No.008 STOのあれやこれや
ゲームを開始すると昨日ログアウトした場所と同じ場所に戻った。開けた草原。ログアウト前と同じ光景だ。けれどすべてが同じということは無く変わっているところもある。
人がいないのだ。プレイヤーが全く見当たらない。ただ、不思議なことではない。昨日は初心者狩りが騒ぎを起こしていたから野次馬がいたのであって、それがなければこんな序盤も序盤のフィールドなんてこんなものだろう。
「さてこれからどうしようかな。タツ兄を探すのはいいけど、なんにも考えてないんだよね。――ってあれ?」
自分のステータスを見て驚いた。ぼくの視線には常にHPなんかの情報が表示されているのだけど、レベルが上がっているのだ、なぜか。昨日まではレベル1だったのに。
あと所持金も増えている気がする。モンスターと戦ったりしていないはずなのに、なんでだろう?
気になりはするけど、ここで考えていても仕方がない。とりあえず、ナビゲーターである妖精の言葉に従って、ここから一番近い町へと向かうことにした。
町にはたいして歩くことなくたどり着いた。町というか村のようなその場所は、決して広くない土地に木造の建物が多く並んでいる。NPCと思われるキャラクターもちらほら見えた。それと、プレイヤーの姿も。
その数は昨日の野次馬のときよりも随分多い。もしかしてNPCの数よりも多いかもしれない。忙しそうにずっと走り回っている人もいれば、なにもせずぼーっと突っ立っている人もいる。
その中でもひと際目を引くのが、ボイスチャットとテキストチャットの両方を使ってなにやら呼び掛けている人たちだ。どうやらギルドへの勧誘らしい。
ギルドっていうのはプレイヤー同士が集まって組むチームのこと。ギルド対抗のイベントもあるらしいから、なるべく人を増やすために初心者が通るこの町で勧誘しているのだろう。
そのギルド勧誘をしていたプレイヤーの中に見覚えのある人がいた。昨日、初心者狩りに負けた片手剣の女キャラのプレイヤーだ。
あっちもぼくに気がついたのか、手を振りながら近づいて来る。
やばい、と思う。これはもしかしてギルドへの勧誘がくるだろうか? だけど、ここで逃げ出すのもおかしい気がする。
「こんにちは! ねぇキミ、昨日初心者狩りの人に勝った人だよね?」
片手剣の女は、十代中頃くらいの見た目にあった、少女っぽい声で話しかけてくる。
けれど、その見た目に騙されてはいけない。キャラの見た目とプレイヤーは別物だからだ。女キャラを中年の男が操作していることはよくあること。声にしたってボイスチェンジャーでどうとでもなる。
だからぼくはなるべく失礼が無いよう応じた。
「ええ、そうですけど。そういうそちらは、あのとき初心者狩りに負けた人ですよね」
何を言っているのだぼくは。
ついつい、勝った人? と、聞かれたものだから同じような聞き方をしてしまった。負けた人って失礼にもほどがあるじゃないか。
「あ! いや、えっと、違くて……!」
「あはは。すごいストレートに言うね。そうです、初心者をかばいながらも負けちゃった人です」
そう返す片手剣の女は特に気にしていない様子だ。けれど、一応は謝った方がいいとぼくは思った。
「えっと、すみません。変な言い方をして」
「いいよ、気にしてないから。あ! だったらね、お詫びということであたしのお願いを聞いてもらおうかなー」
嫌な予感がした。なんとなく次のセリフが分かる。そしてその予想は当たっていた。
「ギルドってもうどこかに入った? まだならうちのギルドに入ってくれないかな?」
やっぱりだ。こうなる気がしたんだ。悪いけど、ぼくにはギルドに入る気は無い。こうゆうのはあいまいな返事をするのが一番よくないと、きっぱり断ることにした。
「すみませんけど、ギルドには入らないようにしているので」
「そっか。それならしょうがないよね」
意外にもあっさりと引いてくれた。変に付きまとわられなくてほっとする。
「だったらさ、代わりにフレンドになってくれないかな」
「フレンド?」
「そう。これも何かの縁だからさ、また一緒に遊べないかなーって。これでもSTOの先輩だから色々と教えることもできるし。どうかな?」
フレンドか。それならいいかも。分からないことが多いから教えてもらえるのはありがたい。
「あ、別に粘着とかはしないよ? 嫌になったらいつでもフレンド解除してくれてもいいし」
「別にそんなことはしませんよ。よろしくお願いします。フレンド」
「ホントに? よかったー。じゃあ……カイキさんだね。これからよろしくね」
「カイキ?」
誰だ? と一瞬思ってすぐに思い出す。そういえばキャラ作成時にそんな名前を付けたんだった。
七海の海に、樹でカイキ。単純なのはしょうがない。ぼくはキャラ名を考えるのがどうにも苦手なんだ。
それはいいとして、もう一つ気になることがある。
「なんでぼくの名前が分かったんですか?」
他のオンラインゲームなんかだと、プレイヤーの頭上に名前が書いてあるものだけど、今目の前にいる彼女にはそれがない。他のプレイヤーもそうだった。
「え? ――そっか、そこからかー。レベルはもう10にもなっているのに」
「そうだ、レベル。レベルもいつの間にか上がってるんですよ。戦闘なんて初心者狩りとのやつしかしてないのに」
「うんうん。わかるよ。このゲーム、その辺の説明が不親切だからね。順番に教えてあげるよ」
そう言って、まずは名前に関してだけど、と説明してくれる。
「このゲーム、手に持っているコントローラ以外にも操作する方法があるって知ってる?」
「脳波コントロール、ですよね」
「うん。そうそれ」