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赤ずきんちゃん

 目を覚ますと石造りの部屋で僕は小さな木の椅子に座っていた。

「ここはどこ・・・?」

「ここは赤ずきんの世界に決まってるじゃない。 フェリス」


 気怠そうな声とともに赤いふわふわした光が僕の目の前に飛んできた。

 僕はそれを指先で軽くつつく。


「それは知ってるんだけどね。ジュリ。

おじいさんもそう言ってたし。

僕が聴きたかったのはここがどこなのかってこと。加えて言えば赤ずきんの世界で僕は登場人物の誰なのかってことだよ」


 老人曰くこの子は妖精らしい。僕の助手として一緒に物語世界を旅している。

 僕は割と本を読む方なので物語には詳しいのだが、当然知らない物語もある。知らない物語に入ってしまった時なんかにはこのジュリが解説してくれるのでとても助かっている。


「フェリスはね、ケーキ屋の息子みたいよ」

「げっ、マイナーキャラ・・・。というかケーキ屋さんなんて赤ずきんに出てきたっけ・・・?」


「出てくるに決まってるじゃない。赤ずきんはケーキとぶどう酒を持っておばあさんのお見舞いに行くでしょう? ケーキ屋さんがなかったらケーキがなくて困っちゃうわ。フェリスはケーキ屋さんの一人息子で赤ずきんにケーキを売るのが仕事ってことね」

「赤ずきんが自分で作ってるのかと思ってたよ」


「そういうバージョンもあるでしょうけどここはケーキ屋さんでケーキを買うバージョンの赤ずきんってこと」

「バージョンとか言わないで欲しいなぁ」


 バージョンという表現はあまりにも風情がないけれど、ジュリの言いたいことは分かる。

 赤ずきんほど有名な物語であればこれまで数え切れないほどリメイクされている。

 物語の筋を少し修正したものからパロディで何故かホラー物になってしまったものまで色々だ。

 ではオリジナル以外は全て紛い物なのかというとそうではない。一つ一つが作者の魂の篭ったれっきとした物語だ。

 物語に貴賤はないとは老人の言だ。

 人気の差はあるけどのう! と笑ってもいたが。



「バージョンの多い物語をやる時はまずバージョン確認が基本ね」

「はいはい、分かってるよ。じゃあ、この世界のあらすじを教えてもらえるかな」

「仕方ないわね。ここは赤ずきん。寓話の世界よ。あ、寓話ってのは物語の最後に教訓が示される話のことよ。赤ずきんなら『親の言いつけは守りましょう』、ね」





************************


 むかしむかし、あるところに赤ずきんちゃんと呼ばれる可愛らしい女の子がいました。

赤ずきんちゃんはいつも真っ赤なずきんをかぶっているのでみんなから赤ずきんちゃんと呼ばれていました。


赤ずきんちゃんはお母さんと二人暮らしです。

おばあちゃんもいますが、おばあちゃんは街の近くにある森の中のおうちに住んでいます。

ある日赤ずきんちゃんにおばあちゃんから手紙が来ました。

おばあちゃんは病気になってしまったそうです。

赤ずきんちゃんはお母さんと相談しておばあちゃんのところへお見舞いに行くことを決めました。


赤ずきんちゃんは住んでいる街のケーキ屋さんでケーキとぶどう酒を買って、お母さんと門番さんに見送られながら一人で街を出ました。


森を歩いていると一匹の狼が話しかけてきました。


「おやおや、可愛らしい女の子だね。こんな森の中を一人でどこへ行くんだい?」

「おばあちゃんのところへお見舞いに行くの」

「そうかぁ、えらいなぁ。おばあちゃんもきっと喜ぶねぇ。ああ、そうだ! 森の奥にとってもよく効く薬草があるんだ。今度私がおばあちゃんのところへ持っていってあげるよ! そうしたらおばあちゃんもすぐに元気になるさ」

「本当? ありがとう!」


赤ずきんちゃんは飛び上がって喜びました。

おばあちゃんには早く元気になってもらいたいものです。


「本当だよ。とってもよく効くんだ。おばあちゃんのおうちはどこにあるんだい?」

「この道をまっすぐ行って、大きな木のあるところで左に曲がったところにあるの」

「ありがとう、今度薬草を持ってお見舞いにいくよ。

まっすぐ行った大きな木のあるところといえばね、右に曲がって少し進むとたくさん花が生えているんだ。

とっても綺麗なんだ。寄り道してちょっと遊んでいきなよ」

「素敵ね! おばあちゃんに花束を作ってあげられるわ」


狼に手を振って、赤ずきんちゃんはお花畑へとスキップして行きました。


「しめしめ、今日はごちそうだ・・・」

狼がそう呟きますが、赤ずきんちゃんには聞こえません。


「少し遊びすぎちゃったかしら」

少し反省しながら赤ずきんちゃんはおばあちゃんの家にやってきました。

 何故か扉が開いていて首をかしげましたが、まあいいかと思いなおして中に入ります。

「おばあちゃん、赤ずきんよ!」

「おやおや、お入り。よく来たね」

 ベッド中からしわがれた声がしました。


「おばあちゃん声が枯れてるわ」

「病気になってしまったからね」


不思議なことにおばあちゃんは布団を顔までかぶり、目深にずきんをかぶっています。顔がよく見えません。なんだか変な感じがします。


「おばあちゃん、どうして耳がそんなに大きいの」

「お前の声をよく聞くためさ」


「おばあちゃん、どうして目がそんなに大きいの」

「お前がよく見えるようにさ」


「おばあちゃん、どうして手がそんなに大きいの」

「お前をよく掴めるようにさ」


「おばあちゃん、どうして口がそんなに大きいの」

「それは、お前を食べるためさぁ!」


赤ずきんはおばあちゃんに化けていた狼にペロリと食べられてしまいました。


「ふぅ、食べた食べた。デザートにこいつの持ってきたケーキでも食べて。さて、一眠りするか」


 狼はその場にゴロンと横たわり、大きないびきを立て始めました。



それからしばらくしてのことです。


「おや、おばあさんの家から大きないびきがするぞ?

ごめんくださーい」


近くを通りかかった猟師がおばあさんの家にやってきました。

とても大きないびきだったので不思議に思ったのでしょう。


猟師は大いびきをかいて眠っている狼を見つけました。


「ついに見つけたぞ! お前を探していたんだ!」



猟師は鉄砲を構えましたが、すぐに狼のお腹が大きく膨らんでいるのに気づきました。

猟師がハサミを取り出し、チョキチョキと狼のお腹を切ると、中から赤ずきんちゃんとおばあちゃんが出てきました。


「ああ、怖かったわ。もう森で寄り道したりしないわ。お母さんの言いつけを破ったりもしないわ」


赤ずきんちゃんは心に誓うのでした。

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