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私は処刑されたはずなんです

初めまして皆さん。

私、ルージュ・グランディオと申します。

悠長に自己紹介を始めましたが、実はそんな状況ではありません。

何故なら婚約者であったはずの王子様に処刑を言い渡され、処刑台に向かっている所だからです。

私が何をしたのかと申しますと、私の好きな人でありました王子様に近付いてきた女性を徹底的に払いのけ、自分の地位を守り、少しでも私の邪魔をしようものなら排除してきたのです。

その中に王子様が好きになった女性がいたようで、そこで私がしていたことが発覚してしまったのです。

怒り狂った王子様は私に処刑を言い渡し、今私はそこへ向かっています。

台の周りには赤い炎が見え、私の首を刺す刃は酷く輝いて見えました。

きっとあの炎は私の身体を消すための炎なのでしょう。

あぁ、これが私の最期なのですね、と思っていると後ろから早く上がれと兵士に押され、処刑台に立たされ首を固定されました。

これで私の人生は終わるのかと、思い目を深く閉じました。

そこからの記憶はございません。

痛みと共に暗闇の中に居たのですから。

死んだあと、こんな風に暗闇の中を彷徨うのですね、と辺りを歩いていますと一点が光輝いている所を見つけました。

罰を与えられた私がそんな輝かしい場所に足を踏み入れて良いわけがないと思い、その方向とは逆方向に足を進めると、暗闇であったはずの空間が一瞬にして明るい空間へと変わりました。



「………え?」



次の瞬間、見知らぬ廃墟で一人小さく座っておりました。

ここはどこなのでしょうと、立ち上がろうにもお腹が空いて立ち上がれません。

少し動けば貧血を起こし目が回ります。

これはどういうことなのでしょう。

何が起きたというのでしょうか。

おそらく自分の手であろうものを顔の目の前に広げ、ぐーぱーぐーぱーと開閉を繰り返してみました。

そこにはモミジのような小さな手のひらが映り込み、その手にはたくさんの切り傷などがついておりました。

見れば両膝はズボンが裂け、穴が大きく開いています。

靴もボロボロで腕も傷だらけです。


現実逃避と言われたらそこまでですが、先ほどまでのことを思い出してみましよう。

私は処刑され、気付いたら暗闇にいたのです。

そこをただただ歩いていた所に光をみつけ、それから避けるように歩いていたら急に辺りが明るくなり、今に至るわけなのですが、さっぱり意味が分かりません。



「…………」



もう、体力の限界のようです。

まさかよく分からない場所でも死ぬことになるなんてどれだけ私は悪いことをしたのでしょう。

これも王子様からの罰なのでしょうか。

あぁ、瞼が重くなってきました。


今度こそ死んでしまったのだと思ったのですが、また目が覚めました。

これは死ぬことさえ許されないという意味合いなのでしょうか。



「あ、起きた」



小さな男の子の声がして横に顔を向ければ、丸々とした目を大きく見開いた茶髪の男の子が私の眠っていたであろうベッドの横にいました。

この子は一体誰なのでしょう。

見たことない子ですが。

それにここは一体どこでしょうか。



「おっちゃん起きたよ」



男の子がカーテンの奥の人物に話しかければ、のそのそと歩く足音が聞こえ、カーテンが豪快に開かれました。

体格のよろしい男性は前が締まり切れていない白衣を羽織り、小さい丸眼鏡を煌めかせ私のことをじっと見てきました。

私は分からないことだらけで警戒心をむき出しにしてしまいましたが、男の子が大丈夫と言ってくれました。



「おっちゃんこんな見た目だけど、腕は確かだから」



「こんな見た目とは酷いな。お嬢ちゃん、どこか痛いとか違和感を感じるような所はあるかい?」



男性にそう聞かれ、違和感といってもどれのことを上げて良いのか分かりません。


この小さな手のことですか?


それとも今の現状ですか?


全て言ってしまいたいですが、何を思われるか分かりませんので言えません。



「……ありません」



「そうかい。とにかく今は休むと言い。何かあったらそこにいる孫に頼めばいい」



「オレパシリでも使い魔でも何でもないぞ」



男の子はそう言って怒っていますが、男性は手を振るだけで聞き入れてくれないようです。

それを見た男の子は大きなため息を吐いてから私に視線を向けました。



「まぁ、良いさ。何かあれば言ってくれ。できることならやってやる」



そう言われた瞬間です。

脳裏にある風景が浮かび上がってきたのです。

私が過去に排除した女性の中で、男性たちがよく集まっていた女性が1人おりました。

王子様だけでなく、他の男性も虜にするなんてなんという魔性な女性なのでしょうと思っておりました。

その中の男性の1人がその女性に今と同じセリフを言っていた風景を思い出しました。

そういえばその男性はこの男の子と同じように茶髪だった気がします。

まさか、その人と同一人物なんてことは…。

いえいえ、あるわけありません。

だって彼はもう青年でしたし、こんな若返っているわけがありません。



「何かあったか?」



黙り込んでしまった私を不思議に思ったのか、男の子は首を傾げ私の顔を覗き込んできました。

私は慌てて首を横に振りました。



「い、いえ、何でもないです」



「なら……良いが」



男の子は後ろにあった椅子に座り直し、端っこに置いていた本を手にして読み始めました。

こんなに小さいのにもう本を読んでいるなんて素晴らしいです。

その姿を見ながら、男の子の後ろにある窓を見ました。

澄み渡った空です。

まるで私が処刑台に上がった日と同じような、雲一つない空。

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