003「防衛、するしかないよね」
視界に広がるありえない光景。俺がコツコツ集めたお宝フィギュアの数々が、跡形もなく消え去っていたのだ。
「俺のお宝はどこ行ったああああーっっ!!」
「うるせえぞっっ!!」
大声のせいで隣人から壁ドンと文句を喰らうが、今はそれどころではない。お宝がどこに行ってしまったのか、緊急かつ性急に聞き出さねばならん。
「おい、アリス! 俺のお宝フィギュアをどこにやった?」
「お宝ふぃぎゅあ?」
キョトンするアリス。この顔は本当に知らなそうだ。
それなら、次はダンジョンコアとかいう、拳大の赤い宝石さんに聞いてみようじゃないか。
『私はコアちゃんです。ダンジョンコアでも拳大の赤い宝石さんでもありません』
「う、うるせえ! 良いから教えろ!」
『……』
「あ~あ、コアちゃん拗ねちゃいましたよ。マスターが怒るから~」
拗ねる? それじゃまるで人間じゃないか。これは機械だろ? それとも今のAIって、拗ねるほど進化してるのか……。
「わ、悪かったよ……コアちゃん」
『良いんですマスター。間違いは誰にだってあります。それと、私は機械ではありません』
「じゃあ、なんだよ?」
『私はダンジョンコアに転生してしまった"元"人間です。ですが、ダンジョンと異世界の知識だけ詰め込まれおり、人間の記憶はほぼないです』
「そ、そうなんですか……で、俺のお宝フィギュアは?」
『ダンジョンとマスターの部屋が繋がる際に、異空間に飲み込まれた可能性が高いです。それを取り返す確率は……0.000001%です』
なんだその天文学的確率は……ほぼ0って事じゃねえか! コツコツ集めた俺のお宝フィギュアが……ごめんよみんなああああーっっ!!
『御愁傷様です。気を取り直して、ダンジョンの説明をしても宜しいでしょうか』
「元気出して下さいマスター!」
こいつら……人ごとだと思って!
ちくしょうっ! ダンジョンの説明だ? ゲームとラノベを、アラサーにもなって愛する俺を舐めるなよ!
「ダンジョンは多重構造型で、上下左右好きに増やせるようになっている。ダンジョンで魔物、もしくは人型生物が入り込みその滞在時間によってDP=ダンジョンポイントを獲得出来る。また、ダンジョンで魔物や人型生物が死んでもDPは獲得出来る。ここまでどうだ?」
『さすがですマスター』
「す、凄いですマスター!」
どうやら合っていたみたいだ。
ふっ……この程度、数々のファンタジー作品とゲームを経験してきた俺からすればチョロいぜ。
『マスター。そういった思考はキモいので、止めて頂けませんか? オタクを否定する訳ではありませんが、思考が繋がっている事を忘れないで下さい』
「あっ、いや、すまん……」
コアちゃんには思考がバレバレだったんだな……うっかりしていた。でもな、俺だけ思考がバレバレなのは納得いかない!
