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No.004 これまた待ちに待った初戦闘!

 他のプレイヤーが一斉にこちらを向く。


「あ、あれ? ――しまった、マイクの音量が最大になってる……」


 慌てて設定を変えていると、最悪なことにさっきの声は初心者狩りの男にも聞こえていたようで、


「あん? なんだよおまえ。いまなんつった?」


 怒ったような声を出しながら近づいて来た。表情もちゃんと怒ったような感じになっている。


「はは、いやぁ。ちょっと設定があれで……。もう大丈夫だよ――じゃない大丈夫ですよ」


 ネット上では礼儀が大事だって学校で教わった。画面の向こうにいるのは他人なのだ。丁寧に話さないと。


「そんなことを聞いてんじゃねえよ。いま俺のことをカッコ悪いって言ったか?」


「いやぁそれはなんというか言葉のあやで……」


「言ったかどうかって聞いてんだよ俺は! ああ? 日本語通じないのおまえ」


 言ったかどうかと言われれば確かに言った。だから素直に謝る事にした。


「……すみません。言いました」


「ふん。初めからそう言えばいいんだよ」


 それにしても。こっちは丁寧に話してるっていうのに、この男はお構いなしに乱暴な口調で話してくる。ちゃんと学校に行ったんだろうか?


 だんだん、ぼくばかり丁寧に話しているのが馬鹿らしくなってくる。


「でも、言わせてもらいますけど、初心者狩りなんてカッコ悪いのは本当ですよ」


「なんだと?」


「だってそうじゃん。ゲーム人口なんて多ければ多いほどいいに決まってるのに、せっかく入ってきた初心者を追い出すようなことをするのってバカげてるでしょ」


「てめぇ、俺が、バカだってぇ……」


 ずっと起こり顔だった初心者狩りはそこで何かに気付いたのか、急にニヤリとした表情に変わる。


「なんだよおまえ。レベル1じゃねえか。しかも今始めたばっかりの」


「……そうだけど、それが?」


「だったら――」


 突然、目の前にウィンドウが表示される。内容は「ガローさんから対戦を申し込まれました」というもの。一緒に「承諾」「拒否」のボタンもある。ガローというのは初心者狩りの名前だろう。


「俺と戦え。負けたほうが頭を下げるってことで、どうだ」


 どうやら、ぼくを初心者と見るや狩ってしまおうと、そうゆうつもりらしい。


「どうだって、ぼくの話し聞いてた? だからそうゆうのが――」


「さっさと承諾を押せって言ってんだよ! 逃げようったってそうはいかねぇぜ。どこまでも追いかけてやるからな。臆病者の方が、いたぶりがいがあるからなぁ!」


 急に大声出して脅しかけてくる。別に怖くはないが、それよりもある言葉がぼくの神経を逆なでる。


 逃げる?


 臆病者?


