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ドラゴンマスターの結界師  作者: 幸一
第二章 箱の中身
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14 恋の鞘当て

 淫魔改めてリリは、野営地の焚き火を囲んでサンバード家に捕らえられた詳しい経緯を話している。

 リリたち淫魔は、魔族と妖精系モンスター淫獣(いんじゅう)の交雑で誕生した始祖リリスより派生した魔界の住人で、妖精系モンスターの血を継いだ淫魔は、女王(マザー)から数年に一度発生していた。

 つまりリリと、ダンジョンや人間界で消息を絶った淫魔たちは、容姿の個体差こそあるが同質であり、姉妹ような関係にある。


「リリが迷宮内で探していた淫魔は、姉妹のような同胞で、姉妹たちが冒険者に殺されているなら、すぐに感知できます」


 リリは、ラインゼルの付けた名前が気に入った様子で、自分を指して『リリは−−』と名乗っていた。


「リリが探していた淫魔は、冒険者に討伐されていないし、連絡も取れない状態だったのですね」


 リリはラインゼルの顔を見ながら、力強く頷いた。


挿絵(By みてみん)

「淫魔は普段、暗黒魔界で暮らしているのですが、藍色(らんしょく)迷宮に冒険者が侵入してきたとき、魔族の要請に従って冒険者を排除しています。藍色迷宮に向かった姉妹には殺された気配がなく、魔界にも戻ってきませんでした」

「リリは、藍色ダンジョンで同胞を捜索していたのですか」


 ラインゼルが問えば、リリは、ばつが悪そうに頷いた。

 リリが魔族の命令がないのに、勝手にダンジョン内で同胞の淫魔を捜索したのは、彼女が魔族の精神支配を受けていない証拠である。

 ただリリのダンジョン内での勝手な行動が、魔族に知られれば罪を問われかねないので、ラインゼルに問われたとき、決まりの悪さを感じたのだろう。


「リリを捕らえたのは、そのとき遭遇したサンバード家の冒険者でしょうか?」

「はい。でも魔族の命令がなければ、冒険者をやり過ごすつもりでしたわ。淫魔の呪術は、戦闘向きでないの」


 リアンナが弱った顔でラインゼルを見ると、彼は深いため息をついて頭を掻いた。


「モンスターのリリが、人間界に亡命を希望しなければ、ダンジョン内で遭遇した冒険者に討伐されても、捕虜にされても仕方ないです」

「ご主人様、そうではありません。サンバード家の雇った冒険者は、やり過ごそうと隠れているリリを、わざわざ見つけて捕らえましたわ」


 淫魔の呪術は、相手の寝込みを襲うのが得意で、起きている複数の敵を同時に呪うのが難しく、よほどのことがなければ冒険者が、覚醒中に淫魔を目にすることがない。


「だから彼らの目的が、藍色迷宮の淫魔を捕獲することで、リリの探している淫魔の姉妹たちは、サンバード家の雇った冒険者に連れ去られたと思いますわ」


 リリは話を続けた。


「それでも淫魔はモンスターなので、冒険者の罪を問えません。問題は、知性体のモンスターを捕獲した理由が、人身売買だったのか? ということです。人間界の政府は、人語を解する知性体について、人族に友好的である限り人道的に保護すると決めているのです」


 そうでなければ、酒場の獣人族や亜人たち魔界の住人が、人間界で暮らしていない。


「私は、冒険者を襲ったこともないし、暗黒魔界の貧民街で暮らしていました。藍色迷宮でも、姉妹を探していただけなの」


 リリの話が確かなら、サンバード家の冒険者が、人身売買の商品として、淫魔を捕獲しているとの説明に辻褄が合う。


「ご主人様は、リリの話を信じてくださいますか?」

「リリが冒険者を殺したのか否かの証明は、獣人族の見抜く目(シースル・アイ)を使えば簡単です。獣人族の見抜く目は、モンスター討伐の種類と数だけでなく、人殺しだって見抜くのです」


