表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/7

002「コアちゃん」

「それで…… 君は誰かな?」


 あの後なんとか女から飛び退き、事なきを得た? と、思う。むっくり起きた女は、特に騒ぎ立てる事もなく、ユラユラと体を揺らしているから大丈夫……だよな?

 

「わたすですかぁ?」

「ああ、君の名は?」


 だいぶ酔ってるな。呂律が回ってない。これでまともな回答が得られるか疑問だが、自分が誰かぐらいは分かるだろ。


「わたすは……"ありしゅ"でし!」

「ありしゅでし? いや、アリスか?」


「そうでし! ましゅたー!」

「ま、ましゅたー? それ、俺の事?」


 首をブンブン振り暫定を示す"アリス"と名乗る女。

 ましゅたーって……"マスター"って、事か?


「俺は君にとってマスターって、事かな?」

「そうでしましゅたー! わたすはダンジョンの管理を任されたちかいまでし! そしてましゅたーは、だんじょんの運営をするだんじょんましゅたーでし!」


 要するに、アリスはダンジョンの管理をさせるための使い魔で、俺はそのダンジョンを総合的に管理運営する"ダンジョンマスター"という事か。


 凄く凝っている設定だな。

 もしかして、ラノベとかゲームとか好きな子か?

 それなら気が合う。是非ともお突き合いしましょう。


「で、アリスちゃんはどこから来たのかな?」

「やめてくだしいましゅたー! わたすのことはありしゅとよびすてにするのでし! わたすはただのちかいまなのでしから!」


 ダメだ。話にならん。まずひらがな率と酔っぱらいの巻き舌じゃ、意味を理解するのがやっとだ。


「とりあえずこれ飲みな」

「ありがとうでし!」


 冷たい水を差し出すと、アリスはごくごくと喉を鳴らし一気に飲み干した。


「かぁーっ! ありがとうございますマスター! お陰でクラクラするのがとれました!」

「お、おお、それは良かった……」


 酔い覚めるの早くね? いや、まだ覚めてないか。もし覚めてたら、自分の言動が恥ずかしくて今頃ジタバタしてるだろ。


「アリスはどこから来たのかな?」

「あそこです!」


 アリスが指差した所は、隣の部屋の一角。

 つまり、俺の寝ている寝室の押し入れだ。


 まさかドラ○もんじゃあるまいし、そんな所から来れる訳ないだろ。やっぱりまだ酔ってるな……まあ、ちょっと面白いから、もう少し聞いてやるか。


「へ~、押し入れがどっかの異世界ダンジョンと繋がってる的な感じかな? しかも、俺の家が最深部でダンジョンマスターの部屋ってか」

「さすがマスター! お話が早くて助かります! そしてこれがダンジョンコアの"コア"ちゃんです!」


 おいおいマジかよ……俺の冗談に乗っかってくるとは予想外だ。それになんだその赤い宝石? 胸の谷間に、良くそんなもの入れといたな……。


「それがダンジョンコア? いや~! 中々面白い設定だね」

『設定ではありませんマスター。私の事はコアちゃんとお呼び下さい』


「へっ、今のって……」

「コアちゃんの声です!」


 赤い宝石が光を放ちながら喋るのを聞いてしまった。

 いやいや、見間違いだし空耳だよきっと!


「コ、コアちゃん?」

『なんでしょうかマスター』


「や、やっぱり喋った!? な、なにこの玩具? 凄い最新だねっっ!」


 そうだ。これは玩具に違いない。アレ○サ的な声だし、こっちの声に反応して返答するAI式の最新玩具だ。


『玩具ではありませんよ。アレ○サでもありません。マスター』

「えっ、今俺、口に出してた?」


『私はマスターと一心同体。マスターの心の声は筒抜けです』

「冗談も完備とか、やっぱり今時の玩具は凄いな~!」


 一瞬焦ったぞマジ。心の声が分かる玩具とかあり得ない。今のはジョークだジョーク。


『ジョークではありません。マスターは、二週間前に抜いたのが最後。アリスとお突き合いしたいと思っています。これで信じましたか?』

「は、はぁ!? な、なんなのこれ!? なんかのドッキリ!? 最近のテレビは素人をガチで騙して楽しんでんのか!!」


「落ち着いて下さいマスター! コアちゃんは嘘付きません! 後、お突き合いとはなんの事でしょうか? 私に出来る事ならさせて頂きますよ!」

「ああ! だったら是非ともお願いしたいね! ドッキリ流せないように、全編モザイクにしちゃうぞこの野郎!」


 我ながら取り乱したと思う。だってこんな事、人生で起こる筈ないと、たかをくくっていたから。


『テレビのドッキリではありません。まだ信じられないようなら、寝室の押し入れをご覧下さい』

「押し入れだ? 良いぜ見てやるよ! どうせそっから、ドッキリ札持った奴が飛び出してくんだろ!」


 啖呵を切って寝室の押し入れを開けに行く。どうせなにもない。あるとしたら、さっきも言った通りドッキリ札の奴が出て来るぐらいだろ。


 寝室である六畳の和室。布団やら箪笥が置いてあるだけのシンプルな部屋。そこの押し入れを勢い良く開け放つ。


 誰が出て来ても良いように、心構えだけはバッチリな筈だった。だが、俺の想像を上回る光景が、押し入れの先に広がっているとは、思いもしていなかった……。


「ちょ……なんだよこれっっ!?」

「『ダンジョンです』」


 俺の後ろでは、コアちゃんを持ったアリスが着いてきて二人でハモっていた。


 そして俺の目の前には――


 無機質でゴツゴツした岩肌が広がる体育館ほどの空間と天井。松明が何ヵ所かに置かれ、暗闇を怪しげに照らしていた。


「嘘だろ……俺のお宝フィギュアコレクションが、なくなってる!!」

『驚くところはそっちかい』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