第5話 バテバテ津姫先輩との夏祭り
「あぁーっ!」
わたしは大きな声で叫んだ。
仕事は山積みだし、上司は帰っちゃうし………終電にも間に合いそうにないから、とりあえずタクシーで………
駅まで行ったら、きっとタクシーいっぱいいるだろうし………
スマホを持って立ち上がると、急に手元のそれが振動した。
「電話だ。」
と言いながら、名前を見ると、
「津姫先輩!」
と叫んだ。
久しぶりに見たその名前に、すごく興奮して、うれしくなった。
津姫先輩は、わたしの前の前の高校の生徒会長。
すごく綺麗な人で、テニス部の部長で……そんで、わたしの好きな人の好きな人だった。
わたしの好きな人は北山奏といって、隣のクラス、B組だった。
ただ、彼も、彼のクラスの他の男子も、わたしのクラスの男子も、C組の男子も、みんなが津姫先輩のことが好きだった。
LOVEの好きだけじゃなくて、LIKEの好きも多かった。
もちろん、例外もいなかったわけじゃないけど、ともかく津姫先輩はみんなの憧れだった。わたしは北山くんも好きだったけど、津姫先輩も大好きだった。
それで、津姫先輩が電話かけてくるなんて、なんの用なんだろう。
最近は全然声聞いてないし、メールだってほとんどこないのに。
「もしもし、東です。」
「もしもし、久しぶり、遙ちゃん。」
「お久しぶりです、津姫先輩。どうしたんですか?久しぶりですね。」
「いやぁね、高校のことを思い出してたら、七夕祭りのとこまで遡ってて、七夕祭り、みんな楽しんでたかなぁって思ったから、電話することにしたのよ。」
「本当ですか?」
「嘘つく意味ある?」
ちょっとむくれて津姫先輩が言う。
「ありませんでした。」
わたしがそう答えると、「ね、」とホッとしたように津姫先輩は息を吐いた。
「で、七夕祭り、楽しかった?」
「え〜っと、どうだったかなぁ。」
わたしがふざけて言うと、津姫先輩はこの世が終わったかのような声を上げた。
「ちょっと、ひどい!」
「ひどいと思うなら最初から聞かないでください。」
わたしが冷静に言うと、津姫先輩が泣きべそをかいている様子が目に浮かぶような気がした。
「ひどい〜、遙ちゃん、前より毒舌になってない?」
「なってないです。」
「でも、昔はこんなに冷たくなかったよ?」
おどけたように言う津姫先輩がすごく可愛い。
きっと今、津姫先輩はそのきれいな目をくりくり動かして、輝かせながらわたしと喋っているのだろう。
「嘘ですよぉ。すっごく楽しかったです。当たり前じゃないですか。津姫先輩が企画したんですから。」
わたしが口調をかえて言うと、
「それでこそ遙ちゃんだよぉ。嬉しい。」
ふふ、と笑っている津姫先輩は、アイドルにでもなったほうがよかったんじゃないかって思うけど、普通のOLなんだよねぇ、勿体無い。
「生徒会の皆さんは大変だったでしょう。」
「まぁね。でも、私にとってはちょー簡単なことだったけどね。お茶の子さいさい。」
なんて、すごく誇らしげに先輩は言うけど、
「でも七夕祭りの後の夏休み、津姫先輩死にかけてましたよね。」
「あれ、ばれた?」
まぁ、仕方ないよねぇ、と津姫先輩は笑い声を漏らした。
「だって、初めての試みだったし、先生たち、本当に一切手伝ってくれないんだもん。毎日毎日書類整理などに追われて、ようやく終わっても、疲れが溜まってたから、夏休みなんて夏バテも重なって死にかけたんだからね。」
「津姫先輩があんまり無茶しないでくれたら、あとの会長のわたしもあんなに頑張らなくても良かったんですけど、ねぇ。先輩のせいですよ。」
「うわ、ごめんね、遙ちゃん。」
津姫先輩が本当に申し訳なさそうな声をするので、もう少しいじめたい気分になり、
「夏祭りの時なんて、誘った津姫先輩がヘロヘロだから、わたしが大変だったんですからね?わかってなかったんですか?」
う、と言ううめき声と、うわーんと言う泣き真似が聞こえてくる。
「フルーツあめ屋さんで会った北山くんも、あまりに津姫先輩が辛そうだから、めっちゃ気を使ってましたよね。」
「アァ、奏くんね。りんご飴食べながら、私のこと気にかけてくれてたのよね。」
