買い求めにきたのは、サンバード家に雇われている死霊使い(ネクロマンサー)グァラである。

 つまり個人でダンジョン探索を依頼するより、クエストを依頼した政府や町の統治者がクエスト達成後に、酒場で委託販売されるガイドブックを購入した方が効率が良い。


「グァラ様は、紫色ダンジョンに潜る予定がありますか? ガイドブックには記載していますが、ダンジョンの(ヌシ)がいないので、腕に覚えがある冒険者が盗掘クエストトレジャーハンティングを受注しています」


 酒場のハミルは、死霊使いグァラにガイドブックを渡すと、紫色ダンジョンの構造図の購入した理由を聞いた。


「いいや、とくに予定はない」

「ガイドブックを購入したのに?」


「俺は、サンバード家の雇われ冒険者だからな、サンバード様の命令があれば何時でも潜れるように、準備を整えているだけだ」

「グァラさんの実力なら最深部に到達できると思うし、盗掘クエストを受注すれば一攫千金も夢じゃないと思いますよ」


 ラインゼルが最深部まで到達したダンジョンの統治者は不在なので、モンスターが冒険者から奪った軍装品や金品、町から収奪した財宝を隠すアイテム収集庫に辿り着ければ、金銀財宝が楽して手に入る。

 しかし暗黒魔界に通じる紫色ダンジョンに挑める実力者は、それほど多くないので、ハミルはグァラに盗掘クエストの受注を勧めていた。


「俺が冒険者になった目的は、金を稼ぐことでも、魔王討伐でもないんだ」

「どんな目的があるのかしら」


「死霊使いの俺は、()(びと)だけじゃなくて、不死系(アンデッド)モンスターも使役できるから、いつか魔王になろうと思う」

「え?」


「冗談だ」

「そ、そうですよね! グァラ様は、目隠ししているので表情が読めないから、急に冗談を言われても解らなくて」


 グァラの肌は浅黒く、黒革の目隠しで視界を塞いでいるので、ハミルの言うとおり表情から考えが読めない。

 周囲に呪力を漂わせて魂を操る呪術系の死霊使いグァラは、日頃から視界を閉じて魂だけを見て鍛錬しており、四方八方の気配を察知していれば、目隠しで目を塞いでも問題なく生活できる。


「ハミルさん、俺の連れてきた連中に酒を運んでやってくれ」

「解りました」


「俺にツケを回して構わないから、好きなだけ飲ませてやってほしい」


 ガイドブックを脇に挟んだグァラは、サンバード家に雇われている冒険者のリーダーであり、酒場には、彼のパーティーメンバーである重装鎧を纏った鉄兜軍団を同行していた。


「グァラさん、御馳走になります!」

「こちらにきて一緒に飲みませんか?」


 鉄兜軍団に声を掛けられたグァラは、首を横に振ると、一足先にサンバード家の屋敷に帰るらしい。


「俺は屋敷に戻るが、お前たち飲みすぎるなよ」

挿絵(By みてみん)

 サンバード家に雇われた死霊使い。

 職業『死霊使い』は有史以来、七人だけが確認されており、酒場にいた鉄兜軍団を率いているグァラが七人目の死霊使いだった。


「おい、ハミル」

「アルフォート様、何ですか?」

 

 鉄兜軍団に酒を運んでいるハミルを呼び止めたのは、ラインゼルをパーティーに連れ戻すために町に引き返した勇者アルフォートである。


「グァラってやつは、サンバード家の死霊使いだな。金持ち道楽のお抱え冒険者が、酒場に何の用事できている?」

「ああ、ガイドブックを買うついでに、メンバーの労をねぎらうために立寄ったみたいですね」


「酒盛りしている鉄兜(バケツ)たちは、死霊使いのパーティーメンバーなのか」

「何か気になることがありますか?」


「だったら聞かせてもらうが、魔力と呪力を感じない鉄兜の職業(ジョブ)は何だ?」

「サンバード家の冒険者は、酒場でクエストを受注しないので調べたことありませんが……、あれ? グァラ様のパーティーメンバーは、全員『人族』ですね」


 アルフォートに促されたハミルは、グァラの連れ立った鉄兜軍団の職業を見抜く目(シースル・アイ)で確認すると、彼らの職業は『人族』で称号も付いていなかった。


「才能のないやつの職業は『人族』、つまり種族名が職業ってことは人の域を超えられない無職の人間だ。死霊使いが、どうして無職のメンバーを連れて冒険している」

「アルフォート様、職業のある人族は百人に一人しか誕生しないし、冒険者に有用な職業は、さらに少ないのです。無職の冒険者も多ければ、サンバード家が雇用している私設パーティーの冒険者は、フィールドに出てきた下級モンスター討伐が主な仕事だと聞きます」


