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ドラゴンマスターの結界師  作者: 幸一
第二章 箱の中身
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11 箱の中身はなんだろな①

 宅配クエスト中のラインゼルたちは、人間界を馬車で移動すれば十数日かかる届け先の町に、赤色(せきしょく)ダンジョンに複数ある出入り口を利用した『ダンジョンワープ』で向かっている。


「ハミルさんに教えてもらった最短ルートは、ダンジョンの()(ふく)が激しいですね。今夜は休憩して、改めて平坦なルートを探しませんか?」


 ラインゼルは手押し車を停めると、周囲を警戒しているリアンナに問い掛けた。

 最短ルートには、構造図(マップ)で解らなかった高低差があるので、ラインゼルが手押し車を押すのに難儀している。


「解りました。ここで野営(キャンプ)するなら、私がテントを用意しましょう」


 リアンナは、背負っていた排膿(リュック)を下ろした。


「僕とサラは、迂回ルートを探しながら結界札を貼ってきます」

「うん? サラさんは魔界の住人なのに、野営地を結界札で囲んでも大丈夫なのでしょうか」


 リアンナは、魔界出身の種族が結界を越えられないから、ラインゼルが結界領域を展開しないと誤解していた。


「術者を中心にして展開する()()()()と、町や野営地を結界札で守る()()()とは、結界の張り方が違うのです。魔界の住人が結界に守られた町に入れないなら、サラだけではなく、ハミルさんたち獣人族だって町に出入りできません」

「町の出入りを監視している壁門には、結界札がないから出入りできるのでしょう?」


「はい。結界札は貼られたところのみ効果があるので、任意で抜け道を作ることができるのです。だから野営地の前後に結界線を張っても、中にいるサラには影響がないのですよ」

「野営地を二つの結界で囲むのでしょうか?」


「そう通りです。結界領域の結界は術者を中心にした球体で、結界札の結界は線を引いて囲い込む感じです」

「でもサラさんを捕獲したとき、彼女は結界領域の内側にいたのでしょう?」


「結界領域は、術者の呪力を結界内に満たして外界との狭間に、魔界の住人が通れない壁を作ります。このとき内側(術者側)にモンスターを巻き込んでしまったり、ダンジョンの出入り口があったりすれば、結界内にモンスターと一緒に閉じ込められるのです」


 ラインゼルは、結界領域を離れても展開を維持できるので、サラを結界に閉じ込めたまま脱出できたが、通常の術者が結界内にモンスターを巻き込めば、逃げ場を失ってしまう。


「高位の結界師は、結界領域を展開したまま移動できるし、ラインゼル様は離れた場所でも結界を張れるから、サラさんを結界領域に巻き込んだままでも、ダンジョン探索ができるのではないでしょうか?」

「結界領域では範囲を変更するとき、結界としての効果がないので、サラの首枷(チョーカー)がなければ可能なのです。しかし結界札は数珠繋ぎに結界を張れるのですが、結界領域による結界内は、別の呪力による()()()()が不可能なのです」


「どういう意味でしょうか?」

「結界領域には僕の呪力が満ちているので、結界に限らず別の術式が展開できない−−って、魔術とは、術式が違うので解説が難しいですね」


 魔法使いリアンナは魔術系の知識に長けていても呪術系の知識に疎く、ラインゼルの説明が理解できず首を傾げてしまう。


「博識の私が、無知なリアンナに教えてやろう」


 サラは不遜な態度で、リアンナの前に立った。


「なぜ町全体を結界領域で守らず、ドーナツ状の結界線で囲っているのか。結界領域内では、モンスターに町を襲撃されたとき、内側に結界を張って逃げることができないからだ」