 リリは『はい』と、まだラインゼルに疑われていると思ったのか、うつむき加減に返事した。


「まあ、今は信じます」

「ご主人様、ありがとうございます!」


 リリが抱き着こうとしたので、ラインゼルは立ち上がって避ける。

 淫魔のような魔族の亜種モンスターは、魔王を崇拝していると聞いているのだが、ラインゼルが名付け親になったことで、リリの崇拝対象が上書きされたようだ。


「ラインゼル様に尋ねたいのですが、教会では聖域に近付けない者を総称して『魔の者』と呼んでいました。だから魔界の住人には『良い魔の者』と『悪い魔の者』いるとしか、私は認識していないのです。私は()()()()()()()()()()()()()()()のですが、人族と同等に扱って良いのでしょうか?」


 魔法使いは、教会が収蔵している魔導書を閲覧するために、必ず洗礼を受けており、物の見方考え方が教会の教えに準ずる者が多い。

 敬虔な信徒であるリアンナは、善悪という曖昧な主観で判断しているから、サラの本質を見ないで、人間を喰らう大型龍(ドラゴン)として嫌悪感があるのだろう。

 そしてリアンナにとって助けを乞うリリは、救済の対象である良い魔の者で、サンバード家は非難されるべき悪党なのだ。


「サラもいるし、リリの立場をハッキリさせるためにも、魔界の住人やモンスターが、人間界に受け入れられる条件を覚えるには、良い機会かもしれないですね」


 魔界には、魔族の他にも獣人族、ドワーフ族、エルフ族、今は滅んだ竜族などの様々な種族と、魔族と人型モンスターの交配で誕生した淫魔や狼男など、知性体の『魔族の亜種モンスター』が暮らしている。

 彼らが俗に『魔界の住人』と呼ばれる者たちであり、既に人間界に移住した種族も、慣習的に魔界の住人と呼ばれていた。


「獣人族、ドワーフ族、エルフ族の種族は、魔界の住人ですが、魔王や魔族の精神支配を受けず、何世代も前から人間界に移住しているので、爵位を与えられた者や、政府高官の役職にある者もいます。彼らは現在、人間界で人族と同等の権利があります」

「私も魔王の精神支配を受けないが、種族として滅んでいる竜族だから、ラインゼルに首枷(チョーカー)を付けられて監視されているのだな」


「獣人族だって当初、首枷を条件に人間界の移住を許可されたのです。獣人族の祖先が何世代にも渡って、人族との信頼関係を構築した結果、人間界での自由を手に入れのです」

「私は、死ぬまで首枷を付けたままなのか?」


「いいえ。現代では、危害を加えないと政府に判断されたら、魔界の住人であっても首枷と身元保証人を必要としないのです」

「私の身分は今、保護観察中なのか」


「そういうことです。お気に召しませんか?」

「いいや。猫に鈴を付けなければ、ネズミは不安なのだろう」


 サラは首枷を撫でているのだが、人化して時間が経過して人間の身体に慣れてきたらしく、大型龍に戻れない現状に不服を漏らさなかった。


「ラインゼル様、リリも魔界の住人なのに、なぜ亜人ではなく、モンスターに分類されるでしょうか?」

「リアンナさん、良い質問です。亜人は、魔界の住人だった獣人族やドワーフ族と人族の交配で産まれた子供(ハーフ)、または彼らをルーツに持つ人間が『亜人』と呼ばれているのです」


「魔族とモンスターの交配で産まれたリリは、人族の血統がないので、亜人ではなく『魔族の亜種モンスター』なのでしょうか?」

「そのとおりです。魔界には、スライムや彷徨う炎など不定形の精霊系や、生体機能のないゴーレムなど物質系だけではなく、実体を伴う妖精系の人型モンスターが多くいます。だから魔界には、淫魔に限らず多種多様な『魔族の亜種モンスター』が誕生するのです」


