第4話 津姫先輩の七夕祭りは生徒会の死闘
学校を出ると、教頭先生に電話をかけた。
几帳面な先生らしく、ぴったりツーコールで出る。
「もしもし、北山です。」
「もしもし。なんのご用でしょう。」
「え、えぇっと、先生が、電話をくださいとおっしゃったので………」
と言うと、教頭先生はふっと息をついて、
「アァ、なるほど。それじゃあ、手短にすませましょう。もう遅いですから。」
もう遅い、と言う言葉に、すごい圧が込められていた。
「は、はい。」
思わず、直立不動になる。
あっちからは、僕の姿は見えていないのに。
「北山先生、いま、何時ですか?」
うっ。
「9時、40分、です。」
高校時代を思い出してたら、結構時間が経っていた。
「先日も申し上げましたが、残業はできるだけしないでください。」
学校の評判がどうとか、って言う理由だろうけど。
「学校の評判が落ちます。」
ほら。
「そして。」
え?まぁだ何かあるんですかっ!?
「北山先生、若いからって無茶しないでください。体調を壊されたら困ります。担任なんですから。」
「はい。」
「最近、残業が多くて、机の上に大量のカフェイン入り飲料の瓶がおかれていましたね。」
「は、はい。」
だんだん、口調が強くなってきた。
「生徒たちに夜更かししないようにと言っている教師がこんなことでは、生徒たちも言うこと聞いてくれませんよ。」
「その通り、ですね」
僕のシュンとした雰囲気を悟ったのか、教頭先生がフッと息を吐いた。
「まぁ、説教ばかりでは始まりません。わたしが電話するように言ったのは、そんなくだらない用件のためではないに決まってるでしょう?」
「えっと………はい。」
「実はですね、今度、隣町の蘆野小学校と交流会をすることになってるんですけど、それの仕切りを先生に頼もうと思ってるんです。」
「本当ですかっ!」
僕が嬉しそうな声を上げると、教頭先生は口調を厳しくした。
「ただし、条件がありますけど。」
「条件、ですか?」
「それは───」
僕は息を飲んで次の言葉を待った。
「一週間、残業をしなかったら、ですけど。」
予想通りと言うか、なんと言うか。
「できますか?」
答えは一つしかない。
と言うか、言える答えは一つしかない。
「はい、やります。」
「よろしい。それじゃあ、明日からですからね。1日でも残業したら、この話は無しです。」
「わかりました。」
「それでは、もう遅いので、おやすみなさい。」
「おやすみなさい。ありがとうございました。」
電話を切ってから、大きく反り返って、腰をほぐすと、家に向かって歩き出した。
うぅ、寒い。
おい、明日の朝はもっと寒いとかって言わないよな!
と言う文句を込めて、空を見ると、綺麗に星が光っていた。
白とか、オレンジがかってるのとか、いろいろ。
僕、あんまり天体の勉強が得意じゃなかったから、星の名前はよくわかんないけど、夏の大三角くらいはわかる!後、冬の大三角とか。
えっと、あれでしょ?夏のは、こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブ。
冬のは、オリオン座のベデルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン!でしょ?
オリオン座って有名だよね。
シリウスも、かっこいい。
プロキオンは………プロキオンだね、うん。
後、天の川くらいはわかる!
あれだあれ、乙姫様と彦星様が……ってやつか?
あ、違った違った。
織姫様と彦星様だった。
確か、雨の日に会えないのは、天の川が氾濫して、橋をかけてくれるシラサギ?が、嫌だよ〜って逃げちゃうから、らしい。
なんで僕、こんなの知ってんだ?
あ、先生に聞いたんだ。
いつの先生だっけ?
中学校じゃない。
中学校の先生の名前すらうろ覚えレベルだから、天体の話なんて覚えてるはずがない。
大学もない。
大学の天体の話なんて、天の川伝説なんて出てきたことないもん。
ってことは、高校か。
二年と三年はないな。
そんな雑談してる暇がないくらい、進路だ勉強だって大変だったから。
じゃあ一年か。
なんでそんな話になったんだ?