せめて、コアちゃんの思考もこっちに伝わらないと不公平だ。そう思っていると、突然俺の脳内に爆発的な思考の波が襲ってくる。
《マスターの事全部知りたい。マスターの隅々まで観察したい。性感体は? 好きな体位は? 使い魔邪魔だな。なんでこいついるの? ヒロインは私で十分。絶対どっかで人型に変わってやる。そしたらヒロイン交代よ》
「たんまたんま! やっぱり分かんなくて良い! 俺の思考だけ読んでくれれば良いから!」
『そうですか? 残念です』
そこで思考の波は治まった。相変わらず俺の思考はダダ漏れなんだろうが、それはもう良い……自分とは違うもう一つの思考が勝手に流れるのが、こんなに苦痛だとは思わなかった……。
「そんじゃ、ダンジョンについてに戻るか」
「はい! 因みに私は、マスターの命令にはなんでも従いますよ!」
「ほう、ならば全裸になって『ワンッ』と吠えろ」
「分かりました! ……ワンッ!」
「ちょ、ごめんなさい! 本当に全裸になると思わなかったんです! 服を着て下さい!!」
まさかの布を取り去り全裸になって吠えるアリスに、動揺を隠しきれなかった。片手で目を抑え、もう片方でアリスに布の服を急いで渡した。
『マスターの性癖を確認しました。SMプレイが好き』
「確認しなくて宜しい! 因みにこういうハードプレイは好みじゃないから! もっと清純な感じで良いんだ!」
『マスターの性癖を訂正。清純乙女とハレンチプレイ』
「人の性癖を一々記録するな!」
「清純乙女とハレンチプレイ? それをすれば良いのですか?」
「しなくて宜しい! なんなんだお前ら……もう良いからダンジョンの話に戻ろう。それで、俺達のダンジョンは今、どういう状況なんだ?」
『マスターとコアちゃんの愉快なダンジョンは、現在生誕一日目。ただいま二階層です。罠なし、魔物なし、ボス配置なし。突破率……99.9%です。因みに0.1%は、ダンジョンの前で、あーお腹痛い。ダンジョン攻略、明日で良いや。という可能性を考慮した結果です』
「容易い! このダンジョン容易いぞ! 明日にでも攻略されてもおかしくないぞ!」
「ねえコアちゃん! ダンジョンの名前にアリスが入ってないよー! 私も入れてよ~!」
『二人同時に話さないで下さい。ウザい』
辛辣っ! コアちゃん意外と冷たいのね……。
『マスターとコアちゃんの愉快なダンジョン(おっぱいだけが取り柄の使い魔アリスもいるよ)で、宜しいでしょうか』
そ、それはあまりにも……。
「うん♪ ありがとうコアちゃん!」
あ、良いんだ。こいつ多分、天然キャラか。
「で、探索にやって来る奴らはどの位で来ると思う?」
『このダンジョンは現在、森の奥深くに存在するため、探索者及び、魔物がやって来る可能性は低いです。ですが、半年の間にやって来る可能性は……80%です』
半年以内で八割……結構な確率じゃねえか!
という事は、このまま放って置いた場合――
俺の部屋に、異世界の奴が攻めて来るって事かっっ!?
『その通りですマスター。なので、早めの防衛対策をオススメします』
「防衛って言っても……因みにDPは今どれぐらい?」
「500DPですよマスター!」
『ちっ……』
アリスが自信満々に答えると、コアちゃんは不満気に舌打ちをかましている。500DPか……それで現状、何を揃えられるかで初期の防衛対策が決まるな。
その後、コアちゃんに詳しい情報を教えて貰った。
異世界の事とか、ダンジョンにまつわる話とかね。
そこで分かったのは、現在所持している500DPで取得出来る物が、低級の"魔物二体"か"落とし穴"の罠。後は細かな装飾品が少し買える程度だそうだ。
因みに、DPはダンジョンが"生存"していく毎にボーナスが貰えるみたい。初日で500DP。それから十日刻みで獲得出来、生存が長くなればなるほど貰えるDPも増えていくそうだ。
後は実際に現場を見て判断しないと、ハッキリとしたプランは決まらないな。良く机の上だけで物事を考える上司が居たけど、そんな奴ほど現場無視の糞みたいな提案しか出来ないのを嫌というほど見てきた。
自分がそうならないためにも、現場に足を運び物事を考える事は絶対条件だ。そうと決まれば、行きますか!
「よし、今からダンジョン見てくるぞ!」
「了解ですマスター!」
『お気をつけて』
「え、コアちゃん……来てくれないの?」
『私はダンジョンの核なのでここを動く事は出来ません。ですが、マスターの視界と思考は把握していますのでご安心を』
なるほど、俺の家がダンジョンの最深部だからか。でも、コアちゃんに聞きたい事がある時はどうしよう? 紙に質問だけ書いて戻って来てから答えて貰うか?
《大丈夫ですマスター。返答だけマスターの思考に返します》
頭の中に響くコアちゃんの声。そうか、コアちゃんは自分の思考も俺に送れるんだった。これでQ&A(質問と答え)は問題なさそうだ。
「じゃあ、アリス行くか!」
「はい! お供しますマスター!」
いよいよ、押し入れの先に創造されたダンジョンへと、俺は足を踏み入れた――
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