「魔界の住人には、魔族や獣人族などの独立した種族と、魔族と人型モンスターの子供(ハーフ)をルーツにする魔族の亜種モンスターがいるのでしょうか?」

「その理解で正しいです。リリのような魔族の亜種モンスターとモンスターの違いは、魔族の血統だから魔王の精神支配を受けないことです」


「では人間界に受け入れられる条件とは、何でしょうか?」

「魔族の精神支配を受けない知性体であり、人族を殺していないことが条件です。つまりリリの話が真実であれば、彼女が()()()()()()()()()()()()()なら、サンバード家が首枷を付けて人身売買の商品するのは違法です」


 リアンナが『意思がなければ?』と、ラインゼルに問えば、リリに亡命の意思がある前提でしか、サンバード家の罪を追求するのは不可能だと言った。


「僕らが魔界の住人の人権を認めている背景は、人道的な側面ではなく、魔族からの離反を促すためなのです。リリが魔王に心酔しているなら、人権を保証する必要がないのです」

「ラインゼル様は、サンバード家に罪がないと言うのでしょうか」


「善悪の問題や人道的な見地で考えるとややこしいのですが、リリたち淫魔は敵である魔族の亜種モンスターなので、サンバード家の人身売買はグレーゾーンなのです」


 リアンナが沈痛な面持ちになると、リリはラインゼルの横に立った。

 

「リリのご主人様は、名前をくださったラインゼル様に決めましたわ。姉妹たちが見つかったら、みんなラインゼル様に忠誠を誓わせますわ」


 リリに抱き着かれたラインゼルは、炎龍サラの身元保証人だけでも気が休まらないのに、リリまで増えて、かつ何人いるのか解らない、消息不明の淫魔全員の身元保証人を引受ける自信がない。


「ご主人様、駄目ですの?」


 上目遣いで腕に絡みつくリリを見つめられると、ラインゼルも覚悟を決めるしかなかったのである。


「亡命を希望する魔界の住人が増えるのは、政府の宥和政策と一致しますので、リリの申し出を断るのが難しいですね」

「ご主人様、ありがとうございます!」


「大変ですが、リリの頼みでは仕方ないです」

「わぁい♡ ご主人様のこと大好きですわ♪」


 男好きするリリに腕を絡み取られて、ニヤニヤするラインゼルを見て苦笑したサラは、隣に座っているリアンナを肘で小突いた。


「リアンナ、ラインゼルのやつ何だかんだ偉そうに言っていたが、ご覧のとおり淫魔の色仕掛けに絆されているぞ。淫魔の手練手管に騙されているのかもしれんのに、自分のことは見えないらしい。愉快な男だな」


 サラに声を掛けられたリアンナだったが、ラインゼルに熱い視線を送っており、心ここにあらず上の空である。


「ラインゼル様は、敵であるモンスターまで仲間にするなんて、なんと度量の大きい方なのでしょうか。私もリリのように、ラインゼル様に一生ついていきましょう」

「ラインゼルに惚れてるとか、貴様の男を見る目も大概だぞ?」


「私は、サラさんとリリに負けませんからね!」

「私を勝手に巻き込むな!」


「隠さなくとも良いでしょう? キングオブドラゴンと呼ばれる炎龍サラが、一介の結界師ラインゼル様に同行している理由には、(うぶ)な私にも察しがつくのですよ」

「そ、そんな目で見ていたのか!?」


「サラさん、お互い正々堂々と頑張りましょうね」


 鼻息荒くしたリアンナに、手を繋がれたサラは困惑した。

 リアンナは面接時からラインゼルに一目惚れしており、どうやらサラを恋敵(ライバル)だと勘違いしていたので、当たりが強かったらしい。

続きが気になった方は、今後も更新を頑張るのでブクマと評価してくれたら嬉しいです!

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