え〜っと、一年の時は何があったっけ。
………あ!
あれだあれだ、七夕祭り!
津姫先輩が企画・運営してたやつだっ!
七夕祭りは、少なくとも、僕が高校にいる間は一年生の時の一回しかなかった。
と言うのも、七夕祭りを企画・運営したのは津姫先輩で、そのあとの生徒会長はそういうイベントをやってなかったから。
津姫先輩の次の次の生徒会長の、東遙って言う子は、どうにかやろうとしてたんだけど、生徒会のメンバーのみんなに反対されて、やめたって愚痴ってた。
『やりたかった……津姫先輩のためにも』
そう言った彼女の悲しげな横顔を、僕はまだ覚えている。
とりあえず、七夕祭りはあの高校の長い歴史の中でも一度もなかったイベントで、生徒たちはおろか、先生たちですらすごく楽しそうにしていた。
そんで、
「せっかく授業がないんだから、演し物でもして最大限楽しもうよ。」
って言う話になり、生徒会には内緒で演し物の準備が始まった。
最初の頃、言ったほうがいいんじゃない?って意見が多かったけど、本当に大事件があったら先生たちが対処する、と言ってくれたので、安心してやることにした。
まぁ、後から津姫先輩に聞いたところによると、生徒会のメンバーは教頭先生から怒られたらしいけど。
僕のクラスは黒板アートだったけど、お化け屋敷をやってるとことか、休憩所みたいなことをやってるとこもあったみたいだ。
さっき言った東遙さんのところは、スナック菓子とジュースを出しているカフェをやってた。
生徒会のみんなが、必死に走り回ってたっけ。
津姫先輩が中心になって、ね。
津姫先輩は、「みんな本当に楽しんでたのかなぁ。」
なんて言ってたけど、本当に楽しかった。
いやまぁ、短冊を大量に持っていく輩とかもいて、津姫先輩が涙目になりながら怒ってたっけ。
後輩からしたら、そうやってみんなを仕切ったり、叱ったり、企画したり、計画したりする津姫先輩が憧れで、アイドルで、ちょーかっこいい、“先輩”だった。
だからと言って、お祭り騒ぎが止むはずもなく、それに伴って問題行動もたくさんあったんだけどね。
七夕祭りの次の日の生徒会は、本当に死にそうに見えた。
授業もある上に、七夕祭りの後片付けも重なって、結構遅くまで残っていたっぽい。
七夕祭りのあと一週間は、生徒会メンバーは毎日寝不足みたいな顔をして登校してたのを覚えている。
津姫先輩も、目の下にクマを作って、一年生みんなで心配してたっけ。
ちなみに、かいた短冊は、それぞれが卒業の時に返ってきたらしい。
───津姫先輩の一言メッセージを一枚一枚に添えて。
僕にも返ってきた。
その頃から僕の夢は教師で、津姫先輩はこうかいてくれた。
『いいんじゃない?嫌われないような先生になってね?まぁ、奏くんだから絶対大丈夫!頑張って!応援してるからね!……え〜、奏くん先生になるのかぁ。
超有名教師!とかになったら、私、かつての先輩とかで取材してもらっちゃって全然大丈夫だからね。』
本気なのか、冗談なのかわからない……けど、それが一番津姫先輩らしい感じがする。
でも津姫先輩、夏は暑さでデロンデロンになってたっけ。
夏休みに、夏祭りであった時とか。
読んでくださってありがとうございます。
今回は奏視点の七夕祭りの話でした。
次は、多分遙視点。
遙は津姫先輩のことが大好きです。
そんな遙視点の夏休みの話。
なんと、津姫先輩と夏祭りに行きます。
頑張って明日の朝投稿できるようにしようと思います。
よろしくお願いします。
それではまた明日。