 リアンナは、まだ話を飲み込めていない様子である。


「つまり結界内に結界を張る二重結界は、どんな高位の術者でも不可能だ。そして私の首枷が結界なので、ラインゼルは、私を結界領域に巻き込むことができない」

「あ、いま理解しました。サラさんが魔界の住人だからではなく、サラさんの首枷が結界札だから結界領域を展開できないのですね」


 サラの首枷は結界札で作られており、ラインゼルが結界領域を展開すれば、二重結界となり、磁石の同局を近付けたように双方が弾き出される。

 ラインゼルが結界領域を展開すれば、二重結界の衝撃でサラの首枷が崩壊する可能性もあった。


「それに宅配クエストの積荷は、結界札の貼られた箱だぞ。ラインゼルは私がいなくても、そもそも結界領域を展開できないのだ」

「なるほど、確かにそうですね」


「二重結界が不可能だと知らんとは、本当に無知な女だ」

()()()()()()()()()()には、言われたくない台詞ですわ」


「なんだとッ、世間知らずの称号はッ、御令嬢の代名詞なのだぞ!」

「そんなデタラメ、誰が教えたのでしょうか!」


 またケンカが始まりそうだったので、ラインゼルは『僕も魔術には疎いです』と、リアンナを宥めてから、サラにクッキーを投げて渡した。


「素晴らしき物〜、クッキー〜♪」

「ほら、結界札を張るから手伝ってください」


 ラインゼルに耳を引っ張られたサラは、恍惚の表情を浮かべてクッキーを舐め回している。

 リアンナは二人の背中を見送ると、ため息混じりに排膿(リュック)からテントを取り出して、今夜の野営地を設営した。


 ガサ……。


「誰かいるのでしょうか!?」


 ガサガサ……。


 太い錫杖の柄を脇で締めたリアンナは、ラインゼルが向かった逆の方向を警戒したが、暗がりに目を凝らしても気配がない。


 ガサガサ……。


「箱の中!?」


 リアンナが耳を澄ませば、手押し車に積まれた大きな箱から、木屑を踏むような乾いた音が聞こえる。

 ハミルからは、結界札に守られた箱の中身を知らされていないが、中身が貴族への貢物であるなら、移送に結界を必要とする魔力を秘めた武具だと思われた。

 なぜなら好事家の間では、呪われたアイテムとも呼ばれる魔力を秘めた武具が高値で取引されており、それらは結界札などで厳重に管理されているからだ。


 ……。


 リアンナは音が止むと、反体制派の亜人が貴族様の屋敷にモンスターを送り付けるテロ事件があったことを思い出した。


「箱の中身は、本当に貴族様への貢物なのでしょうか?」


 リアンナが警戒した途端、手押し車の積荷は沈黙している。

 中央政府の為政者や貴族には、魔界の住人だった獣人族や亜人を排斥する勢力があり、そうした排斥運動に参加する勢力と武力衝突する亜人たちもいた。

 荷主が人族の大富豪なのだから、箱の中身はモンスターのはずがない。

 しかし荷物を集荷している獣人族の中に、反体制派の亜人がいて、箱の中身をモンスターにすり替えているかもしれないと、そんな疑念がリアンナの脳裏を過る。


 ◇◆◇


挿絵(By みてみん)

「この先は探索済みなので、結界を張るから下がって」


 迂回ルートを探しているラインゼルは、探索の終わった横道に結界札を貼り、野営地がモンスターに襲撃されないようにしていた。


「ラインゼル、ここからは手分けするぞ。貴様が監視しなくても、逃げ出さないから安心しろ」

「僕は、サラを監視してないです」


「貴様は、本当に監視の必要がないと思うか」

「どういう意味ですか?」


「教会で育ったリアンナは、私のことを警戒しているぞ。私や獣人族は人間界で暮らしているが、聖域となっている教会に近付けないし、モンスターのように聖水を嫌っている。あの女にとっては、私もモンスターと変わらんのだろう」

「ああ、それで二人は内輪揉めばかりなのですか?」


「私は、仲良くしてやっても良いのだが、リアンナが受け入れないからな」


 仲良くしたいのなら、上から目線でリアンナに話しかけるなと、ラインゼルは忠告しようと思ったが、サラが素直に従うとも思えなかったので、話題を変えることにした。


「ところで純血の竜族は、サラが最後の一人なのですか?」

「竜族は処女懐胎(単為生殖)が可能だから、蜥蜴(ドラゴネット)や別の種族と交尾(有性生殖)しなければ子々孫々純血のままだ。ダンジョンを統治している竜族は、私のように純血だと思うぞ」


「あれ?」

「どうした?」


「サラは、僕に『女を知らない』とか言ってたけど、サラは千年も生きているのに『男を知らない』のですね」

「そ、そんなわけあるか、私はキングオブドラゴンだぞ? もう毎晩やりまくりだっつうの! 夜通りやりまくりだっつうの!」


「一人で?」

「あっ、あっ、あ〜っ、そろそろ手分けするぞッ、ラインゼルは右ッ、私は左を探索してくる!」


 サラは小声で『一人じゃねぇしぃ〜』と、捨て台詞を残したものの、紫色ダンジョン深部のモンスターは物質系ばかりだったし、そもそも彼女は、冒険者やモンスターに会ったことがないと言っていた。

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