 何を言っているのかこいつは。ぼくがそんなことするわけがない。


 普段言われるのはなんとも思わないが、いまのような……そう、ゲームで言われるのは我慢ならない。しかも格ゲーでなら、なおさらだ。


 そこまで言われて、挑戦を受けないのは格闘ゲーマーの名折れだろう。


「いいですよ。受けますよ、その勝負」


 さきほどのウィンドウにある「承諾」にカーソルを合わせて、押そうとした瞬間、


「ちょっとまった!」


 声が止める。声の主はさっき負けた片手剣の女だった。


「そんな勝負受けることないよ。やめときなよ」


 言いながらこちらへ近づいて来る。さっき別の初心者の人をかばっていたけど、きっと優しい人なんだと思う。


 けれど、ぼくにその優しさは不要だ。


「負けるのが分かってるのにやる必要ないよ。だって――」


 なおも何か言おうとする女プレイヤーを制止するように、ぼくは言葉をかぶせる。


「初めから負けると思って戦う格闘ゲーマーなんかいるかよ」


 構わず承諾のボタンを押す。


 それ気付いたのだろう。彼女は何も言わずしぶしぶといった様子で離れて行った。


 さぁ、これから対戦が始まる。いつもながらこの高揚感は大好きだ。


 初めて戦う相手。いったいどんな戦法を使うのか、楽しみでならない。


 しかし、一向に対戦は始まらなかった。


 あれ? なんでだろうと、首を傾げるぼくに、初心者狩りが言う。


「おい、武器を抜け。じゃないと始まらないだろうが」


 そういえばチュートリアルでもそんなことを言っていた。よく見れば初心者狩りもいつの間にか武器を手に持っている。


「あはは。ごめんごめん」


「はっ。こりゃあマジモンの初心者だぜ。楽勝だな」


 周りにいたプレイヤーからも苦笑じみたものが聞こえ、すこし恥ずかしい。


 ぼくはあわてて武器を構えるボタンを押す。ぼくのキャラが武器を構えるのが見えたところで、対戦開始のカウントダウンが始まる。


 3、2、1とカウントが減っていき画面いっぱいに「FIGHT!」と表示される。


 開幕、初心者狩りは無遠慮にぼくとの距離を詰めてくる。しかも武器を無意味に振り回しながら。しかしその足取りはゆっくりだ。


「はは。勘違いおバカちゃんが何秒もつのか見ものだなぁ」


 初心者狩りが近づいて来る。武器が振られ斧が目の前を横切るたびすこし感動する。さすがVRだ。本当に目の前で斧を振られている様な気がして、すこし怖いくらいだ。


 そんなことを思いながらも相手をよく観察する。


 初心者狩りの武器は斧で、しかも結構大きい。対してこっちは片手剣。振り下ろした際の威力は比較にならないだろう。


 けれどこれは現実なんかじゃない。ゲームだ。しかも格闘ゲームなんだ。武器の重量も筋力の差も関係なければ、当たったところで痛くも無い。


 初心者狩りが振り上げたところで、ぼくは前に出る。斧の軌跡に自ら入る。


 しかし、斧は軌跡通りの弧を描くことは無かった。


 ぼくに接触した瞬間に大きく弾かれたのだ。


「なっ!」


 初心者狩りの驚きの声と同時に、大きく体制を崩したその瞬間をぼくは見逃さない。


 ジャストガード。このゲームにおけるテクニックの一つ。


 通常のガードだとダメージを軽減し仰け反りを無効にするだけだけど、相手の攻撃が当たる瞬間にガードすると、ダメージをゼロにしつつ、相手の体勢を大きく崩すことができる。


 当たる瞬間とは、具体的には接触から4フレーム前。時間にして大体0.1秒満たないぐらい。その一瞬ともいえる時間にぼくは合わせたのだ。


 すぐさま攻撃へ転じる。ぼくの横なぎが初心者狩りを捉えた。ヒットしたのをちゃんと見てすぐさま追撃の縦切りをお見舞いする。


 さらに攻撃を加えようと思ったけど、攻撃二発で相手との距離が開いてしまった。すかさず後方へと飛び間合いを取る。


「はは。ビギナーズラックってのは本当にあるもんだな」


 いきなり二発も攻撃を食らっても初心者狩りはそれを偶然と片付ける。


 またがむしゃらに攻撃を仕掛けてくる。攻撃の際に少しずつ前進する相手に合わせて、ギリギリ間合いから外れるように後退する。次第に初心者狩りの前進速度は速くなるもこちらもそれに合わせて後退する。


「なんでだ? なんで当たらない、くそったれが!」


 激しい言葉と同時にだんだん雑になる攻撃。画面越しにイライラが伝わってくるようだ。


 後退を続けながらも観察は怠らない。すべてはタイミングが重要だ。振りの遅い斧だけれども確実に攻撃を当てられる方法を取る。


 そのときはすぐに来た。狙っていた振り下ろしによる攻撃に、体半分横へずれる。すかさず前進。すぐ横を通過する斧には目もくれず、初心者狩りへと剣を振る。


 また二撃ほど入れたところで最後に蹴りをお見舞いする。


 蹴りの効果で吹き飛ぶ初心者狩り。受け身に失敗し仰向けで倒れたところに、こんな言葉を贈った。


「格ゲーは、なによりも冷静さを失った方が負けなんだぜ」


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