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No.009 STOのあれやこれや その2

 脳波コントロール。


 VRヘッドセットに埋め込まれた装置が頭の中で思ったことを読み取り、ゲームに反映させる操作方法のことだ。といっても、なんでもできる訳じゃなくて「進め」とか「止まれ」とか簡単な命令にしか対応していない。まだまだ発展途上の技術だ。


 最近のVRゲームのほとんどに取り入られているらしいけど、オンラインゲームで初めて対応したのがこのSTOだったりする。


 頭で思うだけで細かい部分の動きをサポートし、ストレスフリーなゲーム体験を実現。より高い没入感を得られると、STOが人気である理由の一つになっている。


 ただ、あくまでサポートなだけで、操作のほとんどは手に持ったコントローラで行うんだけど。


「それからもう一つ、視線による入力にも対応しているの。で、いまあたしを見ているよね?」


「はい」


「その状態で『ロック』って言ってみて。あ、頭の中でね」


 ぼくは言われたとおりに、頭の中で『ロック』と言う。すると、


「あ、なんか頭の上にカーソルが出てきた」


 黄色い三角錐が片手剣の女の頭上でくるくると回っている。とがった方が頭を向いており、まるで彼女を指し示している様に見える。


「これを『ターゲット』っていうの。カイキさんがあたしをターゲットしている状態だね。すると、相手の名前と簡単なステータスが見えるようになったでしょ?」


 たしかにぼくの視線上には自分のステータスのほかに、片手剣の女のステータスも表示されている。見えているのはHPとレベル、それから名前。


 ぼくはその名前を読み上げた。


「ミズナ……さん。ってことですね」


「はい、そうです。あたしの名前はミズナです」


 片手剣の女――ミズナが、よくできましたとばかりに拍手するから少し照れ臭くなる。


「脳波コントロールはターゲット以外にも色々な操作に対応しているの。たとえばこの拍手もそうだね。ほかにはプレイヤーの喜怒哀楽も読み取ってキャラの表情に反映させているんだって。すごいよねー」


 そう言うミズナの表情は本当に感心している様に見える。これも全部、脳波コントロールがしているのだ。


「というかレベル15ってミズナさんってもしかして……」


「……はい、その通りです。実はまだプレイし始めて大して経ってません……」


 たはは、と今度はミズナの方が照れ臭そうに笑った。


「次はレベルだね。えっとね――」


 そう言うと、ミズナはレベルが上がっている理由を説明してくれた。


 STOでは対人戦で勝ったときにも経験値がもらえるらしい。しかも、ただ単純に経験値がもらえるというわけではない。相手の経験値を奪うのだ。


 双方のレベルによって変動するらしいけど、勝った相手は負かした相手の経験値の数パーセントを奪える。負けたほうは奪われた経験値の量によってはレベルが下がる、なんてこともあるらしい。


 ぼくのレベルは今10になっている。一気に9レベルもあがるなんてあの初心者狩りはけっこう経験値を持っていたらしい。初心者狩りくせに。


 所持金についても同じということだ。ぼくの所持金が増えているのは初心者狩りから数パーセントを奪ったからだ。


「人によってはけっこう鬼畜な仕様だよねー」


 と、間に挟んでミズナは説明を続けてくれた。


 レベルアップによる恩恵は、各ステータスの上昇、新規コンボルートの解放、新規スキルの習得が主だと言う。


 ステータスの上昇はそのままの意味だ。操作キャラの攻撃力などのパラメータが上がる。


 新規コンボルートの解放については、まずこのゲームにはコンボルートというのがあらかじめ設定されている。通常攻撃を組み合わせる、コンボをつなげやすい攻撃の順番のことをコンボルートという。


 ぼくが初心者狩りとの対戦の際に使ったのが基本ルート、そこから派生して別のコンボにつなげられるようになるのが新規コンボルートの解放、ということだ。ルートによってコンボフィニッシュっていう大技までの必要コンボ数が少なかったり逆に多くなったりする。


「ルートの変更によって攻撃のパターンが変わるから駆け引きに使うんだって。上級者の話しだけどね」


 それとコンボルートはあくまで開発側が簡単にコンボを出来るようにするためのシステムだと、ミズナは言う。ルート以外の攻撃でも全くつながらないことはなく、独自のコンボを生み出すプレイヤーもいるようだ。これも上級者の話しだけど。


 新規スキルというのは、要するに攻撃技が追加されるということ。コンボは一撃の攻撃を決められた手順に沿って攻撃していく。つまり三コンボ決めた場合、三回攻撃することになる。対してスキルは連続した攻撃を決まった形でお見舞いできる技となる。


 ただし、スキルの使用には決まったコマンドを入力する必要があるから、ある程度の練習が必要だ。


 ぼくはレベルが10に上がって二つスキルを覚えていた。その一つが<アサルトラッシュ>というスキルで、前進しながらの斬撃のあと流れるような三連撃を繰り出し、最後に強烈な突きで相手を吹き飛ばす、と説明書きにある。


「まずはこんなところかな」


 と言って、ミズナは説明を終えた。


 さて、それでは主題であったフレンド登録をしよう、というところで足止めを食らった。ミズナの言う通りにフレンド画面を表示しようとしたところで、なぜかアイコンがグレーアウトしていてまったく反応しないのだ。


「あーやっぱりか。そりゃこんなところに居るんだもんね」


「どういう意味?」


「フレンド登録はさ、三国のうちどこでもいいから初めの王国イベントをクリアしないとできないの」


「対人戦はいきなりできるのに?」


「そう。いろいろ説明が不足しているところといい、この辺の詰めが甘いんだよね。このゲーム」


 そう言ってミズナは笑う。皮肉を言いながらもその様子から本当にこのゲームが好きで楽しんでいる。そんな印象を受けた。


 正直言うとすぐにでもタツ兄を探したい。だけど、手掛かりも無ければ、約束を破るのも気に入らない。まずはミズナとフレンドになるのを優先しようと思う。


「わかった。じゃあその王国のイベントってのをやってきます。初めの王国イベントってことは、要はストーリーを進めればいいってことですよね?」


「そうだね。――でもその前にもう一つお願い聞いてもらってもいいかな?」


「お願い?」


 ここまで親切にしてもらっておいて断る事なんてできない。でもぼくに出来ることなんて何があるんだろう。


「いいですけど、ぼくまだ始めたばかりでアイテムもお金も全く持ってませんよ」


「だいじょうぶだいじょうぶ。そうゆうのじゃないから」


 そして、ミズナはお願いを口にする。それはぼくの想像外のものだった。


「あたしと対戦してほしいの」


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