「グァラってやつから異質な気を感じたのだが、俺の勘繰りが過ぎたのか?」

「死霊使いは、常に呪力を漂わせていますし、そもそも死霊使いには、心を見透かされるような独特な気配があります」


 アルフォートは、確かに死霊使いと出会ったことがなければ、目を閉じて呪力を漂わせて物を見るグァラの気配を異質に感じてもおかしくない。

 しかしアルフォートは、一般人をメンバーとして連れ歩く死霊使いグァラが、サンバード家のお抱え冒険者だと、心に留めおく必要があると思った。


 ◇◆◇


 ラインゼルのパーティーは淫魔リリを連れて、彼女がサンバード家の冒険者に拉致された藍色(らんしょく)ダンジョンに向かっている。

 魔界に繋がっているダンジョンの階層構造は、それぞれ階層ごとの出入り口のほか、上下階層を物理的に繋ぐ立坑があり、その立坑を通じて暗黒魔界から各階層に、魔界の住人やモンスターが魔力を蓄えるための魔素が送られていた。

 そのため魔素の濃い下層に多くの魔素を消費する大型龍や中型モンスターが配置されており、暗黒魔界から離れている上層には、スライムなどの低級モンスターが配置されている。


「藍色迷宮ともなるとッ、魔素の溜まり具合が良いのだ!」

「サンバード家の調査では、何が起こるか解らないので、サラの魔素補給を兼ねて現場検証を優先して正解です」


「ああ、これだけ魔素が集まれば灼熱の息(シャイニングブレス)が使用可能だぞ」

「灼熱の息は、周囲の被害が甚大なので却下です」


「解っておる。必殺技は、露払いに使わないから安心しろ」

「お願いします」


 ネスキス卿の調査クエストを受注したラインゼルは、当該のダンジョンに到着した後、サラを先行させて、リリが拉致された現場を目指した。

 藍色ダンジョンのモンスターの強さは、赤色ダンジョンと比べ物にならないのだが、人の夢に入り込む淫魔には、呪力を放出して周囲の気配を察知する能力があり、先行させたサラも、必要最低限の戦闘で目的地に辿り着ける。


「リリの能力を使えば、サンバード家の冒険者に見つからず仲間を捜索が可能ですね」


 リリの証言では、戦う意志がなかったので、冒険者から遠ざかるように姉妹を探していたものの、サンバード家に雇われた冒険者は深部を目指さず、他のモンスターに見向きもしないで、彼女を追跡してきたらしい。

 ラインゼルは拉致現場に向かう道すがら、ダンジョン内の構造を見てきたが、枝道の多いダンジョン内を脇目も振らずに冒険者が追いかけてきたなら、淫魔の拉致監禁が目的だと考えて間違いなさそうだ。


「ラインゼル様、モンスターの討伐報酬が目当てなら、藍色ダンジョンには大物がたくさんいるのに、淫魔だけを追い回すでしょうか?」


 リアンナが疑問を声に出すと、リリも口を挟んだ。


「ご主人様、リリは『敵意がない』と、冒険者に伝えたましたわ。でも私を結界札に包んだ冒険者は、聞く耳を持たなかったの」

「リアンナさんとリリの言うとおり、冒険者の行動は拉致監禁を意図したものです。ダンジョンに潜る冒険者が、結界札の拘束具を持ち歩くのも不自然です」


 ここまでの状況を整理すれば、サンバード家の犯罪は確定的なのだが、ネスキス卿が危惧するように、魔界の住人の証言だけでは、犯罪を立証する決めてに欠ける。


「サンバード家の冒険者が、ダンジョン内で遭遇したモンスターを捕獲しただけと言い逃れしたら、犯罪を追求できないのでしょうか?」

「いいえ。魔界の住人には、サラのような冒険者がいるので、リリが淫魔だとしても通常、いきなりモンスターだと決め付けて先制攻撃で討伐したり、捕獲したりしません。ダンジョン内で遭遇した魔界の住人に不審な点があるなら、保護の名目で身柄を拘束するかもしれませんが、それなら酒場の獣人族に報告する必要があるのです」


「リリの身柄を拘束しても、酒場の獣人族に連絡しないで、貴族様に献上するなんて許されません」

「しかしリリの証言だけで表立って騒げば、サンバード家が証拠隠滅を図る可能性があるのです」


「ご主人様、証拠隠滅とは何なの?」


 リリが不安な表情で、ラインゼルの顔を覗き込んでいた。

 リリだけの証言に基づいてサンバード家の罪を追求すれば、サンバード家が証拠隠滅のために消息不明の淫魔だけでなく、彼女が地下牢で見たという魔界の住人たちに、どんな処分を下すのか解らない。

 だからラインゼルのパーティーは、サンバード家が加担している犯罪の全貌を明かして、言い逃れできない証拠を集めるしかなかった。

新章スタートです。

作者のモチベーションが高まるので、続きが気になる方は、ぜひブクマと評価をお願いします!

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