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赤ずきんの教訓って

「フェリスッ!!!」


 ジュリの叫び声。


 銃声。


 僕が門番を突き飛ばしたのとその炸裂音は同時だった。


 さっきまで門番の頭があった場所を銃弾が通過した。


「な、なんだ!?」

「チッ、外したか」


 あの女が猟銃を構えながら家へと入ってきた。

 猟師から奪っていたか。



「動くな。手を挙げなさい」


 僕たちに銃を向けて女が言う。


「オッケー、オッケー。分かった」


 なだめるように言いながら手を挙げる。

 状況が分かっていなさそうな門番も僕に従う。


「狼から離れなさい」


 女が狼に近づいていき、頭を蹴飛ばす。


「起きなさい。いつまで寝ているつもり?」

「う、うぅん・・・」


 狼が呻き声をあげる。

 しかし起き上がる気配がない。


「起きなさい! 何をしているの!」

「ぅ・・・」


 起き上がる気配はない。

 ああ、良かった。


「起きなさい! 死にたいのッ!」







「起きないよ」


 本当に良かった。

 僕の()()()()()()は上手く機能したようだ。


「起きないですって! 何をしたの!? い、いいえ。何もしたはずがない・・・。できたはずがない! この家はずっと見張っていた!」

「そうだね。僕が動いたのはもっとずっと前、だからね。狼の口の臭いを嗅いだみなよ」

「口の臭いですって・・・」


 女がしゃがみ込んで臭いを嗅ごうとする。


「酒の臭い・・・?」

「そ。あとさ、素直なのはいいことだけど僕から目線切ったら駄目だよねっと!」


 僕はそう言って女が握っていた猟銃を蹴りつけた。

 猟銃が床を転がっていく。


「あっ!」

「女の人蹴ったりしたくないけど、しょうがないよね。頭とか蹴りつけなかっただけ感謝してよ。

 ちょっと手が痛いかもしれないけど許してね。

 はい、手を挙げてー」


 今度は僕が拾った猟銃を女に突きつける。


「門番さん。ロープあるからあの人縛ってくれる?」

「え? あ、お、おう。何がどうなってるんだ・・・」


 僕が家から持ち出してきたロープを手渡すと門番が目を白黒させながらも従ってくれた。

 流石に状況が分からなくても自分に銃を向けてきた女は危険だというのは分かるのだろう。

 女が縛られ、無力化される。


 縛られた女が悔しそうに僕を睨みつけてくる。


「一体何をしたの」

「今回はとてもやりやすかったよ。猟師を先に無力化されたのは残念だったけど、あそこで鉢合わせたおかげで僕の狙いが戦闘による狼の撃破だと勘違いしてもらえたからね。余計なことされずに済んだ。

 門番さんを連れてきたのがあなたの予想の範囲内にせよ範囲外にせよ、後は猟銃を持ったあなたと、起こした狼で二対二の状況を作ればあなたの勝ちはほぼ決まる。先制で門番さんを落とせればなお確実。


・・・と思ったでしょ?

 違うんだよなぁ。違うんだ。


 僕はね。狼をとっくに無力化してたんだ。


 毒でね」


「毒ですって!? ケーキ屋の小僧がそんなもの・・・」


「あ、あなたが今イメージした毒じゃないよ。青酸カリとかヒ素とかさ。そんなのは勿論入手できない。

 そんなもの使ったら狼の胃の中で赤ずきん死んじゃうし。

 でもさ、忘れてない? 狼って、人間じゃないんだよ。

 人間に無毒でも狼に毒なものなんていっぱいあるんだよ。


 例えばアルコールとか、ぶどうとかさ。

 食べさせると意識を失ったりするんだ。怖いよね」



 女が何かに気づいたようにハッとした顔をする。

 そうそう、勘のいい人は嫌いじゃないよ。


「アルコールに、ぶどう、ですって・・・まさか」

「ぶどう酒ってさ、絶対にこの世界にあるよね。

元々の物語に書かれてるもん」


「でもそんなもの狼にどうやって・・・」

「簡単だよ。元々の物語知らないの? 狼はさ、赤ずきんたちを食べた後、デザートにケーキを食べるんだよ。それにぶどう酒がたくさん入ってようと絶対食べてくれる。

 僕たちが直接干渉しない限り物語の大筋は絶対だ。あなたも、赤ずきんが狼に食べられる未来が変わらないようにそこには関わらないようにしてたでしょ?」


「でもそんなすぐに症状が出るとは限らない」

「それはそうかもね。そこは僕も詳しくないからよく知らない。けどさ、ここは赤ずきん、寓話の世界だよ?

 物語の最後には教訓が示されるんだ。

 教訓だよ教訓。


 僕たちがねじ曲げたこの赤ずきんの物語に教訓があるとすればそれは、

 一、親の言いつけはよく聞いて森で寄り道したりしてはいけません。

 二、犬にぶどうやアルコールを食べさせてはいけません。命に関わります。


 この2つだよ。

 あ、アルコールやぶどうは猫にもあげないでね」



********


「おばあちゃん、どうして口がそんなに大きいの」

「それは、お前を食べるためさぁ!」


赤ずきんはおばあちゃんに化けていた狼にペロリと食べられてしまいました。


「ふぅ、食べた食べた。デザートにこいつの持ってきたケーキでも食べて。さて、一眠りするか」


 狼はその場にゴロンと横たわり、大きないびきを立て始めました。



 それからしばらくしてのことです。


 おばあちゃんの家に何故かケーキ屋さんの男の子と街の門番さん、赤ずきんちゃんのお母さんがやってきました。

 赤ずきんちゃんのお母さんは門番さんを射殺しようとしましたがケーキ屋さんの男の子に阻止されました。

 赤ずきんちゃんのお母さんは眠っている狼さんを起こそうとしましたが、狼さんは目を覚ましません。

 狼さんは食べてはいけないぶどう酒の入ったケーキを食べていたケーキを食べてしまったせいで中毒になっていたのです。


 ケーキ屋さんの男の子と門番さん、猟銃を奪われてロープで縛られた赤ずきんちゃんのお母さんの3人がハサミを取り出し、チョキチョキと狼のお腹を切ると、中から赤ずきんちゃんとおばあちゃんが出てきました。


「ああ、怖かったわ。もう森で寄り道したりしないわ。お母さんの言いつけを破ったりもしないわ」


 赤ずきんちゃんは心に誓うのでした。


「ああ、死ぬかと思った。もうぶどうやお酒を食べたりしないぞ」


 狼さんは心に誓うのでした。

 

赤ずきん編完結です。


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