謎の少年
皆さん、こんばんは。
誕生日パーティーのお時間がやってきました。
周りの人たちがきらびやかな格好をし、車で城へ向かい始めました。
やっぱりと言いますか、アーウィンはロビンに無理やり連れ去られ城へと向かいました。
因みにアーウィンの服はいつものシャツ1枚に短パンなのですが良かったのでしょうか。
きっとそこはロビンが何とかしていると思うことにします。
相当嫌な顔をしていましたが、誘われたことに関しては嫌そうでないところを見ると嬉しかったのでしょう。
皆がだいたい出払った頃に外へと出てみれば真ん丸とした月が光輝いて見えました。
こうしてあの処刑から数年たち、以前とは異なる生活を重ね、新しいことを学び過去の懺悔を心のなかで繰り返していたら、もう私が亡くなったとされる年齢まで残り3年となっていました。
それが何だと言われればそこまでなのですが、何と言いますか考え深いものがありますね。
さて、冷えますし家の中に戻りますかと、振り返れば暗闇の中に1人の少年が私と同じように月を眺めておりました。
顔は深くフードを被っていて見えませんが、背丈はアーウィンより少し大きいように見えます。
彼の周りには誰もおらず、周辺に物もないので彼だけが1人取り残されているように見えました。
その背中が寂しげで何故か、その姿が目に焼き付けられてしまいました。
迷子というわりには慌てた様子もないですし、途方に暮れているようにも思えません。
何が一番近いかと言うと、1人になりたかった、というような感じがぴったりかもしれません。
たまにはそういうときもありますよね、そう思い私は見て見ぬ振りをしようかと思ったのですが、近くにあった葉を踏んでしまい音を立ててしまいました。
それに少年が素早く気付き、顔をこちらに向けてきましたが、やはり顔は隠されていて見えません。
私は慌てて弁解しようとした瞬間、少年は腰に下げていた拳銃をこちらに向けてきました。
「?!」
まさかそんなものを持っていたとは知らず、息を飲めば少年はこちらに銃口を向けたまま動きません。
張りつめた空気に思わず唾液を飲み込めば、敵意がないと分かったのか、少年は拳銃を元の場所へと戻しました。
「何者だ」
低い声で問われ、私は緊張で掠れてしまった声をそのまま出しました。
「わ、私はシャロンです。私の後ろにある家に居候させて貰っています。ここにいたのは月がその、綺麗でしたのでそれを観ていました」
思い付いたことを言えば、少年は私の方から視線を外し月を見つめました。
「確かに今日の月は綺麗だな」
同意されたことに胸を撫で下ろせば、少年はそれ以上何も言ってきませんでした。
これはこのまま家に帰っても良いものなのでしょうか。
下手に動けばまた銃口を向けられそうな気がするので、変に身動きが取れません。
だからといってこのままここにいて少年を眺めていても何か言われそうですし、と考え込んでいるといつの間にか目の前に少年が立っていました。
いつの間にこんな近くに着ていたのでしょう、全く気付きませんでした。
「………あんた、今いくつだ」
いきなりと問いに、頭が働かず、え、えっとですね、と意味のない言葉が出てしまいました。
「15、です」
「春から高校生か?」
「え、あ、あの、お金がなくて恐らく働くことになるかと」
このままいつまでも居候を続けては迷惑がかかってしまうし、ここはこのまま働きに出て少しでも恩返しをすべきだと思っています。
それを見ず知らずの少年に素直に答えてしまうのはどうかと思いましたが、口が勝手に動いていました。
「もしある学園が衣食住を全て提供し家への援助も行うと言ったらどうする?」
「え?それは特待制度を使用するということ、ですか?」
特待制度とは、未来ある学生に対して学校側が衣食住や家族への援助を行う制度のことで選ばれたものでしか使用することの出来ない制度です。
確か生前、それを使用して学園に入学したという生徒がいると聞いたことがありました。
どこの誰だか忘れてしまいましたが。
「そうだ」
「ですが、それを使用するほどの価値が私にはございません。是非、私ではなく学びを希望する方にお譲りください」
私がそう言えば、フードの下から見えている整った鼻や口が月明かりに照らされました。
まるで彫刻のように整った顔立ちです。
フードで隠れて見えていない目元もきっと整っていることでしょう。
隠されているのがきっと勿体ないような容姿であること間違えなさそうです。
「そうか。だが、きっと君の意見は参考にならないだろうな」
「それはどういう…」
意味ですかと問いたかったのに少年は私に背を向け暗闇に溶けていくかのように立ち去ってしまいました。
後日、今の私には縁の所縁もないと思っていた学園からの特待制度での入学を認めるといった内容の書類が届きました。
その学園なのですが、私と王子様が共に学生生活を送ることとなった学園の名が書かれていたのです。