津姫先輩にとっても、北山くんはとてもいい後輩らしく、北山くんと喋るときは結構楽しそうだった。
「そうそう、北山くん、りんご飴がすごく大きくて、ガジガジかじりながら食べてた。唇も舌も真っ赤にして、リスみたいにして食べてた。」
あの北山くん、すっごく可愛かったなぁ。
あった時、紺色の地に黒い線の入った甚平を着てて、でも少し短いみたいで、細い足が覗いていた。
北山くんは顔が小さいから、りんご飴がすごく大きく見えて、口を大きく開けても、歯が立たないって顔をしかめてた。
白い地に青色の勿忘草の模様が描かれた浴衣を着てる津姫先輩を見て、眩しそうな顔をして、顔を背けてりんご飴を食べていたけれど、その耳が真っ赤になっていたのを見た。
わたしは辛かったけど、でも、津姫先輩や北山くんと一緒にいることを考えて、どうにか持ち直したんだ。
「ねぇ、これから一緒に回らない?」
と言う津姫先輩の提案を、顔を真っ赤にして受け入れて、りんご飴をかじりながら一緒に回った。
射的をしたり、輪投げをしたり、金魚すくいをしたり。
北山くんが射的がうまくて、五つのコルク弾で五つの商品を仕留めた。
茶色と白のテディベアをわたしたちに一つずつくれたっけ。
津姫先輩が、嬉しそうに微笑んで、「ありがとう、奏くん。」っていったら、北山くんが一瞬時が止まったみたいに静止した。
わたしもお礼を言って、もらった茶色のテディベアを今でも取ってある。
輪投げは、わたしが一番得意なはずだったのに、投擲力抜群の津姫先輩がズバズバ高得点のところに輪を入れて、津姫先輩が一位、わたしが二位、北山くんが三位と言う結果になった。
金魚すくいは、まず一番最初に津姫先輩が網を壊してしまって、お情けでお店の人に二匹金魚をもらって、暇そうにしていた。
わたしと北山くんはいい勝負だったけど、北山くんが六匹取ったところで網が敗れてしまって、結局わたしが九匹取って一位になった。
お店の人が、『こんなに取られるなんて』と言いたげな顔をしていたのを覚えている。
それから、三人で一緒に目玉の花火を見て、三人で一緒に途中まで帰ったっけ。
津姫先輩が一番夏祭りの会場から家が近かったから、津姫先輩が家に帰った後、わたしと北山くんの二人きりで帰った。
ちなみに、北山くんはその時には新しいりんご飴を食べ始めていた。
ガリガリかじりながら、しばし無言でわたしたちは歩いた。
北山くんよりわたしの方が家が近かったから、わたしの家に着くまで、ずうっと無言だった。
好きな人との無言が痛くて、苦しかった。
でも、わたしの家に着いた途端、北山くんが急に口を開いた。
「えっと、今日はありがとう。また、機会があったら、遊びに行こう。」
他意は無かったんだろう。
北山くんのことだ、単に遊びに行こうとして誘っただけだと思う。
でも、わたしはすごく嬉しくて、うちに入った途端、顔を真っ赤にしながらガッツポーズをした。
「おーい、遙ちゃん。遙ちゃん?」
わたしが無言になったのが気になったのか、津姫先輩が心配そうな声をあげた。
「大丈夫です。ちょっと、夏祭りのこと思い出してて。」
「そっかぁ。なんか思い出深いよね。」
「はい。」
「夏休みと言えばさぁ、」
と、津姫先輩は嬉しそうに語りだした。
「螢を見る会、って覚えてる?」
「あぁ、あの、半分以上流しそうめんのやつですか。」
「そうそう。あのときの優斗、やばかったよねぇ。」
「必死でしたねぇ。」
夏休みがもうすぐ終わる頃、全国の学生が宿題に終われている時期の事だった。
読んでくださってありがとうございます!
本当は昨日投稿する予定だったのにぃ!
ごめんなさい、本当。
言い訳をさせてもらいますと、昨日家族にパソコンを占領されまして、投稿できませんでした。
本当にすみませんでした。
さて、今回は初めての遙視点になったわけなんですけど、どうでしたか?
遙のキャラは、津姫先輩をからかうのが好きなタイプです。
後、めっちゃ気を使うタイプ。(津姫先輩以外には)
次は、津姫視点です。
絶対今日中に出せるようにします!
と言うわけで、また次の話でお会いしましょう!
さよなら!